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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第五章「神と魔神の影」

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第138話 山の中へ

夜明け前に——起きた。


岩場が——冷えていた。


息が——白かった。


空が——まだ、暗かった。


でも——東の端が、少しだけ明るくなり始めていた。



ガイウスが——すでに起きていた。


地図を——見ていた。


「……今日から、入るか」


「ええ」


「道は——ない」


「岩場を登るしかない」


「わかっています」


「メイラは——体力的に問題があるかもしれない」


「大丈夫です」


メイラが——後ろから言った。


「起きていたの?」


「さっき目が覚めました」


「寒くて」


「そうか」


「でも——大丈夫です」


「登ります」



ライラが——戻ってきた。


「夜の間——異常はなかった」


「施設の兵は?」


「動いていない」


「わかった」


「今日中に——施設の射程外まで、上に入る」


「そうしないと——発見されるリスクがある」


「どのくらい上れば、射程外ですか」


「……三時間ほどだ」


「わかりました」



朝食を——簡単に済ませた。


パンと——水だけだった。


「……今日は、これだけですか」


メイラが——言う。


「山の中では——荷物を軽くした方がいい」


「そうですね」


「帰りも——考えなければならない」


「消費を——計算する」


「……ガイウスさんらしい」


「効率の問題だ」


「わかってます」



出発した。


岩場を——登り始める。


足場が——不安定だった。


大きな岩の間を——縫うように進む。


手を——使うこともあった。



「……思ったより、険しいですね」


メイラが——息を切らしながら言う。


「山だからな」


ガイウスが——淡々と答える。


「わかってましたけど——実際に登ると、違いますね」


「慣れろ」


「慣れるまでに——どのくらいかかりますか」


「今日中には、無理だ」


「……正直ですね」


「事実だ」


メイラが——また、足を進めた。



一時間。


ずいぶんと——上に来た。


振り返ると——昨夜の岩場が、小さく見えた。


施設が——遠くに見えた。


「……あそこが、施設か」


「ええ」


「小さく見える」


「十分に上れています」


ライラが——言う。


「もう少し——上れば、完全に射程外だ」


「わかりました」



また——登る。


足が——重くなってくる。


でも——空気が、変わってきた。


澄んでいた。


深く吸うと——冷たかった。


でも——気持ちよかった。



「……空気が違いますね」


メイラが——言う。


「山の空気だ」


「なんか——頭が、すっきりする気がします」


「薄いからだ」


「え、それ——いいことじゃないですよね」


「慣れれば問題ない」


「慣れるのに時間がかかるって、さっき言いましたよね」


「その通りだ」


「……やっぱり正直ですね」



二時間を——過ぎた頃。


ライラが——立ち止まった。


「……ここで、一度休む」


「射程外か」


「ああ。ここまで上れば——施設からは見えない」


「わかった」



岩の陰に——腰を下ろした。


水を——飲む。


冷たかった。



セリスは——山を見上げた。


まだ——上がある。


どこまでも——上がある。



「……ノイエ」


小さく、呼ぶ。


『……はい』


「近づいてきた」


「感じますか」



少し——間があった。


昨日より——短かった。



『……感じます』


「昨日より——強くなっていますか」


『……はい』


「どんな感じですか」


『……』


また——間があった。


『……引っ張られる、ような』


「引っ張られる?」


『……はい』


『近い、と思っています』


「封印が?」


『……はい』


「怖いですか」


『……』


『……怖い、と思います』


「……そうですか」


「私も——何か、感じます」


「引っ張られる感じではないけれど」


「……重い感じがします」


『……はい』


「それが——何なのかは、わからない」


「でも——確かに、ある」


『……はい』



「……行きましょう」


セリスが——立ち上がる。


「ええ」


「うん」


「……ああ」



また——登り始めた。



午後。


道が——なくなった。


岩だけに——なった。


四人で——岩を掴みながら、進む。


慎重に。


一歩ずつ。



「……これは、きつい」


メイラが——言う。


「大丈夫か」


ガイウスが——振り返る。


「大丈夫です。でも——きつい」


「正直に言え。無理なら——止まる」


「無理じゃないです。きついだけです」


「……その区別が、大事だ」


「わかってます」


「きついのは——全員同じだ」


「そうなんですか?」


「ああ」


「ガイウスさんも?」


「……ああ」


メイラが——少し、嬉しそうな顔をした。


「なんか——安心しました」


「なぜだ」


「ガイウスさんだけ、平気そうだったから」


「……顔に出さないだけだ」


「それって——損じゃないですか」


「効率の問題だ」


「……どう効率なんですか」


「顔に出すと——仲間が心配する」


「心配させる方が——無駄だ」


メイラが——少し、止まった。


「……それって」


「心配させたくない、ってことですよね」


ガイウスが——何も言わなかった。


また——登り始めた。


メイラが——その背中を見た。


「……やっぱり優しい」


「違う」


「効率だ」


「……同じですよ」



夕方が——近づいた頃。


平らな岩場が——見えてきた。


「……あそこで、今夜は休む」


ライラが——言う。


「わかった」


「明日——さらに上に行けば、封印核の近くに入れるはずだ」


「ガウスの記録と——合っていますか」


「大体、合っている」


「大体か」


「山は——記録通りにはいかない」


「でも——方向は合っている」


「わかりました」



平らな岩場に——着いた。


風が——強かった。


でも——大きな岩が、壁になっていた。


「……ここなら、風を防げる」


「ええ」


荷物を——下ろした。


火を——起こした。


乾いた木が——少しあった。


辛うじて——火になった。



小さな火を——囲んだ。


メイラが——干し肉を温めた。


「……温かいのが、ありがたい」


「山では——体温が下がりやすい」


ガイウスが——言う。


「温かいものを食べることが——重要だ」


「効率ですか」


「そうだ」


「……でも、気にかけてくれてますよね」


「効率だ」


「……わかりました。効率でいいです」



食後。


メイラが——すぐに眠りについた。


疲れていたらしかった。


ガイウスが——見張りに出た。


ライラが——目を閉じた。



セリスは——火の前に座っていた。


山が——静かだった。


風の音だけが——あった。



「……ノイエ」


呼ぶ。


『……はい』


「今日——登りながら、引っ張られると言っていた」


『……はい』


「今も——感じますか」


『……はい』


「強くなっていますか」


『……はい』


「明日——さらに近づく」


『……はい』


「……大丈夫ですか」



少し——間があった。



『……大丈夫、という言葉の意味が』


『……今は、分かりません』


「どういうこと?」


『……大丈夫である状態が——どういう状態か』


『……封印に近づくにつれて』


『……基準が、変わってきている気がします』


「……変わってきている」


『……はい』


「それは——怖いことですか」


『……分かりません』


『ただ——変わっている、ということは、分かります』



セリスは——火を見た。


炎が——揺れていた。


「……変わっていくことが——必ずしも悪いことではないと、思います」


『……はい』


「あなたも——最近、変わってきている」


「言葉が——少しずつ、変わってきている」


『……はい』


「それは——いいことだと、思っています」


『……そうでしょうか』


「ええ」


「あなたが——変わっていくことを」


「私は——怖いとは思わない」



沈黙。



『……ありがとうございます』



初めてだった。


ノイエが——感謝を——こちらに向けて言うのは。


「どういたしまして」


セリスが——言った。



火が——小さくなっていく。


山の風が——岩場を鳴らした。


星が——近かった。


山の上では——星が、近い。



セリスは——星を少し見てから、横になった。


目を——閉じた。



(……明日)


(さらに近づく)


(封印核に)


(ルシファーの封印に)


(ノイエが——引っ張られている場所に)



(怖くても)


(行く)


(一人じゃないから)

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