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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第五章「神と魔神の影」

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第133話 繋がるもの

朝。


ライラが——また、情報を持ってきた。


全員が——まだ、起きたばかりだった。


メイラが——湯を沸かしている途中だった。


「……急ぎか」


ガイウスが——聞く。


「急ぎではない。でも——重要だ」


「話せ」



ライラが——座った。


珍しかった。


いつもは——立ったまま話す。


「……二つある」


「一つ目」


「ケルドリックが——昨日、帝国軍に通達を出した」


「内容は」


「『徴発の制限を、正式に規定する』」


「……正式に」


「以前は——一時停止の命令だった」


「今回は——規定だ」


「法として——残る」



ガイウスが——少し、目を細めた。


「……本気で動いている」


「ああ」


「一時的な気まぐれではない」


「構造を——変えようとしている」


「……アスタルテが消えたことの影響か」


「タイミングからすれば——そうだろう」


「操りが解けて——本来の判断が、戻り始めている」



「二つ目は」


ガイウスが——続きを促す。


「エルディンから——返信が来た」



セリスが——顔を上げた。


「……伝言が届いたの?」


「ああ」


「内容は」


ライラが——折り畳んだ紙を出した。


短かった。


『鷲の動きを確認した。内の準備を始める。——応答者より』



「……届いた」


セリスが——言った。


「ええ」


「ヴァルターへ——繋がった」


「まだ確定ではない。エルディン経由だ」


「でも——届いた可能性が高い」


「……」


「内の準備を始める、と言っている」


「ヴァルターが——動き始めるかもしれない」



メイラが——茶を配りながら言う。


「……なんか、繋がってきた感じがしますね」


「外と——内が」


「そうね」


「でも——まだ、繋がっただけ」


「動くのは——これからだ」


ガイウスが——言う。


「わかってます」


「でも——繋がっただけでも、嬉しい」


「……効率が悪いな」


「感情は——効率じゃないですよ」


ガイウスが——何も言わなかった。



「……ガイウス」


セリスが——言う。


「何だ」


「昨日——計算じゃないと思った、と言っていた」


「ああ」


「今日——エルディンの返信を見て、何か思った?」



ガイウスが——少し、間を置いた。


「……繋がる、ということは」


「計算で作れるものではない、と思った」


「どういうこと?」


「経路は——計算で作れる」


「でも——その経路を、誰かが信じて使ってくれるかどうかは」


「計算できない」


「……」


「エルディンが——返信を寄越したのは」


「経路があったからではない」


「信じたからだ」


「……」


「それは——計算じゃない」



「……また、近づきましたね」


セリスが——言った。


「何に?」


「リヒター様が言いたかったことに」


ガイウスが——少し、止まった。


「……そうかもしれない」


「わからないが」


「……わからなくていいと思います」


「近づいているなら——それで」



出発した。


今日の道は——昨日より、開けていた。


空が——広かった。



「……セリスさん」


メイラが——隣に来た。


「何?」


「ヴァルターさんって——どんな人ですか」


「……会ったことは、あります」


「帝都で?」


「ええ。少し——話しました」


「どんな人でしたか」


セリスは——少し、考えた。


「……誰に対しても、丁寧な人」


「どんな相手にも——同じように接していた」


「偉そうにしない」


「でも——芯が、ある」


「芯?」


「帝国を変えたいと——本当に思っている」


「言葉だけじゃなく」


「……かっこいいですね」


「レナさんが好きになるのも——わかります」



セリスは——少し、笑いそうになった。


「……そうね」


「レナさんは——『釣り合わない』と言って、身を引いていたけれど」


「えっ——そうなんですか」


「ええ」


「釣り合うと思うんですけど」


「……私も、そう思います」


「なんで身を引くんですか」


「……レナさんらしいから」


「どういうこと?」


「自分より——相手のことを、先に考えるから」


「皇太子の立場を——気にしていた」


「でも——ヴァルターは」


「帝国が変わったら、そばにいてほしいと——言っていたと聞いた」


「……じゃあ、両想いじゃないですか」


「ええ」


「……よかった」


メイラが——少し、目を細めた。


「帝国が変わったら——ちゃんとなれるといいですね」


「……なれます」


「絶対に?」


「……絶対に」



言葉が——出た。


根拠は——なかった。


でも——言えた。



(……絶対に)


(変える)


(レナさんが——待っていた未来を)


(守る)



昼前。


道の脇に——古い石碑があった。


風化していて——文字が、読めなかった。


何の碑か——わからなかった。


でも——誰かが、最近——花を置いていた。


野の花が——一束。



「……誰かが、置いたんですね」


メイラが——言う。


「ええ」


「何の碑かも——わからないのに」


「……覚えている人がいる」


「何を覚えているのかも——わからないのに」


「でも——覚えている」


メイラが——頷いた。


「……愛は残る、ですね」


「ええ」



四人で——碑の前を通り過ぎた。


足を——止めなかった。


でも——全員が、一瞬——碑を見た。


それだけだった。



午後。


ライラが——また、立ち止まった。


「……人が来る」


「帝国か」


「違う。顔見知りだ」


「誰だ」


「……エルディンの使いだ」



全員が——止まった。


道の向こうから——一人の男が来た。


若かった。


二十代前半。


息を——少し、切らしていた。


「……ライラ」


「来たか」


「急いだ。追加の伝言がある」


「内容は」


男が——折り畳んだ紙を出した。


ライラが——受け取る。


開く。



『北の拠点に、一人来てほしい。話したいことがある。——エルディン』



「……エルディン本人から?」


セリスが——聞く。


「ああ。直接、書いている」


「北の拠点というのは」


「ここから——三日ほど北だ」


「どんな場所だ」


「エルディンが作った——小国連合の連絡拠点だ」


「安全か」


「……信頼できる」


ライラが——言う。


「エルディンは——裏切らない男だ」


「どうして言い切れる」


「長く——見てきたから」


「……」


「俺の勘だ。外れたことはない」



ガイウスが——地図を広げた。


北への道。


三日。


「……今のルートから、大きくは外れない」


「外れるか」


「少し——北に振れる」


「帝都への道は」


「遅れる。でも——エルディンと話すことで得られる情報の方が」


「今は——価値があるかもしれない」



「……行きます」


セリスが——言った。


「エルディンと話したい」


「理由は」


「内と外を——繋げるために」


「エルディンは——小国連合の王子です」


「その立場で動いてくれているなら」


「直接、話しておきたい」


「……わかった」


ガイウスが——地図を畳む。


「北に向かう」



使いの男が——頷いた。


「……案内します」


「お願いします」


「一つだけ——エルディン様が言っていました」


「何を?」


「『久しぶりだ』と」


「……」


「それだけですか?」


「それだけです」



セリスは——少し、笑った。


「……エルディンらしい」


「知ってるんですか?」


「少し——旅をしたことがあります」


「そうですか」


「……久しぶり、か」


「ええ」



「……久しぶりですね」


セリスが——小さく言った。


誰にも——向けた言葉ではなかった。


でも——前を向いた言葉だった。



五人で——北への道を歩き始めた。


空が——広かった。


風が——穏やかだった。



「……ノイエ」


歩きながら——呼ぶ。


『……はい』


「繋がってきた」


「外と——内が」


「少しずつ」


『……はい』


「あなたは——繋がることについて、どう思いますか」



少し——間があった。



『……私は』


『長い間——一人でした』



セリスが——少し、止まった。


歩きながら——止まった。


止まらずに——歩き続けながら。


「……そう」


「封印されていた間」


『……はい』


「一人だった」


『……はい』


「……今は?」



また——間があった。


今度は——短かった。



『……今は』


『……分かりません』


「分からない、は——一人ではないかもしれない、ということ?」



沈黙。



『……そうかもしれません』



セリスは——前を向いたまま、歩いた。


「……私も——そう思います」


『……はい』


「一人じゃない」


『……はい』



道が——続いていた。


五人で——歩いていた。


空が——どこまでも、広かった。

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