四十五話 正騎士の時~グレース王女殿下の自室にて~
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「――え? お兄様が?」
グレース王女殿下の口から王立騎士となっている兄、ハリソンの名前が出て来たので、フィリアは驚かずにはいられなかった。
「あ、え、ええと――グレース王女殿下。お初にお目にかかります。わたしはセーフフィールド独立騎士団が従騎士、フィリア・R・マースティンと申します」
フィリアは動揺しながらも片ひざをつき、頭を垂れてからグレース王女殿下に自己紹介をする。
「ええ。ハリソンの妹フィリアね。あなたのことは聞いています。どうぞ二人共、中に入って下さい」
グレース王女殿下はドアを開いて、シャロンとフィリアを部屋の中に招き入れようとした。
「よ、宜しいのですか?」
フィリアは思わず顔を上げてしまう。
「あなたのことはお父様とハリソンから聞いています。『ヤシン・ブリアン』を倒した強い意思と気高い精神を持つ女騎士だと。だから、私もあなたと会って話をしてみたかったのです」
最初こそ驚いていたものの、グレース王女殿下は、笑顔でフィリアに話かけて来るので、フィリアは少しだけ安心する。
だからと言って、気を抜いてはならないが。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます。グレース王女殿下」
とシャロンが言うが。
「以前のようにグレースと呼んで下さい。お願い致します。シャロン」
グレース王女殿下にお願いされてしまった。
「承知致しました。グレース様」
シャロンは笑顔で答える。
「さあ、フィリアも私の部屋へ入って下さい」
グレース王女殿下はフィリアに手を差し伸べる。
「は、はい。それでは失礼致します」
さすがに差し伸べられた手を取ることはできないが、フィリアはグレース王女殿下の部屋へと足を踏み入れた。
「あ……この部屋は三階の塔にあるのですね」
開かれた窓から首都が一望できるので、フィリアはここが塔なのだと気づく。
「ええ。その通りです。ここから街が見下ろせます」
グレース王女殿下の趣味なのか、あまり飾り気のない調度品で部屋は統一されている。
「さあ、お二人共お座りになって」
グレース王女殿下は、一目で一級品だと分かるソファーに座って、フィリアとシャロンを自分の向かい側にあるソファーに座るように促す。
「では、座らせて頂きましょう。フィリアちゃんも座って」
グレース王女殿下とシャロンに言われるまま、フィリアはソファーに座った。
「し、失礼致します。グレース王女殿下。座らせて頂きます」
フィリアは緊張しながら、シャロンの隣に座る。
「ああ、そうですわ。フィリア。あなたも私のことはグレースと呼んで下さい」
ソファーに座ったフィリアにもグレース王女殿下は、自分をグレースと呼ぶように言って来た。
「し、承知致しました。グレース王女――いえ。グレース様」
どうにも、グレース王女殿下のペースに呑まれている。とフィリアは感じる。
それに、グレース王女殿下の口から兄の名が出て来たことが気にかかってしょうがないのだ。
フィリアの兄ハリソンは、王立騎士団の正騎士で大隊長の地位にはいるが、十九歳と言う年齢からすると、重責過ぎることは兄自身も自覚している。
王立騎士と言う身分を抜きにすれば、下級貴族の男爵令息なのだから、ますますグレース王女殿下との接点は少なくってしまう。
「うふふ。私に聞きたいことはあるけれど、どうにも混乱して言葉が出て来ないと言う表情をしていますね」
グレース王女殿下に指摘され、フィリアは驚く。
「そ、そのような表情――いえ、色々と顔に出ていましたか?」
グレース王女殿下は微笑を浮かべながらフィリアの顔を見つめる。
「ええ。明確に分かるほどではありませんけれどね。私は人の表情から内面を読み取ることが得意なのです」
シャロンだったか、アーサー・ヒューイ独立騎士団長だったのかは思い出せないが、どちらかがグレース王女殿下を「聡明」と言っていた記憶があった。
それはこう言うことなのではないか。とフィリアは思う。
「では――まずは私からハリソンのことを話します。いきなり私の口からハリソンの名前が出てきて、フィリアは驚いたでしょう?」
グレース王女殿下の言葉にフィリアは黙って頷いた。
本来なら「はい」と一言だけでも返事をするものだが、動揺しているので頷くのが精一杯だ。
「実は数ヵ月ほど前から、私に専属騎士をつける話が出ていたのです。それは王立騎士団長からの提案でした」
フィリアは「王立騎士団長から~」の言葉が出たとたん、なんとなく察した。
「お父様とお母様にも専属騎士はおりませんから、最初は必要ない。と思っておりました」
詳しいことまでは分からないが、少なくとも数ヵ月前には兄が正騎士になったか、大隊長の地位を与えられたか、どちらかだろうな。とフィリアは考える。
「でも、それは同時にシャロンの護りの力を疑うことでもありますよね?」
グレース王女殿下の問いかけに、その通りだ。とフィリアは思う。
「おっしゃる通りです……シャロンを侮辱しているにも等しいです……」
フィリアは恥じ入るような気持ちで答える。
まだ王位継承権を与えられると決まっていないグレース王女殿下に専属騎士をつけることにどんな意味があるのか。
それは父の見栄としか思えないフィリアである。
もしも父が、グレース王女殿下に王位継承権を与えられることに賛成しているなら、この考えには当てはまらないのだが、そうではない。
「シャロン……わたしの父が大変な失礼を……ごめんなさい」
フィリアは泣きたいような気持ちでシャロンに謝罪する。
「フィリアちゃんが謝る必要はないのよ。そんな表情しないで、ね?」
シャロンは許してくれたが、フィリアの気持ちは晴れないままだ。
「フィリアも理解したように、王立騎士団長の提案はシャロンを侮辱しているにも等しいのです。けれど、何度断っても是非にと言うので、取り敢えずどんな人物かだけでも会ってみることになりました」
父のゴリ押しに兄も困っただろうな。とフィリアは思った。
「そうしたら――騎士団長は自分の息子を私の専属騎士に推薦していたのです。身内贔屓ならば、お父様もお母様も私も、本気で怒るつもりでした。けれど、実際会ってみたハリソンは――」
そう――きっと兄は気に入られたのだろう。
妹の贔屓目なしでも、兄はグレース王女殿下に仕えるに相応しい騎士だとフィリアは思っている。
「見目も性格も精神も志も剣技も、申し分ないどころか素晴らしい騎士ではありませんか」
グレース王女殿下に兄が手放しで褒められるのを聞いたフィリアは嬉しくなる。
「お父様もお母様もハリソンを気に入りました。もちろん私もです」
グレース王女殿下はフィリアの顔を見つめたまま微笑んだ。
「はい。グレース様。わたしの自慢の兄を気に入って下さりありがとうございます」
フィリアも笑顔でグレース王女殿下に礼を述べる。
「ですが、私はハリソンが周りからどんな評価を受けている人物なのか確かめる為、時々、こっそりと王立騎士団の訓練場へ足を運ぶようになりました」
フィリアはグレース王女殿下が間違いなく「聡明」な人物だと半ば確信した。
兄が周りからどんな評価を受けているのか、自分の目と耳で確かめようとしたのだのだから。
「ハリソンの評価は上々でした。だから私も安心して専属騎士になって貰おうと思っていましたが、ハンサウスの侵略からあと、お父様が私へ暫定的に王位継承権を与えると同時に――」
グレース王女殿下はそこで言葉を切って、
「フィリア。あなたを専属騎士にすると決めてしまいました」
グレース王女殿下も突然のことに戸惑っただろうな。とフィリアは失礼だと分かっていても、気の毒に思った。
「私はハリソンに会い話を聞きました。そうしたらハリソンは、『妹はきっとグレース王女殿下のご意志を確かめにくるでしょう』と言っていました。でも、本当に訪ねてくるかは半信半疑でしたけれど……」
シャロンに連れられて自分が来たので、驚いたのだろう。
(それにしても、お兄様はわたしの性格をしっかり把握しているのですね。まあ、お兄様もわたしもイアンお祖父様のお考えに賛同しているのですから、少し考えれば分かることかもですが)
仕える相手の意思を確認しない訳がない。と確信されている。だからフィリアは――
「兄の言った通りです。グレース様はわたしが専属騎士になることをお望みですか? それとも、兄が専属騎士になることをお望みですか?」
思い切って聞いてみた。
「わたしはグレース様の決定に従います。わたしが望まれなくとも、兄がグレース様に望まれるのは、大変喜ばしく思います」
フィリアは曇りのない笑顔で言い切った。
それは、間違いなくフィリアの本心なのだから。
「……そ、それならば……私は……やはり良く知っているハリソンを選びたいと思います。……でも、私はフィリアとももっと話しをして、あなたを知っていきたいとも考えます」
グレース王女殿下は言いにくそうだったが、専属騎士に兄のハリソンを選んだ。
が、フィリアとも友好を深めたそうに見える。
「それならば、グレース王女殿下。わたしは――」
フィリアはグレース王女殿下へと一つの提案を出してみた。
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