四十二話 正騎士の時~謁見の間にて(一)~
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フィリアは下級貴族の男爵令嬢なので、王城に上がる機会など今まで一度もなかった。
王城の中は石造りとは思えぬほど壮麗で、フィリアは圧倒されっぱなしである。
祖父イアンと共に通された控えの間も、椅子やテーブルやタペストリまで一目で分かる高級品だ。
「あの、イアンお祖父様。謁見の間には国王陛下の他にどなたがいらっしゃるのでしょうか?」
フィリアは控えの間に通されて五分もしないうちに不安になった。
「えーと、俺が最後に国王陛下と謁見の間で会ったときは、宰相と王立騎士団長と近衛兵が三人くらいか? あとは側近数人と――シャロンの師匠も控えていたな」
隣に座っているイアンは、視線を斜め上に向けて、遠い記憶を引っ張り出しながら答えてくれる。
「シャロンのお師匠様がですか。では、今はシャロンが……いえ、違うでしょうね。シャロンは基本的に西の山にいますから」
シャロンは自分の師匠のことをあまり語らない。語りたくないのではなく、語る必要がないからだろう。
フィリアもシャロンの師匠のことについては聞く必要があるとは思っていない。
「今はこの国を離れて遠くにいるはずよ」とシャロンから聞いた覚えがある。
「シャロンのお師匠様は、国王陛下に信頼された高位の国家魔術師だったのですか?」
するとイアンはどこか遠くを見つめているような眼差しになった。
「ああ、先代国王陛下からの信頼が厚かったな。シャロンも現国王陛下から信頼されているが……色々あって、今は西の山の守りについてるんだ」
シャロンが西の山の守りについている理由は、フィリアも一応知ってはいる。
シャロンの攻撃魔術の威力が強過ぎて、国王陛下の側近達に近くに置くのは危険過ぎる。と懸念されてしまったからだ。
だからこそ、フィリアは未だにシャロンが攻撃魔術を使うところを見たことがない。
「ところで……お祖父様は何故わたしと一緒に塔城することになったのですか?」
もしかしたら祖父は理由を知っているのかも知れない。と思いフィリアは問う。
「俺も分からないんだよな。シャロンにもよく分からないみたいだしな。まあ、取りあえずは気楽に待っていれば良い」
フィリアは祖父の呑気さと言うか、豪胆さに感心する。
(やはりイアンお祖父様は凄いです。理由も分からず国王陛下に呼び出されているのに平常心を保てるなんて)
と、感動しているところへ――
「イアン様、フィリアちゃん。国王陛下がお呼びよ」
と言いながら控えの間にシャロンが入ってきた。
「あら? シャロンもわたし達と一緒に国王陛下に謁見するのですか?」
謁見の間とは反対方向から入って来たシャロンにフィリアは問いかける。
「ええ。そうよ。わたしもイアン様とフィリアちゃんと一緒に謁見するの。なんでも国王陛下がわたしとイアン様に何かおっしゃりたいことがあるみたいなの」
シャロンの答えに、フィリアは不安な気持ちになった。
シャロンは、東の山での国王陛下への口の聞き方を咎められるのではないか? と。
「それじゃあ、イアン様。フィリアちゃん。行きましょう」
シャロンに促され、フィリアは緊張しながら謁見の間へと足を踏み入れる。
――そこには、部屋の中央に赤い絨毯が敷かれ、絨毯の左右には、何十人もの男ばかりの貴族の姿があった。
赤い絨毯の先には一段高い場所に王座があり、金の王冠を被り紫の服を着て、白いマントを羽織り、白いズボンを履いた国王陛下の姿があった。
国王陛下の左右に控えるのは、宰相と側近の将軍だ。その背後に王立騎士団長であるフィリアの父、アダム・I・マースティンがいる。
フィリア達は国王陛下から少し離れた場所まで歩いて行くと、片ひざをついて頭を垂れた。
「うむ……三人共面を上げよ。特にイアンは我にしっかりと顔を見せてくれ」
フィリアは謁見の作法とは違うことを言う国王陛下の言葉を聞き、思わず一度目で顔を上げてしまった。
作法に則れば、本当に顔を上げて良いのは二度目に声をかけられてからなのだ。
フィリアはしまったと思ったが、国王陛下は誰も咎めはせず、懐かしそうな表情でイアンの顔を見つめている。
「……イアンよ。よく我の呼び出しに応じてくれた。感謝する」
何が起こっているのかよく分からないフィリアは、そっ、と横目で祖父の顔を見る。すると祖父は真面目な表情で国王陛下を見つめ返していた。
「シャロンと二人がかりで説得されても、首を縦に降らなかった我を許してくれるか? イアン」
すると、イアンは一度目を閉じると、真面目な表情から穏やかな微笑を浮かべた表情に変わる。
「許すも何もありません。わたしは国王陛下に対して、何一つ悪しき感情を持ってはおりませぬ」
それは、とても優しい声音だった。
フィリアはいつも思っていた。なぜに祖父は、こんなに優しい声音が出せるのだろうと。
声色が変わるのではなく、感情を声に乗せるのが昔からとても上手いとフィリアは思っていた。
「そうか……ありがとう。イアン」
国王陛下は笑顔でイアンに礼を述べると、徐に立ち上がる。
「皆の者! 我はこの度、我が娘グレースへと暫定的に王位継承権を与えることに決めた! ハンサウスに侮られ、つけ込まれる隙を与えてはならぬと悟ったのだ!」
国王陛下は謁見の間にいる全ての者に、強い決意を込めて宣言する。
「イアンとシャロンが以前から我に進言していたのだが、我は聞き入れることができなんだ。それゆえに今回ハンサウスに侮られ、つけ込まれた」
そこでフィリアは漸く理解する。
祖父イアンと、親友である国家魔術師のシャロンが、国王陛下にグレース王女殿下へ暫定的でも王位継承権を与えるよう進言していたのだと。
特にシャロンは王城へ赴くことが多かったので、祖父のイアンが西の山へ隠居したあとも、ずっと進言を続けていたに違いない。
何故なら左隣にいるシャロンが、感激した様子で国王陛下を見つめているのだから。
きっとそうなのだろうと、フィリアは半ば確信したのである。
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