表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第五章「神と魔神の影」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

135/137

第134話 受け入れません

北への道は——険しかった。


使いの男——名前はクレスと言った——が先頭を歩いた。


足が速かった。


「……急ぎますか」


メイラが——息を切らしながら言う。


「エルディン様が——三日と言いました」


「でも——できれば、二日で着きたいと思っています」


「二日?」


「帝国の巡回が——北に多い」


「長く道を歩くほど、リスクが上がります」


「……わかりました」


メイラが——頑張ります、と小声で言った。


午前中は——森の中を歩いた。


道が——細かった。


木の根が——張り出している。


足元を——慎重に選ぶ。


昼前。


開けた場所に——出た。


草原が——広がっていた。


遠くに——山が見えた。


「……あの山の向こうか」


ガイウスが——クレスに聞く。


「いいえ。山の手前です」


「どのくらいだ」


「明日の昼頃に——着くと思います」


「思う、か」


「道の状態によります」


「……わかった」


草原を——歩く。


風が——正面から吹いてきた。


草が——波のように揺れた。


「……綺麗ですね」


メイラが——言う。


「ええ」


「こういう景色、好きです」


「……なんで?」


「広いから」


「広いのが、好き?」


「なんか——どこまでも行ける気がして」


メイラが——風に目を細めながら言う。


「止まらなくていい気がして」


「……そうね」


「セリスさんは——好きですか、こういう景色」


セリスは——草原を見た。


「……嫌いじゃない」


「でも——どこまでも行けるとは、思えない」


「どこかで——止まらなきゃいけない気がする」


「なんで?」


「……わからない」


「でも——そう思う」


メイラが——少し、考えた。


「……休みたいから、かな」


「え?」


「止まりたいのは——休みたいからじゃないですか」


「……」


「セリスさん、最近——あんまり休んでいない気がします」


「動いてますから」


「体だけじゃなくて——頭も、心も」


「ずっと動いてる気がして」


セリスは——少し、間を置いた。


「……そうかもしれない」


「たまには——止まってもいいと思いますよ」


「……止まれない」


「なんで?」


「……動き続けないと、考えてしまう」


「何を?」


「……いろんなことを」


「リオのことも——エルマさんのことも——レナさんのことも」


「リヒター様のことも」


「全部——あいつが設計していたということも」


「……」


「動いていれば——少し、遠ざかる」


「でも——止まると」


「全部が——押し寄せてくる」


メイラが——少し、黙った。


「……それは」


「辛いですね」


「……ええ」


「でも——押し寄せてきても」


「いいんじゃないかと、思います」


「どうして」


「押し寄せてくるのは——残っているから」


「全部——残っているから」


「だから——押し寄せてくる」


「それは——悪いことじゃないと思います」


セリスは——少し、止まった。


「……そうね」


「残っているから——来る」


「ええ」


「……ありがとう」


「なんで?」


「……そういう風に、考えたことがなかった」


「押し寄せてくることを——避けていた」


「でも——そうじゃないかもしれない」


メイラが——頷いた。


「……私も、リオのことを思い出す時」


「最初は——辛かったです」


「でも——今は、少し違う」


「残ってるな、って思えるから」


「……そうね」


午後。


草原を抜けて——また、森に入った。


木々が——深くなる。


光が——届きにくくなる。


その時。


クレスが——立ち止まった。


「……来ます」


低く——言った。


「帝国か」


「はい。三人——いや、五人」


「どこから」


「東の林から——出てきます」


全員が——止まった。


「戦うか、逃げるか」


ガイウスが——言う。


「逃げ道は」


「西に——細い道があります」


「ただ——遠回りになります」


「どのくらいだ」


「半日ほど」


「……戦う」


ライラが——言った。


「五人なら——対処できる」


「騒ぎを最小限にすれば——他の巡回に気づかれない」


「わかった」


帝国の兵が——林から出てきた。


五人。


正規の兵だった。


「……止まれ」


「通行証を見せろ」


ライラが——前に出た。


「用意している」


「全員分だ」


「……」


兵が——書類を確認する。


「……この書類は」


「三日前の日付だ」


「そうだ」


「……有効期限を、過ぎている」


「そうか」


ライラが——静かに言った。


「なら——仕方がない」


短剣が——抜かれた。


戦闘は——素早かった。


ライラが——二人を制した。


ガイウスが——二人を抑えた。


クレスが——一人を引き離した。


セリスは——正面の兵と向き合った。


「ノイエ」


『……はい』


踏み込む。


ノイエの力が——走る。


兵が——弾き飛ばされた。


鎧が——残る。


終わった。


五人——全員、無力化。


時間は——一分もかからなかった。


「……武器を置いて、南へ行け」


ガイウスが——言う。


兵たちが——武器を置いた。


足早に——去っていった。


「……怪我は」


「ない」


「私も」


「大丈夫です」


「……問題ない」


クレスが——頷いた。


「素早い」


「慣れているだけだ」


ガイウスが——言う。


歩き始めた。


でも——セリスは、少し遅れた。


「……セリスさん?」


メイラが——振り返る。


「……大丈夫」


「顔色が——」


「大丈夫です」


大丈夫だった。


体は——傷ついていない。


でも。


(……また)


(戦った)


(また——誰かを、弾き飛ばした)


(あの兵は——誰かの息子かもしれない)


(誰かの父かもしれない)


(それでも——弾き飛ばした)


(守るために)


(でも)


(守るために、傷つけることを)


(続けていける?)


(これを——ずっと、続けていける?)


夕方。


小屋が——見えてきた。


クレスが——鍵を出す。


「今夜はここで休みます」


「わかった」


「明日——昼には着きます」


「ありがとう」


火を——起こした。


食事を——済ませた。


クレスが——外で見張りをしてくれた。


メイラが——早々に、眠りについた。


ガイウスが——見張りに加わった。


ライラが——目を閉じた。


セリスは——一人、火の前に座っていた。


疲れていた。


体が——ではなく。


何かが——重かった。


名前の——ない重さだった。


(……全部、あいつが設計していた)


(リオも——エルマさんも——レナさんも)


(愛するたびに——失って)


(失うたびに——覚醒して)


(その計画通りに——動いてきた)


(今も——動いている)


(守るために——傷つけて)


(繋げるために——走り続けて)


(でも)


(……いつまで)


(いつまで——続けられる)


(全部が——設計の中だとしたら)


(私が愛した人が——また、死ぬかもしれない)


(メイラが)


(ガイウスが)


(ライラが)


(また——誰かを失うかもしれない)


(それでも——続けるの?)


(続けなければならないの?)


火が——揺れた。


セリスは——剣に触れた。


冷たかった。


「……ノイエ」


呼んだ。


『……はい』


「……疲れた」


『……はい』


「体じゃなく」


「……何かが、重い」


『……はい』


「名前がわからない」


「何が——重いのかも、わからない」


「でも——重い」


沈黙。


火の音だけが——続いた。


「……もういい」


セリスが——言いかけた。


「好きにしろ」


言いかけて——止まった。


言葉が——途中で、消えた。


でも。


「……もういい」


の部分は——出ていた。


沈黙。


『……それは』


静かに——返ってきた。


『……受け入れません』


セリスが——止まった。


「……ノイエ」


『……はい』


「今——何と言いましたか」


『……受け入れません』


「……なぜ」


沈黙。


長い——沈黙。


『……分かりません』


「分からないのに——言った?」


『……はい』


「……なぜ言えたの」


また——沈黙。


今度は——さっきより、短かった。


『……出てきました』


「……設計に——含まれていなかった言葉?」


『……そうかもしれません』


セリスは——火を見た。


炎が——揺れていた。


揺れながら——でも、消えなかった。


「……『もういい、好きにしろ』と——言いたかった」


「正直に言います」


「そう思っていた」


「疲れていた」


「全部——投げ出したかった」


『……はい』


「でも——あなたが止めた」


『……はい』


「……なぜ止めたの」


「分からない、とは言わないで」


「分からなくても——何か、あるはずだから」


長い——沈黙。


火が——また、揺れた。


『……あなたが』


静かに——返ってきた。


『……守りたいと思っていたものが』


『……まだ、あるから』


「……」


『……そう、思いました』


セリスは——胸元に、手を当てた。


写真と——遺書。


両方——ある。


(……守りたいものが)


(まだ、ある)


(ノイエが——そう言った)


(命令じゃない)


(私が——何を持っているかを)


(ノイエが——見ていた)


「……ありがとう」


小さく——言った。


『……はい』


「止めてくれて——ありがとう」


『……はい』


「……続けます」


「全部——投げ出したくなっても」


「続けます」


『……はい』


「……ノイエ」


「一つだけ——聞いていい?」


『……はい』


「あなたは——私に、続けてほしいと思っている?」


沈黙。


『……思っています』


短かった。


迷いが——なかった。


セリスは——少し、目を閉じた。


「……そう」


「……ありがとう」


火が——小さくなっていく。


セリスは——横になった。


目を——閉じた。


(……守りたいものが、まだある)


(ノイエが——見ていてくれた)


(一人じゃない)


(まだ——一人じゃない)


外で——ガイウスとクレスの足音がした。


見張りを——続けている音だった。


メイラの——規則的な寝息が聞こえた。


ライラが——どこかで、静かに息をしていた。


四人と——一振り。


そこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ