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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第五章「神と魔神の影」

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第135話 扉の前

朝。


クレスが——外から戻ってきた。


「……道は、問題ありません」


「昨夜の巡回隊の続きは来なかった」


「わかった」


ガイウスが——言う。


「今日中に——着けますか」


「昼頃には」


「わかった。出発する」


小屋を——出た。


空が——晴れていた。


風が——穏やかだった。


昨日より——歩きやすかった。


「……セリスさん」


メイラが——隣に来た。


「何?」


「昨夜——大丈夫でしたか」


「大丈夫です」


「顔色が——昨日より、いい」


「……少し、楽になった」


「何かあったんですか」


「……ノイエと、話しました」


メイラが——少し、目を細めた。


「そっか」


「よかった」


「……ええ」


「ノイエって——なんか、変わりましたよね」


「最近」


「……そう思いますか」


「うん。なんか——以前より、そこにいる感じがします」


「そこにいる、とは」


「うまく言えないですけど」


「ちゃんと——いるな、って感じ」


「ただ機能してるんじゃなくて」


セリスは——剣に触れた。


冷たかった。


でも——確かに、そこにあった。


「……そうかもしれない」


「いい変化だと思います」


「……ええ」


午前中を——歩いた。


道が——少しずつ、上っていく。


丘の上に——建物が見えてきた。


石造りの、小さな館だった。


「……あれか」


「はい」


クレスが——答える。


「エルディン様が——待っています」


館に——近づいた。


扉の前に——人影があった。


二十代半ばくらいの男だった。


茶色い髪。


穏やかな目。


でも——その奥に、鋭さがあった。


「……久しぶりだな」


男が——言った。


「……久しぶりです」


セリスが——答えた。


「エルディン」


「ああ」


エルディンが——少し、笑った。


「随分と——変わった顔をしている」


「そちらも」


「そうか?」


「……ええ」


「盟主らしくなった」


「まだ、盟主じゃない」


「でも——そういう顔をしています」


エルディンが——少し、間を置いた。


「……それは、褒め言葉か」


「ええ」


「なら——受け取ろう」


館の中に——通された。


広くはなかった。


でも——整っていた。


地図が——壁に貼ってあった。


小国連合の各国の位置。


帝国との境界線。


いくつかの——印がついていた。


テーブルを——囲んだ。


エルディンが——向かいに座った。


「……まず」


「ヴァルターへの伝言——届いた」


「確認が取れましたか」


「ああ。ヴァルター本人から——返事が来た」


「内容は」


「『準備する。待っていろ』」


「……それだけか」


「それだけだ。でも——あいつらしい」


「……そうですね」


「次に——ケルドリックの件」


エルディンが——地図を指す。


「アスタルテが消えてから——帝国の動きが、変わっている」


「こちらでも、確認しています」


「徴発の制限を正式に規定した」


「ええ」


「それだけじゃない」


エルディンが——続ける。


「帝国の北部と東部で——兵の再配置が起きている」


「どういう再配置だ」


ガイウスが——聞く。


「民への直接的な圧力を——減らす方向の配置だ」


「守るための兵の配置ではなく」


「制圧するための配置が——変わっている」


「……」


「ケルドリックが——帝国の使い方を、変えようとしている」


「でも——まだ、構造は残っている」


「上が変わっても——下が変わるには、時間がかかる」


「わかっています」


「……お前たちに——頼みたいことがある」


エルディンが——セリスを見た。


「何ですか」


「二つだ」


「一つは——帝国北部のドラッヘンベルク山脈」


「封印核のある場所だ」


「……ええ」


「そこへ——向かってほしい」


「封印の補強を妨げるためか」


「そうだ。帝国は——今も、補強を続けようとしている」


「ケルドリックが変わりつつあっても——研究区画の動きは止まっていない」


「誰かが——維持しているのかもしれない」


「神か」


「……おそらく」


「二つ目は」


エルディンが——続ける。


「俺が——小国連合をまとめる」


「帝国が変わる時に——外側から支える力が必要だ」


「内側のヴァルターだけでは、足りない」


「外側に——同じ方向を向いている力が必要だ」


「それを——俺が作る」


「……盟主として」


「まだ、盟主じゃない」


エルディンが——また言った。


「でも——そういう動きをする」


セリスは——エルディンを見た。


旅を共にしていた頃の——エルディンが、少し遠くなっていた。


同じ目だった。


でも——向いている場所が、広くなっていた。


「……一緒に、やりましょう」


セリスが——言った。


「ああ」


「内と——外と」


「同時に動く」


「帝国を——変えるために」


「帝国を——壊すためではなく」


エルディンが——頷いた。


「そういうことだ」


昼食を——一緒に食べた。


エルディンの部下たちも——いた。


賑やかだった。


久しぶりに——賑やかな食卓だった。


メイラが——エルディンの部下と話していた。


ガイウスが——地図を見ていた。


ライラが——静かに食べていた。


クレスが——エルディンに何かを報告していた。


セリスは——窓の外を見た。


空が——広かった。


山が——遠くに見えた。


ドラッヘンベルク山脈の方角かどうか——わからなかった。


でも——山を見た。


(……次の場所へ、向かう)


(封印核へ)


(帝国の根拠が——あそこにある)


(そこへ——向かう)


「……ノイエ」


小さく、呼ぶ。


『……はい』


「次の場所が——決まった」


『……はい』


「ドラッヘンベルク山脈です」


『……知っています』


「そうでしょうね」


「……封印のある場所だから」


『……はい』


「怖い?」


少し——間があった。


『……分かりません』


「分からない、は——怖いかもしれない、ということ?」


『……そうかもしれません』


「……私も」


「怖いかもしれない」


「でも——行きます」


『……はい』


「一緒に——行きましょう」


『……はい』


短く——返ってきた。


でも——その短さの中に。


何かが——あった気がした。


食事が——終わった。


エルディンが——立ち上がった。


「……出発は、明日でいいか」


「今夜は——ここで休め」


「ありがとうございます」


「礼はいらない」


「受け取ってください」


エルディンが——少し、目を細めた。


「……変わった王女だ」


「そう言われることには——慣れました」


エルディンが——笑った。


「知っている。旅をしていた頃も——そう言っていた」


「……覚えていたんですか」


「ああ。お前は——そういうことを、毎回言う」


「……そうでしたか」


「そうだ」


「変わっていない、ということかもしれない」


「変わったところも——あるが」


「……そうですね」


「変わっていないところも——ある」


夜になった。


久しぶりに——良い部屋で眠れた。


ベッドがあった。


セリスは——横になりながら。


(……第五章が、終わる)


そんな言葉が——浮かんだわけではなかった。


でも——何かが、区切られる感じがあった。


(リオが死んで)


(エルマさんが死んで)


(帝都に入って)


(レナさんと会って)


(レナさんが死んで)


(リヒター様が死んで)


(全部——あいつが設計していたと知って)


(それでも——続けると決めた)


(守りたいものが——まだある)


(ノイエが——そう言った)


(私も——そう思う)


(次へ——行く)


目を——閉じた。


風が——外で、穏やかに鳴った。


エルディンの館が——静かだった。


遠くで——誰かの話し声がした。


笑い声が——混じっていた。


それを聞きながら。


セリスは——静かに、息をした。

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