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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第五章「神と魔神の影」

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第132話 守ったもの

朝。


副隊長が——宿の前に立っていた。


「……出発されますか」


「ええ。お世話になりました」


「こちらこそ」


副隊長が——少し、間を置いた。


「……一つだけ、聞いてもいいですか」


「何でしょう」


「あなたたちは——どこへ行くんですか」



セリスは——少し、考えた。


「帝国を——変えに行きます」


「……変える」


「壊すんじゃなく」


「変える」


副隊長が——セリスを見た。


しばらく——見ていた。


「……隊長は」


「リヒター様は——」


「そういう言葉を、好きそうでしたか」


セリスが——聞いた。


副隊長が——少し、目を細めた。


「……好きだったと思います」


「あの方は——壊すことが嫌いでしたから」


「守ることが——好きな方でしたから」



「……そうですね」


セリスが——言った。


「知っています」



副隊長が——一歩、前に出た。


「……私たちは」


「蒼銀鷲大隊は——どうすればいいですか」


「これから」


「隊長がいなくなって」


「どこへ向かえばいいのか——わからなくて」



セリスは——副隊長を見た。


「……あなたたちは」


「レナさんの部隊です」


「……はい」


「レナさんが——守ろうとしていたものを」


「あなたたちも——守ってきた」


「……はい」


「それは——変わりません」


「隊長が変わっても」


「守るものは——変わらない」



副隊長が——目を伏せた。


「……そうですね」


「……そうですね」


二度——言った。


「わかりました」


「では——私たちは」


「守り続けます」


「隊長が守ろうとしていたものを」



「……お願いします」


セリスが——言った。


副隊長が——頷いた。



蒼銀鷲大隊が——整列した。


静かだった。


誰も——声を上げなかった。


でも——背筋が、まっすぐだった。



セリスたちが——歩き始めた。


大隊が——見送った。


振り返らなかった。


でも——背中に、視線が感じられた。



「……いい部隊でしたね」


メイラが——言う。


「ええ」


「レナさんが——作った部隊だから」


「……そうね」


「レナさんらしい部隊だと思いました」


「どんなところが?」


メイラが——少し、考えた。


「……誰も、崩れなかったから」


「意識を取り戻した後」


「誰も——諦めていなかった」


「それが——レナさんらしいと思って」



セリスは——前を向いたまま、歩いた。


(……レナさんらしい)


(そうかもしれない)


(「お姉ちゃんに任せなさい」と言っていた人が)


(作った部隊だから)


(崩れない)



道が——続いていた。


風が——少し、温かかった。


昨日より——少し。



昼前。


小さな川の側に——腰を下ろした。


水を——補充する。


メイラが——干し肉と固いパンを配る。


「はい、セリスさん」


「ありがとう」


「ガイウスさん」


「……ああ」


「ライラさん」


「……」


ライラが——受け取った。


「……ありがとう」


「え?」


メイラが——少し、驚いた顔をした。


「……ライラさん、今ありがとうって言いましたか」


「言った」


「……初めて聞いた気がします」


「そうか」


「……なんか、嬉しいですね」


ライラが——何も言わなかった。


でも——干し肉を、静かに食べた。



食べながら。


ガイウスが——川を見ていた。


「……ガイウス」


セリスが——呼んだ。


「何だ」


「昨夜——あいつが言いたかったことが近づいた気がした、と言っていた」


「……ああ」


「今朝——何か、変わりましたか」


ガイウスが——少し、間を置いた。


「……変わったかどうか、わからない」


「でも」


「今朝——副隊長が整列した時」


「あの部隊が——まっすぐ立っているのを見て」


「……」


「計算じゃないと思った」


「あれは——計算で立てるものじゃない」


「……」


「リヒターが——守ろうとしていたものが」


「あそこにあった」


「それを見て——計算じゃないと思った」


「初めて」



「……それが」


セリスが——言った。


「あいつが言いたかったことに——近づいた、ということじゃないですか」


「……そうかもしれない」


「わからないが」


「……わからなくていいと思います」


「近づいているなら——それで」


ガイウスが——川を見たまま、頷いた。


「……そうだな」



メイラが——川を見ていた。


「……リオも」


「こういう川、好きだったって言ってましたよね」


「ええ」


「なんか——こうして川を見るたびに」


「リオのことを、思い出すようになりました」


「……いいことだと思います」


「そうですか?」


「残っているから」


メイラが——少し、頷いた。


「……そうですね」


「残ってる」


「愛は——残る」


「昨日——自分で言ったけど」


「こうして実感します」



ライラが——立ち上がった。


「……行くぞ」


「ええ」


「うん」


「……ああ」



歩き始めた。


川の音が——遠ざかっていく。



午後の道は——穏やかだった。


帝国の巡回が——今日は、見えなかった。


「……静かですね」


メイラが——言う。


「ああ」


「嵐の前、みたいな感じがします」


「……そうかもしれない」


「アスタルテが姿を消した後——何かが、変わっていく」


「変わる前の——静けさ」


「……そうですね」



「……ガイウス」


セリスが——また、呼んだ。


「何だ」


「ケルドリック陛下の件——どう動きますか」


「情報を——集め続ける」


「ヴァルターへの伝言は、送った」


「届くまでに——時間がかかる」


「その間に——帝国の内側がどう動くか」


「見極める必要がある」


「アスタルテが消えたことで——何かが変わるかもしれない」


「……ケルドリック陛下への影響が」


「直接出るかもしれない」


「ええ」


「操っていた存在が——消えた」


「陛下が——どう動くか」


「……注意深く、見る必要がある」


「わかった」



ライラが——前を向いたまま言う。


「……一つ、報告がある」


「何だ」


「今朝——ある情報が入った」


「内容は」


「ケルドリックが——三日前」


「側近を呼んで、二時間ほど話したらしい」


「内容は不明だが——側近の一人が、珍しく動揺していたという」


「……珍しく」


「ケルドリックが——何かを、決めようとしているのかもしれない」


「アスタルテが消えたことと——関係しているか」


「タイミングからすれば——可能性はある」



「……動き始めている」


セリスが——言った。


「帝国の内側が」


「ええ」


「アスタルテがいなくなって——操りが解け始めている」


「だとすれば」


「ケルドリック陛下は——本来の自分に、近づきつつある」


「……それが、どちらに向かうか」


ガイウスが——言う。


「まだわからない」


「ええ」


「でも——動いている」


「それは確かだ」



夕方。


次の拠点が——見えてきた。


小さな村だった。


煙が——上がっていた。


「……今夜はここか」


「ああ」



村に——入る前に。


セリスは——一度、立ち止まった。


振り返った。


来た道が——見えた。


廃砦の方角を——見た。


見えなかった。


でも——そちらを、見た。



(……リヒター様)


(守ったものが——残っています)


(蒼銀鷲大隊が——まっすぐ立っていました)


(あなたが守ろうとしていたものを)


(あの人たちが——守り続けます)


(だから——よかったな)



前を——向いた。


「行きましょう」


「ええ」


「うん」


「……ああ」



四人で——村に入った。


煙が——温かかった。


空が——少しずつ、暗くなっていた。


星が——一つ、出た。



「……ノイエ」


歩きながら——呼ぶ。


『……はい』


「今日——守ったものが、残っていると思った」


『……はい』


「リヒター様が守ったものが——あの部隊に残っていた」


『……はい』


「愛は——残るのね」


『……』


「あなたは——どう思いますか」



少し——間があった。



(……本当に、残っている?)


(それとも——そう思わないと、壊れるから?)


『……分かりません』


「……そう」


『……ただ』


「ただ?」



『……残っているものが——あることは』


『……分かります』



セリスは——少し、止まった。


「……何が残っているか、わかる?」



また——間があった。


今度は——少し、長かった。



『……分かりません』


「でも——残っているとは、わかる」


『……はい』


「……それで、十分」


『……はい』



村の灯りが——近づいてきた。


温かい光だった。



セリスは——その光に向かって、歩いた。


止まらずに。


前に。

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