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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第六章「悪魔と呼ばれた者」

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第139話 核心へ

夜明け前から——寒かった。


岩場が——凍っていた。


息が——白く、濃くなっていた。



「……手が、悴む」


メイラが——言う。


「手袋をしろ」


ガイウスが——言う。


「持ってません」


「なぜ持っていない」


「山に入るなんて——思っていなかったから」


「……準備不足だ」


「そうですね」


「これを——使え」


ガイウスが——布を出した。


「手に巻け。指が動けば——十分だ」


「……ありがとうございます」


「礼はいらない」


「効率ですよね」


「そうだ」


「……でも、ありがとうございます」


ガイウスが——何も言わなかった。



朝食を——済ませた。


火が——昨夜より、すぐに消えた。


空気が——薄い。


酸素が——少ない。


「……頭が、少し痛い」


メイラが——言う。


「高山だからだ」


ライラが——言う。


「慣れるまで、痛むかもしれない」


「どのくらいで慣れますか」


「人による」


「……わかりました」


「無理に動くな。痛みが強くなったら——言え」


「はい」



出発した。


今日の道は——昨日より、さらに険しかった。


岩が——大きい。


隙間が——狭い。


一人ずつ——通り抜ける場所もあった。



「……こんなところに——封印核があるんですか」


メイラが——岩の隙間を抜けながら言う。


「あるらしい」


「あるらしい、か」


「ガウスの記録では——この山脈の深部だ」


「深部というのは——どのくらい深いんですか」


「……まだ、わからない」


「わからないんですね」


「山の中は——記録通りにはいかない」


「ライラさんがそう言ってましたね」


「そうだ」


「……なんか、冒険みたいですね」


「冒険ではない」


「わかってますよ。でも——なんとなく」


メイラが——また、岩を掴んだ。



午前中の半ば。


セリスが——立ち止まった。


「……ノイエ」


小さく、呼ぶ。


『……はい』


「今——何か、感じますか」



少し——間があった。



『……感じます』


「昨日と——違いますか」


『……違います』


「どう違う?」


『……引っ張られる感じが——変わりました』


「変わった?」


『……引っ張られる、というより』


『……押し返される、ような』


「押し返される?」


『……はい』


『近づくほど——遠ざけられる感じが、します』



「……それは」


セリスが——少し、考えた。


「封印が——拒否しているということですか」


『……そうかもしれません』


『私を——封じているものが』


『近づくことを——嫌がっているのかもしれません』


「……封印が、意思を持っているみたいに聞こえます」


『……そうは思いません』


『ただ——力が、そういう方向に働いている』


「……それが、強くなっている?」


『……はい』


「体は——大丈夫ですか」


『……今は、問題ありません』


『ただ——近づけば、変わるかもしれません』


「……わかりました」


「教えてください。何か変わったら」


『……はい』



全員に——伝えた。


「ノイエが——押し返されるような感覚があると言っています」


「封印の力が——近づくほど、強くなっているようです」


ガイウスが——頷く。


「……想定内だ」


「そうですか」


「封印とは——そういうものだろう」


「封じているものを——近づけないようにする力がある」


「……そうですね」


「セリスへの影響は」


「今のところ——ありません」


「でも——近づけば、変わるかもしれない」


「注意しながら——進む」


「わかった」



また——登り始めた。



昼前。


岩が——大きく、張り出した場所に来た。


その陰に——人がいた。



全員が——止まった。


ライラが——短剣に手をかける。


でも——すぐに、離した。


「……民だ」


低く——言う。


「兵ではない?」


「ない。荷物を持っている。武器はない」



岩の陰に——男が一人、座っていた。


四十代くらいだった。


眼鏡を——かけていた。


紙を——広げていた。


何かを——書いていた。


セリスたちに気づいて——顔を上げた。


驚いた顔をした。


でも——逃げなかった。



「……人が来るとは、思わなかった」


男が——言った。


「こちらも——いるとは思わなかった」


ライラが——答える。


「何をしているんですか」


セリスが——聞いた。


男が——紙を見た。


「……調査です」


「何の?」


「山の——地質調査です」


「帝国の研究者ですか」


男が——少し、止まった。


「……以前は、そうでした」


「今は?」


「今は——」


男が——眼鏡を直した。


「独立して、やっています」


「独立?」


「帝国の施設を——出ました」


「……なぜですか」


「研究の方向性が——合わなくなったので」



「……ガウスを、知っていますか」


セリスが——聞いた。


男が——止まった。


「……なぜ、その名前を」


「知っているんですか」


「……知っています」


「同僚でした。以前」


男が——セリスを見た。


「あなたたちは——ガウスと、関係がありますか」


「直接、会いました」


「……そうですか」


男が——紙を畳んだ。


「ガウスは——どうしていますか」


「身を隠しています。でも——元気だと聞いています」


男が——少し、息をついた。


「……よかった」


「あの人は——正しいことをしました」


「告発のことですか」


「ええ」


「私は——できなかった」


「告発を」


「……」


「でも——施設は、出ました」


「それが——私にできる、精一杯でした」



「……一つ、聞いてもいいですか」


セリスが——言った。


「何でしょう」


「封印核の場所——わかりますか」


男が——セリスを見た。


しばらく——見ていた。


「……あなたたちは」


「封印核に——何をするつもりですか」


「補強を——妨げます」


「壊すのではなく?」


「壊すのではなく——補強させない」


男が——また、少し、間を置いた。


「……なぜ」


「補強が進めば——魔導石の力が、維持される」


「帝国の支配の根拠が——維持される」


「それを——変えたい」


「帝国を——壊すのではなく」


「変えるために」



男が——眼鏡を直した。


「……ガウスと——同じことを言っていますね」


「そうですか」


「ガウスも——壊すのではなく、変えると言っていた」


「……ガウスらしい」


「そうです」


男が——立ち上がった。


「……案内します」


「え?」


「封印核の場所を——知っています」


「施設にいた頃に——調査しました」


「……いいんですか」


「ガウスの友人なら——信じます」


「それだけの理由ですか」


男が——少し、笑った。


「それで、十分です」



男の名前は——ベックといった。


「……よろしくお願いします」


「こちらこそ」


ベックが——荷物を担いだ。


「歩きながら——話しましょう」


「ええ」



歩きながら。


「……封印核は——どのくらい上ですか」


「二時間ほどです」


「施設の兵は——近くにいますか」


「核の直近には——いません」


「なぜ?」


「近づくと——体に影響が出るからです」


「人間に?」


「ええ。長時間、近くにいると——頭痛や、意識の混濁が起きます」


「……それは」


「ヴァルキリーには——影響がないようですが」


「なぜ知っているんですか」


「記録に——あります。帝国の研究記録に」


「帝国は——ヴァルキリーのことを、研究していたんですか」


「していました」


「……どの程度まで」


「かなり詳しく」


ベックが——少し、間を置いた。


「アスタルテが——提供した情報が、元になっています」



セリスは——止まった。


「……アスタルテが」


「ええ。アスタルテは——ヴァルキリーの覚醒プロセスを、帝国の研究者に伝えていました」


「なぜ」


「……わかりません」


「でも——伝えていた」


「ヴァルキリーが覚醒するほど——封印が弱まる」


「封印が弱まるほど——魔導石の力が変質する」


「帝国は——その変質を、恐れていた」


「だから——研究していた」



「……矛盾していますね」


セリスが——言った。


「何が?」


「アスタルテは——神の側だった」


「神は——封印を維持したいはずだ」


「でも——ヴァルキリーの覚醒を促す情報を、帝国に伝えた」


「帝国が覚醒を恐れて研究すれば——補強が進む」


「補強が進めば——封印が維持される」


「……つまり」


「アスタルテは——帝国を利用して、封印を維持させようとしていた」


「でも——ヴァルキリーの育成は続けていた」


「……」


「どちらが本当の目的だったんだろう」



ベックが——少し、考えた。


「……私にも、わかりません」


「でも——アスタルテが消えた今」


「帝国の研究は——方向を失っています」


「施設の兵が増えているのは——迷っているからかもしれません」


「何をすべきか——わからなくなっているから」


「……なるほど」


「だから——今が、機会です」


「補強が——止まっているかもしれない」


「その間に——核に近づけば」


「何かが、変わるかもしれません」



「……行きましょう」


セリスが——言った。


「ええ」



五人で——また、登り始めた。


ベックが——先頭を歩いた。


道を——知っていた。


足が——慣れていた。



「……ノイエ」


歩きながら——呼ぶ。


『……はい』


「押し返される感覚——強くなっていますか」


『……はい』


「でも——大丈夫ですか」


『……今は、問題ありません』


「何か変わったら——すぐに言ってください」


『……はい』


「一緒に——行きます」


『……はい』



山が——上へ、上へと続いていた。


空気が——さらに冷たくなっていく。


息が——少し、苦しくなってくる。


でも——足が、動いていた。



二時間後が——近づいていた。

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