八話 変転の時~ルーク・ベルモントVSフィリア・R・マースティン~
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結局、フィリアはアトウッドに稽古をつけて貰うことは出来なかった。
アトウッドは団長の指示を仰ぐ為に部屋から出て行ったあと、フィリアの試合時間が決まるまで戻って来なかったのだから。
アトウッドに呼ばれて今、フィリアは対戦相手のルーク・ベルモントと顔を合わせていた。
ルークは黒髪黒目の、気の強そうな少年で、あからさまに不機嫌な表情をしている。
「団長! なんで俺がこのお嬢様とやらの対戦相手なんですか!?」
口調には、不機嫌さと怒りも滲み出ていた。
「そう言うな。ベルモント。お前が思うような結果にはならないかも知れないぞ?」
セーフフィールド独立騎士団長アーサー・ヒューイの言葉に、ベルモントは意外そうな表情になる。
やはり自分が勝つ結果しか想像していなかったのだな、とフィリアは思う。
「そ、そんなはずはないです! どこのお嬢様か知らないけど――」
と言いかけて、ルークは、ハッと何かに気づいたようにフィリアの顔を見つめた。
ああ、気がついたのだろうな、とフィリアは冷静に思う。
フィリアが『剣聖』イアンの孫娘だと、今気づいたのだろうと。
「いや、まさか、でも女だぞ!?」
女だからなんだと言うのだ? 他国には女騎士なぞ普通にいると、フィリアでさえ知っているのに。
兄のハリソンと同じ年齢で、この考え方の差。
やはりこの国は、男尊女卑の考え方が平民にも染み込んでいるのだな、と改めて思うフィリアである。
「ごちゃごちゃ言う前に対戦してくれませんか? 女だろうが男だろうが、わたしが弱いのでしたら、遠慮なく叩きのめして下さって構いませんので」
フィリアも不機嫌さを隠さず、低めの声で気迫を込めて言った。
「――っ!」
ルークの肩が、びくりと跳ねるように震えた。
フィリアの気迫に押されたのだろう。
「分かっただろう? ベルモント。早く対戦の準備をするんだ」
ヒューイが冷静な声音で言い放つ。
「わ、分かりましたよ! 団長! お嬢様だろうがなんだろうが! 遠慮なく叩きのめしてやるからな!」
フィリアの顔を悔しそうに睨んで、ルークは怒りながら、木剣を取りに歩いて行った。
「とは言ったものの……大丈夫ですかな? フィリアお嬢様」
ヒューイはにわかに不安になったようだ。
フィリアがルークを挑発するような態度を取るとは思わなかったのだろう。
「心配して下さってありがとうございます」
フィリアは笑顔で答えた。
ルークを挑発したのはわざとだ。冷静さを欠いている相手ならばいくらでも隙が出来る。
ルークの力量がどれほどのものなのかは今の時点では分からないが、自分如きの気迫に押される程度であれば、御しやすい。
フィリアは自身の実力を過大評価などしていない。
男に比べれば、体力も筋力も劣るのは生物としての差なのでどうしようもないと思っている。
だから、出来ることをやったのだ。
隠居している祖父のイアンが、一年に一度だけ屋敷に顔を見せに来てくれる度、兵法やら何やら色々と語ってくれたその内容を、フィリアはしっかり覚えていた。
(お祖父様のお考えは間違っていないわ)
ルークの様子を観察すれば、よく分かる。
どんなに剣術が優れていようと、怒りで冷静さを失って隙だらけになっている。
祖父の『相手が平常心を失っている時がチャンスだ』という言葉を思い出す。
「では、わたしも行きます!」
フィリアは、首の後ろで一つに纏めている髪をキツく纏め直し、自身の服装に乱れがないか確かめる。
弟のリアムから借りた茶色のシャツとズボンは高級でしっかりとした造りだ。
靴下は履いていない。綺麗に磨き抜かれた板張りの木の床で滑ってはならないから。
自分の立ち位置まで来たフィリアは、碧眼の瞳でルークを、キッと見つめた
(負ける訳にはいきません!)
フィリアは一礼をしてからアトウッドに指摘されて直した構えを取る。
ルークはフィリアの構えを見ても、怒りに燃えた表情をしていた。
(驚くほど隙だらけですね)
そう思いながら、ルークを見ていると、団長のアーサー・ヒューイが二人の側まで歩いて来る。
どうやらヒューイが審判役をやるようだ。
「ベルモント。礼くらいしないのか?」
ヒューイに指摘されて、ルークは渋々礼をし木剣を構える。
「この対戦は、セーフフィールド独立騎士団長アーサー・ヒューイが見届ける。二人共、相手を尊敬し全力を尽くすように」
ヒューイが厳かに告げる。と次の瞬間――
「始め!」
ヒューイの声とほぼ同時にルークがこちらへ突っ込んで来た。
あまりにも予想通りに動いたルークを冷静に、内心驚きつつ見ながら、フィリアは兄のハリソンに叩き込まれた護身術を使って、ルークの足を払おうとする。
しかし、払い切れずにルークはバランスを崩すにとどまった。
――が、フィリアにはそれだけで充分だ。
フィリアは素早く腰を落とし、バランスを崩したルークの足を思い切り木剣で、ガヅッと打った。
ルークは今度こそ、受け身も取れずに床へと倒れ、ドタンッと顔面を強打する。
そこへフィリアの容赦のない一撃がルークの背中を打った。
「――ぐぇ!」
蛙のように一声上げてルークは、ぴくりとも動かなくなる。
兄と対戦したときと違って手加減なしだったので、やり過ぎたかな? とフィリアは思ったが。
ヒューイが淡々と「勝者はフィリアお嬢様!」と告げたのでフィリアは、ほっと一息ついた。
「……ええと、ルークは大丈夫でしょうか?」
お互い防具も何も着けていなかったが、力一杯床とキスをしてしまったルークの身を、フィリアは案じる。
「大丈夫ですよ。お嬢様」
すると、いつの間にかアトウッドが二人の側にやって来て、そのままルークを背負い去って行く。
そして、訓練場にはヒューイとフィリアの二人が残された。
「あの……」
フィリアはヒューイにおずおずと話しかけようとしたが――
「フィリアお嬢様――いや、今からはマースティンと呼ばせて貰おう」
ヒューイの表情が険しいものに変化した。
「見事だった――と言うか、簡単すぎて拍子抜けしただろう。だが、ベルモントはあれでも、本当に剣術の腕は良いんだ」
つまり、対戦させる相手を間違えたわけではない、とヒューイは言ったのだ。
「まずは『仮入団』おめでとう。しかし、大変なのはこれからだ。この国初の女騎士が誕生するかどうかは、マースティンの双肩にかかっている」
ヒューイは厳しい表情で言ったが、声には僅かに嬉しそうな響きが含まれているのを、フィリアは聞き逃さなかった。
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