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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第六章「悪魔と呼ばれた者」

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第140話 封印核

二時間——登った。


足が——重かった。


息が——苦しかった。


でも——ベックは、迷わなかった。


「……もうすぐです」


「どのくらいですか」


「この岩を——越えれば」



大きな岩を——越えた。



そこに——あった。



広い——岩場だった。


平らだった。


中央に——何かがあった。


岩の割れ目から——光が、漏れていた。


青白い光だった。


脈打つような——光だった。



「……あれか」


ガイウスが——言う。


「ええ」


ベックが——答える。


「封印核です」


「見た目は——想像より、地味ですね」


メイラが——言う。


「そうですね」


「もっと——大きいものかと思いました」


「核そのものは——岩の下にあります」


「見えているのは——漏れている光だけです」


「岩の下に——どのくらい深いんですか」


「……わかりません」


「ガウスの記録でも——そこまでは」



セリスは——中央の光を、見ていた。


青白い光が——脈打っていた。


規則的だった。


まるで——息をしているようだった。



「……ノイエ」


小さく、呼ぶ。


『……はい』


「感じますか」



返事が——なかった。


「……ノイエ?」



少し——経って。


『……はい』


返ってきた。


でも——いつもと、少し違った。


声が——薄かった。


「……大丈夫ですか」


『……』


また——間があった。


『……近い、です』


「……ええ」


『……押し返される感覚が——とても、強い』


「痛いですか」


『……痛い、という概念が——私に当てはまるかどうか』


『……わかりません』


『ただ——苦しい、と思います』



セリスは——剣に手を当てた。


「……無理をしなくていい」


「ここにいるだけで——十分です」


『……いいえ』


「え?」


『……ここまで来ました』


『……あなたが——来たかった場所です』


『……私も、います』



(……私も、いる)


(ノイエが——そう言った)



「……ありがとう」


『……はい』



ベックが——岩場の端に、荷物を下ろした。


機材を——出し始める。


「……何をするんですか」


セリスが——聞く。


「計測します」


「何を?」


「封印の強度と——補強の進行状況です」


「補強が——どのくらい進んでいるか、わかるんですか」


「大体は」


ベックが——器具を取り出した。


小さな——石が付いた棒だった。


「……それは」


「魔導石を使った計測器です」


「施設にいた頃に——作りました」


「持ち出したんですか」


「……一つだけ」


「他の人には——言わないでください」


「わかりました」



ベックが——棒を、光の方向に向けた。


石が——反応した。


青白く——光った。


「……今の状態は」


ベックが——目を細めて、石を見た。


「補強は——止まっています」


「止まっている?」


「ええ。アスタルテが消えてから——補強の指示が、なくなったようです」


「施設の兵が——迷っている、と言っていた理由がわかります」


「……誰が補強を指示していたんですか」


「アスタルテ経由で——神からの指示が来ていたようです」


「その指示が——なくなった」


「だから——止まっている」



「……今が、機会だ」


ガイウスが——言う。


「ええ」


「補強が止まっている間に——何かできるか」


「何をするつもりですか」


ベックが——セリスを見た。


「補強を——妨げる装置を、壊します」


「場所は」


「施設の中にあります」


「中に入れますか」


「……難しい」


ライラが——言う。


「兵が増えている」


「正面からは、無理だ」


「裏から入れますか」


「……調べる必要がある」


「一日——かかるかもしれない」



「もう一つ——方法があります」


ベックが——言った。


「何ですか」


「核に——直接、干渉する方法です」


「どういうことですか」


「ここから——核に、力を注ぐことができれば」


「補強の方向とは逆の力を——加えることができます」


「逆の力を加えると——どうなるんですか」


「封印が——少し、弱まります」


「……それは」


「ノイエにとって——良い方向です」


「でも——帝国にとっては、困る方向です」


「封印が弱まれば——魔導石の力が変質する」


「帝国の根拠が——揺らぐ」



「……その方法は」


セリスが——言った。


「誰がやるんですか」


「ヴァルキリーにしか——できません」


「記録にそう書いてありました」


「ヴァルキリーだけが——封印の力に、直接触れられる」


「他の者が近づくと——体に影響が出るが」


「ヴァルキリーは——影響を受けない」



「……どうやってやるんですか」


「剣を——核に向けて、力を放つだけです」


「ノイエの力を——核に注ぐ」


「それだけですか」


「それだけです」


「……ノイエへの影響は」


「……わかりません」


ベックが——正直に言った。


「記録には——そこまで書いていなかった」


「かもしれない、という話です」


「試したことは——ないんですね」


「ないです」



セリスは——ノイエに聞いた。


「……ノイエ」


『……はい』


「今の話——聞いていましたか」


『……聞いていました』


「核に力を注ぐことについて——どう思いますか」



沈黙。


少し——長かった。



『……やってみます』


「大丈夫ですか。今も——苦しいと言っていた」


『……それとは、別の話です』


「別の話?」


『……ここまで来た目的があります』


『……やってみます』


「無理をしなくていい」


『……無理では、ありません』


『……やりたい、と思っています』



(……やりたい、と思っている)


(ノイエが——そう言った)


(命令じゃない)


(自分で——やりたいと思っている)



「……わかりました」


セリスが——立ち上がった。


「やってみます」



岩場の中央へ——歩いていく。


青白い光が——近づいてくる。


脈打っている。



「……セリスさん」


メイラが——言う。


「大丈夫ですか」


「大丈夫です」


「本当に?」


「……今のところは」


「何かあったら——すぐに言ってください」


「ええ」



光の近くに——立った。


岩の割れ目から——光が漏れている。


間近で見ると——もっと、脈打っていた。


規則的に。


ゆっくりと。



剣を——構えた。


「……ノイエ」


「一緒に——やりましょう」


『……はい』


「力を——核に向けて」


「補強とは逆の方向に」


『……了解しました』



力が——走った。


剣から——光が出た。


青白い光と——違う色だった。


銀色の光が——岩の割れ目に向かった。



岩が——少し、震えた。


光が——一瞬、揺れた。


脈打ちが——乱れた。



「……今です」


ベックが——言う。


「もう少し——続けてください」


「わかりました」



力を——続ける。


剣が——震えていた。


手が——冷たくなってくる。


でも——続けた。



そして。


「……っ」


ノイエの声が——乱れた。


『……』


「ノイエ?」


『……少し』


『……苦しい』


「止めますか」


『……もう少し』


『……もう少し、続けます』


「無理をしなくていい」


『……あなたが——ここまで来た』


『……私も——やります』



続けた。


三十秒ほど。



「……十分です」


ベックが——言った。


「変化が——出ました」


セリスが——力を止めた。


剣が——静かになった。



「……ノイエ」


「大丈夫ですか」



少し——間があった。



『……大丈夫、です』


「苦しくないですか」


『……少し——疲れました』


「疲れた」


『……はい』


「……そうですか」


「少し——休みましょう」


『……はい』



(……疲れた、と言った)


(ノイエが)


(昨日——疲れという概念が設計に含まれているかどうか分からないと言っていた)


(でも——今日は)


(疲れた、と言った)



ベックが——計測器を見ていた。


「……変化しています」


「補強の方向が——逆になっています」


「しばらくは——補強が進みにくくなります」


「しばらくとは——どのくらいですか」


「わかりません。でも——効果は出ています」


「……よかった」



「完全に止めるには——また来る必要があります」


「何度か」


「わかりました」


「今日は——ここまでにした方がいいでしょう」


「ノイエへの負荷が——大きかったはずです」


「……ええ」


「ありがとうございます、ベック」


「いいえ」


ベックが——計測器を片付けた。


「……ガウスに——よろしく伝えてください」


「伝えます」


「いつか——また会えるといいですね」


「……ええ」


「必ず」



下山を——始めた。


登りより——下りの方が、膝に来た。


メイラが——「足が笑ってる」と言った。


「笑っていない」


ガイウスが——言う。


「筋肉が——疲労しているだけだ」


「同じですよ」


「違う」


「……どう違うんですか」


「笑っていない」


「……ガイウスさんて、そういうとこありますよね」


「どういうところだ」


「言葉に——こだわるところ」


「正確に言うことが——重要だ」


「まあ——そうですね」



下りながら。


「……ノイエ」


「今日——ありがとうございました」


『……はい』


「疲れましたよね」


『……はい』


「今日は——ゆっくり休んでください」



少し——間があった。



『……ゆっくり休む、というのは』


『……私にも、できるのでしょうか』



セリスは——少し、笑った。


「できると思います」


「少なくとも——今日は、十分やりました」


「だから——休んでいいです」


『……わかりました』



山が——少しずつ、遠ざかっていく。


でも——封印核は、そこにある。


また——来る。



空が——広かった。


夕方の光が——山肌を、オレンジに染めていた。



四人で——下り続けた。


止まらずに。


前に。

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