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九話 仮入団の時~女魔術師シャロンと出会う~

 宜しくお願い致しますm(_ _)m

 そうして――フィリアはその日に仮入団の契約を交わしたが、実際にセーフフィールド独立騎士団本部に部屋を与えられるのは、翌日になるそうだ。


 団長から、「騎士団への女性入団者は初なので、少し準備が必要だ」と言われ、フィリアも納得した。


 フィリアは今、夕食を食べ終え宿屋のベッドで眠ろうと試みている。

 

 なのに、昨日からの怒涛の出来事が脳裏を駆け巡り、頭の中が鎮まってくれない。


(……眠れませんわね)


 昨日からの緊張は解けているものの、眠れるまでには至らない。と言うところだろうか。


 そこに、コンコンッとドアがノックされる音が聞こえた。


「ど、どなたですか?」


 フィリアはすぐに起き上がり、緊張しながらドアの向こうにいる誰かに問いかけた。


「独立騎士団所属騎士、カーシー・アトウッドです。団長から命じられ、国家魔術師シャロン・L・ドーン様をお連れしました」


 ドアの向こうから聞こえたのは、間違いなくアトウッドの声だ。


 けれど、国家魔術師を連れて来た。とはどう言うことだろう?


 迷っても仕方がないと思い、フィリアはランプをともし、ベッドから降りた。


 鍵を外し恐る恐るドアを開けると、そこには茶色の長髪を一本の三つ編みにした長身の女性と、かぶとを外したアトウッドが立っていた。


 薄い金の髪に緑の瞳の柔和な顔立ち。間違いなくアトウッドだ。とフィリアは安心する。


「アトウッド様――と、国家魔術師様……ですか?」


 女性は深紫色のマントを羽織り、白いマスクで顔の右側のみを覆っていた。

 それでも目と唇はあらわになっている。

 

 瞳の色は緑。唇は少し色が薄いがツヤはあるようだ。半分はマスクに隠されて見えないけれど。

 

 年齢は二十歳くらいだろうか? とフィリアは考える。


「えーと、俺……いや、わたしのことは『アトウッド先輩』と呼んで下さ……じゃない、呼んで欲しいかな。マースティン」


 上手く敬語から抜け出せないアトウッドを見て、フィリアの心は少しだけなごんだ。


「はい。アトウッド先輩」


 フィリアは微笑みを浮かべながら、アトウッドを先輩と呼ぶ。


「で、こちらは国家魔術師のドーン様。団長がマースティンの為に呼んで下さったんだ」


 フィリアは、謎めいた雰囲気をかもし出している国家魔術師の女性を見上げた。


「女同士でしか出来ない話もあるだろうから、二人でゆっくり話をして欲しいとのことだ。――では、あとは宜しく頼みます。ドーン様」


 国家魔術師に敬礼をし、フィリアに軽く手を振ると、アトウッドは帰ってしまった。


「ええと……フィリアちゃん。で良いかしら? 私は国家魔術師のシャロン・L・ドーンです。シャロンと呼んで下さいね」


 どことなく疲れたような、気だるそうな口調でシャロンは自己紹介をする。


「あ、はい。わたしは今日、独立騎士団に仮入団しました、フィリア・R・マースティンと申します。宜しくお願い致します。シャロン様」


 フィリアが丁寧に頭を下げてから顔を上げると、シャロンは驚きの表情を浮かべていた。

 緑色の目が大きく見開かれている。


「あ、あの、シャロン様? 何故そんなに驚かれているのです……か?」


 意味が分からない。と思いつつフィリアは問う。

 すると――


「お、驚くに決まってるじゃない! 十二歳の女の子が『王立騎士団』じゃなくて、『独立騎士団へ仮入隊』なんて! 今の今までヒューイに担が(ウソつか)れてるのかと思ってたわよ!」


 確かに――よくよく考えてみれば信じられないのも無理はないとフィリア自身も思う。


「しかも、王立騎士団団長の娘で、《《あの》》『剣聖』イアン様の孫娘……なのよね?」


 改めて他人の口から聞かされると、嘘みたいな話だなあ、と思わざるを得ない。

 

「し、信じられないとは思いますが、本当なのです!」 


 フィリアは戸惑いながらもハッキリと宣言する。


「わたしはアダム・I・マースティンの娘で、今は隠居している『剣聖』イアンの孫娘。フィリア・R・マースティンで間違いないのです」


 シャロンは真面目な表情になってフィリアの碧眼の瞳を見つめながら言う。

 

「……本当? 本当なのね? 本当にこの王国に女騎士が誕生するかも知れないのね?」

 

 シャロンはまだ少し疑っているようだがそれは無理からぬことだ。


「はい。わたしは神に誓って嘘などついておりません」


 なので、フィリアはキッパリと宣言したうえで、「神に誓う」とまでつけ加えたのだ。

 

「本当なのね……! ついに、ついにこのときが来たのね!」


 すると、シャロンは感激の表情になった。

 どうやら彼女は男尊女卑思想から外れた考えの持ち主らしい。


「あの、シャロン様は、わざわざわたしの為に来て下さったとのことですが……?」


 女同士でしか出来ない話もあるだろうから、二人でゆっくり話をして欲しい。


 と団長は言ったそうだが、フィリアはシャロンがここに来た理由が今一いまひとつ分からなかった。


「ああ、それね。私が今から、フィリアちゃんの心身の疲れを取ってあげるわね。部屋の中に入っても良いかしら?」


 フィリアはうなずき、シャロンを部屋の中に招き入れた。


 最初こそ謎めいた雰囲気を醸し出していたシャロンだが、言葉を交わしてみると思ったより話しやすい女性だな、とフィリアは思った。


「ヒューイから話を聞いたけれど、王立騎士団の団長が、自分の娘にこんなひどい真似をする人だとは思わなかったわ」


 部屋に入るなり、シャロンはフィリアの父に対しての怒りと嫌悪を露にした。


「自分の娘の才能をつぶそうとするなんて、信じがたいわよね」


 ベッドの横に置かれている小さな椅子に座り、シャロンは言葉を続ける。


「それすなわち『剣聖』イアン様から受け継いだ才能を潰してしまう愚行ぐこうでもあるのに!」


 シャロンは腹立たしげに言い放つ。


「必ず正騎士になって頂戴ちょうだい。私も全力でサポートするわね。時々、騎士団本部へも顔を出すわ。何かあったら遠慮えんりょなく私を呼んで頼ってね」


 シャロンはフィリアを見つめて頼むように言う。


 フィリアは嬉しかった。父のことを悪く言われているにも関わらず、フィリアはシャロンの言葉の全てが嬉しいと感じてしまった。

 

 自分が祖父の才能を受け継いだことを手放しで喜んでくれる人が、ここにもいたのだと感じ嬉しかったのだ。


「シャロン様……これから、大いに頼らせて頂きます」


 今こそ、騎士への道が開かれた。

 シャロンに向けて深く深く頭を下げながら、実感する。


「それじゃあフィリアちゃんに回復の術を使うから、リラックスしてね」


 祖父のイアンもレベルはあまり高くない回復の術を使える。それは言葉通り回復の魔術だ。

 

 シャロンに言われ、フィリアは顔を上げると安心してベッドの上に座る。

 

 シャロンの回復の術はフィリアの体力を回復させるだけでなく、心までも癒してくれるようだった。



 


  

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