七話 変転の時~セーフフィールド独立騎士団訓練場にて~
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その通りは表通りほど賑やかではないが、それなりに人通りがあった。店もあるにはあるが、どちらかと言うと民家のほうが多い。
セーフフィールド独立騎士団の訓練場はその一角にある。
マースティン家の剣術道場ほどではないが、かなり広かった。
馬小屋もちゃんとあって、フィリアは愛馬のライザを、空いている馬房で休ませることにする。
家が密集しているのに、こんなに広い訓練場があるとは思わなかったフィリアは、案内をしてくれているアトウッドに色々と問いかけそうになってしまう。
が、そんなことを考えているうちに、訓練場の中の荷物置場兼着替え室のような部屋についてしまった。
「お嬢様のお荷物はこの木箱の中に入れて置きますね」
アトウッドは運んでくれていた荷物を、窓の下に設置されている木箱の中に置いてくれた。
フィリア自身は、フード付きの外套を脱ぎ、壁に取り付つけられているフックに引っかける。
「ありがとうございます。アトウッド様」
笑顔でお礼を言った――のだがアトウッドの様子が妙におかしいことに気づいた。
「どうされました? アトウッド様」
アトウッドは、フードつきのコート脱いだフィリアを凝視したまま固まっている。
「アトウッド様?」
フィリアがアトウッドに近づき声をかけると。
「――ハッ!」
とアトウッドは我に返った。
「あ――いえ。お嬢様は、本当にマースティン男爵家のご令嬢なんですね。いや、こんなに綺麗な少女は見たことないな。と思ってちょっとビックリしてました」
アトウッドは照れたように笑うが。
「でも、そんなお嬢様が見習い騎士になるなんて……しかも我がセーフフィールド独立騎士団へ『仮入団』なんて。……本気ですか?」
フィリアに心配そうな視線を向けて来た。
「大丈夫です。例え大丈夫じゃなくても、なんとか致します」
フィリアは荷物と一緒に木箱へ入れられていた、愛用の木剣を両手で持って、アトウッドに構えて見せた。
「……あ~、もう少し腰を落として、肩の力を抜いて自然に……そう、とても良い構えになりました」
アトウッドは思わずなのか、フィリアに構えの指摘をする。
フィリアが素直に従うと、アトウッドはこちらを見ながら笑顔で頷いた。
「ありがとうございます。アトウッド様。この構え、どの動きにもすぐに移行しやすそうです」
なるほど。ほんの少し構えに手を加えただけなのに、こんなにも違うものなのか、とフィリアは感心する。
「――あっ! つい!」
しまった。と言う表情でアトウッドは言った。
「え? 何かいけなかったのですか?」
アトウッドは片手で軽く頭を搔くと。
「いや、わたしは単なる一騎士です。肩書きも何もないただの騎士です。なのにお嬢様の構えを指摘するなんておこがましいです」
と自嘲気味に言ってから。
「……今回、お嬢様が対戦される相手は『仮入団』している見習い騎士の中でも、わりと手強い相手だ、とわたしは思っております」
アトウッドは真剣な表情になる。
「わたしが対戦する相手は……ええと、ちらっと聞こえてしまいましたが、ベルモント。でしたかしら?」
聞き覚えのある名前に、フィリアは小首を傾げた。
「ベルモント……ベルモント……う~ん?」
頭の片隅にはあるのだが、どこで聞いたのか思いだせない。
「お嬢様。ベルモント精肉店ですよ」
アトウッドの言葉を聞いたフィリアは、漸く思い出す。
「ああ! 東の山に牧場を持っていると言う有名な精肉店! ――え? だとすると、わたしの対戦相手はベルモント精肉店の関係者なのですか」
ベルモント精肉店の関係者は、皆んな精肉店関連の仕事についているものだと思っていたのだが……違うのだろうか? とフィリアは考え込む。
「ルーク・ベルモント。ベルモント精肉店の三男ですよ。剣の素質はあるんですけれど、少々性格に難ありと言うか……自分の対戦相手が女性だと知って、今ごろ怒り狂っているでしょうね」
アトウッドはフィリアを見つめながら、不安そうに言った。
「まあ、それはしょうがありませんね。この国は女性の地位が全体的に低いのですから」
この国ではまだまだその考え方の人間が多いのだと言うことは理解している。
「確かにお嬢様のおっしゃる通りですが……それだけではなく、ベルモントはちょっと沸点が低いのですよ」
アトウッドは困ったように言ったが、フィリアは違った。
「でしたら……きっと大丈夫ですよ。アトウッド様。わたしは勝って見せます」
沸点が低いと言うことは、冷静さを欠きやすいとも言える。
「……随分と、自信がおありなんですね。お嬢様。ルーク・ベルモントは十五歳。お嬢様より年上だと思いますが」
アトウッドは呆れたように言った。
「ルーク・ベルモントは、『仮入団』するまでに、どこかで正式に剣術を学んだことはありますか?」
アトウッドが色々と教えてくれたのでフィリアは少しずつ冷静になって行く。
「『仮入団』してからは、我流の剣術から型のある剣術に変わりつつありますね」
落ち着いて考えてみれば、王立騎士団長である父のアダムから直々に指導を受けていた兄のハリソンより強い騎士見習いなど、そうそう居ようはずはない。
たとえ、セーフフィールド独立騎士団で、指導を受けていたとしても、だ。
「……あの、お嬢様。ずっとその構えでいますが、お辛くはないですか?」
アトウッドが心配そうに言った。
「あ、辛くはないのですが。対戦前ですから、少し柔軟体操でもしておきましょうか」
フィリアは構えをといて、フックにかけた外套のポケットから茶色の紐を取り出し、オレンジ色の長髪を首の後ろで一つに纏めた。
「アトウッド様は対戦の時間が来るまで、ここに居て下さいますか?」
木剣を壁に立てかけて、柔軟体操を始めながらフィリアは問う。
「え、俺、いや、わたしは一度団長のところに行ってから、指示を仰ぎますが……わたしに何かご用でも?」
フィリアの緊張がとけてきたことがアトウッドにも伝わったのだろうか?
自分のことを、うっかり「俺」と言ってしまったアトウッドにフィリアは微笑みながら答える。
「アトウッド様さえ宜しければ、対戦時間までに、少しだけわたしに稽古をつけて下さいませんか?」
「――えっっ!!!!」
フィリアは今日何度目かのアトウッドの驚きの表情を見て、思わず「クスクス」と忍び笑いをした。
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