六話 変転の時~セーフフィールド独立騎士団への入隊は……~
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開かれた扉から出て来たのは、フィリアの父アダムとあまり変わらぬ年齢で、黒髪黒目の精悍な顔立ちをした中年の男性だった。
後ろに控えているのは、アトウッドと共にセーフフィールド独立騎士団前に立っていた騎士だろう。
(もしかして、あの黒髪黒目の方が……)
フィリアは黒髪黒目の男性を見つめながら思った。
なんと言えば良いのだろう。
アトウッドもそうだが、もう一人の騎士と比べると、段違いに存在感――いや、貫禄があるとでも言えば良いのだろうか?
それとも、威厳があると言えば良いのだろうか?
どちらも同じような意味だとは思うが、その二つを兼ね備えているような印象だ。
「何をしているのだ。アトウッド」
フィリアがいくら揺さぶっても声をかけても、硬直が解けなかったアトウッドが、ハッと我に返り、真っ直ぐに立ち上がって敬礼をする。
「あ、だ、団長。王立騎士団長アダム・I・マースティン男爵様のご息女が、お一人でいらっしゃっています」
アトウッドは、まだ動揺しているらしいが、正気には戻っていた。
「アダム……様からの手紙は読んだ。フィリアお嬢様。本気ですか? 我が独立騎士団に見習い騎士として仮入団など――」
アダムの名を呼ぶときに一瞬妙な間があったような気がするが、それはさておいて……。
やはりこの人物が独立騎士団団長アーサー・ヒューイなのだと確信したフィリアは瞳を輝かせた。
「もちろんです! 騎士への道が、わたしの前に開かれたのなら、どんな状況でも食らいついて見せます!」
と勢い込んで言ったフィリアだが。
「……フィリアお嬢様。お父上からの手紙を読んだ限りでは、騎士への道は開かれてはいないようですよ」
独立騎士団団長アーサー・ヒューイは冷静な口調でフィリアに告げた。
「それは……どう言う意味ですか?」
父のアダムは確かに言ったのだ。
『お前は明日から、セーフフィールド独立騎士団の見習い騎士として、仮入団するんだ』と。
「お父上から『仮入団』のことは聞いていますか?」
ヒューイはフィリアに冷静な口調のままで問うた。
「はい。『仮入団』の意味は重々承知しております」
フィリアは姿勢を正して答える。
「それを知っていて諦めないからなのか……。お父上はお嬢様を簡単に『仮入団』させる気はないようですよ」
「ふぅ……」と深い溜め息をついて、ヒューイは言った。
「お父上の手紙にはこう書いてありました。『見習いの一人と対戦させて、娘が勝てば「仮入団」を許す』と」
ヒューイの言葉を聞いたフィリアは、驚き目を見開く。
(お父様は、そんなことは一言も――)
一言たりとも言っていなかった。記憶違いなどではないはずだ。
「フィリアお嬢様はわたしが見たところ、かなりお強いように思います」
フィリアはヒューイの言葉を聞いて、今度は目をしばたかせる。
「わ、わたしは強いのでしょうか?」
兄には勝てているが、他の比較対象が、弟のリアムくらいしか浮かばない。
隠居中の祖父は『剣聖』と呼ばれていて、父は王立騎士団長。
この二人とは比較すら出来ない。
弟はおそらく弱くはないが、兄のハリソンより強いと言うことはないだろう。
ならば、兄は? 兄はどれくらい強いのだろう。
「――あの、わたしは、どなたと対戦すれば良いのでしょうか?」
フィリアは、ぐっと両手を握り締めて言った。
相手が誰であれ、兄と対戦したときのように、勝つしか道はないのだから。
「なるほど……退く気はないのですね」
ヒューイはフィリアの瞳をしっかりと見つめながら言う。
「はい。退くことは出来ないのです」
フィリアはヒューイの瞳をじっと見つめて、訴えかける。
「なるほど。さすが『剣聖』イアン様のお孫様だ。肝が座っておられる。やはり、才能に性別は関係ないのだな……この国にも女騎士が必要なのは間違いないのだし……」
ヒューイの言葉の後半は、半分独り言のようだったが、フィリアの決意は伝わったらしい。
「ならば……ゼック。ベルモントを訓練場へ」
ヒューイの背後に控えていた騎士が敬礼し、扉の中へ入って行く。どうやら彼はゼックと言う名前らしい。
「アトウッド。お嬢様を訓練場へお連れしなさい」
ヒューイがアトウッドに言うと、「はい!」とアトウッドは敬礼しながら答え、フィリアの愛馬であるライザの手綱を持った。
「あっ! アトウッド様! ライザはわたし以外の人間には懐――あ! ライザ、お止めなさい! アトウッド様はわたしを案内して下さるのですよ!」
と叱ったが、とき既に遅し。
愛馬は大人しく賢い栗毛の雌馬だが、フィリア以外には懐かないと言う欠点がある。
アトウッドはライザに頭部をがっぷりと噛みつかれていた。
「い、痛い痛い痛い!」
それでもライザは本気で噛んではいないようだが。
「アトウッド様! ライザの手綱をわたしに!」
と言いながら、フィリアはアトウッドの手からライザの手綱を奪うように受け取った。
「うおぉ、痛かった……」
アトウッドは頭を押さえてしゃがみ込むが、幸いにして、怪我はしていないようだ。
「だ、大丈夫ですか?」
フィリアは外套のポケットから取り出したハンカチで、ライザの涎まみれになったアトウッドの頭部を拭き始める。
丁度額の辺りにライザの歯が当たっていたらしく、アトウッドはしきりに額をさすっていた。
「も、申し訳ありません。ライザは大変に賢い馬なのですが、わたし以外には警戒心を露にしてしまうのです」
フィリアは、しゅんと項垂れながら言う。
「お嬢様。どうか、お気にならさないで下さい。お嬢様の馬に不用意に近づいてしまったわたしが悪いのですから」
アトウッドはフィリアを一切責めたり、不満を漏らしたりせずに言葉を紡いだ。
「頭を拭いて下さってありがとうございます。訓練場は近くにありますが少し歩きますので、ご案内致します」
フィリアに軽く会釈して、アトウッドは立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
優しい心遣いに感謝しながら、フィリアはライザの手綱を引いて、アトウッドと共に、訓練場に向かって行った。
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