四十一話 正騎士の時~セーフフィールド独立騎士団前にて~
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その日のフィリアは茶色の長い髪を首の後ろでしっかり一つに結んだ。
自身の髪色にも似た独立騎士団の制服の上に、革の鎧を着て、同じく肘の辺りまでの長さの革手袋、膝まで覆う革のブーツを履いている。
腰には両刃で幅広の剣。
この魔法剣はフィリアの祖父であるイアンが手に入れたものだからと、国王陛下からそのまま持っているように言われたのだ。
授けられた。のではなく、預けられた。とフィリアは考えるが、どっちなのかは分からない。
フィリアがセーフフィールド独立騎士団の正面扉前で待っていると、シャロンと談笑しながら、少し伸び気味の短い黒髪に所々白髪が交じった男性が歩いて来る。
その男性はセーフフィールド独立騎士団長が纏う銀鼠色の鎧を身につけて、藍色のマントを羽織っていた。
背筋は真っ直ぐで実年齢の六十七歳より遥かに若く見える。
顔立ちは彫りが深いほうではないが、くっきりとした二重瞼に真っ黒な瞳が印象的だ。
鼻筋は綺麗に通っており、唇はやや薄い。
背筋が伸びているのと白髪が少なく、顔の皺も少ないので、やはり六十七歳には見えない。
全体的に穏やかな印象を受けるが、目の奥には、いつも鋭い刃を隠しているようにも思える。
フィリアは堪え切れずにシャロンと共にこちらへ歩いて来る祖父、イアン・マースティンのほうへと走り出す。
「――イアンお祖父様!!」
イアンの元へと辿り着くと同時にその腕に抱きついた。
「おお、フィリア! シャロンから活躍を聞いてるぞ。良くヤシン・ブリアンを倒せたな。さすが俺の孫娘だ!」
フィリアが幼い頃から憧れてやまない祖父のイアンは気さくな調子でフィリアを褒める。
良く通る、耳に心地良いテノールの声。
ごつごつしているが大きくて暖かい手がフィリアの頭を優しく撫でる。
「イアンお祖父様!! 会いたかったです!!」
フィリアが感極まった様子で言った。
「おいおい。独立騎士団に入ってからは以前より頻繁に会ってるだろうが?」
するとイアンはフィリアの頭を撫でる手をとめて不思議そうに問いかけた。
「だって……だってお祖父様が北の山で大活躍したのに、わたしはお祖父様と一緒に戦えなかったし、活躍も見られなかったから、少し残念なのです」
フィリアはシャロンとほぼ同じ身長のイアンを見上げながら、拗ねた子供のように言った。
「ふふっ……初めて見るわね。フィリアちゃんのこんな甘ったれた姿」
シャロンが微笑を浮かべながら言う。
「……お祖父様も知ってるかもですが、今日はわたしにとって大事な日なんですもの……」
フィリアは不安げに言った。
「ん? 東の山での武功の褒美かなんかじゃないのか? フィリアが不安に思うことはなんだ? 俺に言ってみると良い。何かアドバイスができるかも知れないからな」
イアンはフィリアに助け船を出す。
――そうして、フィリア達はシャロンの空間移動の術で王城へ続く長い階段前へとやって来た。
階段を使えば王城まで十五分ほどで着く。
フィリアとイアンが話し合いをする時間を取る為に、シャロンは王城の門の前ではなく、階段へと空間移動したのだろう。
「――で、どうしたんだ? 何が不安なんだ?」
階段を上りながらイアンはフィリアに問いかける。
「わたしは、強くて優しく力なき人を守れる騎士になりたいと思って――『剣聖』と呼ばれ、多くの人から慕われているお祖父様のような騎士になるべく頑張ってきました」
フィリアは自分の気持ちをゆっくり吐き出すように話して行く。
「けれど今回。国王陛下は、わたしを王立騎士団へ入団することを認め、正騎士に昇格させたのちグレース王女殿下の専属騎士に抜擢することを決められたのです……」
フィリアの言葉を聞いたイアンは眉間に皺を寄せる。
「ちょっと待て。それはアダムも承知してるのか?」
とフィリアではなく、シャロンに問いかける。
王城内部のことは、フィリアより国家魔術師であるシャロンのほうが詳しいからだろう。
「表向きは、国王陛下のお考えに従ってるわね」
シャロンはイアンと似た感じに眉間に皺を寄せてに答えた。
「つまりそれは、内心じゃ反対してるってことだな?」
シャロンは残念そうに頷いた。
「はぁ~……あの馬鹿息子が……フィリアが王立騎士団に入っても何かにつけてネチネチ難癖つける姿が目に浮かぶようだ」
イアンはがりがりと頭を掻いた。
「フィリアはどうしたいんだ?」
イアンはフィリアの気持ちを確かめるべく問いかける。
「わたしは……力なき人を守れる騎士になりたいと思っています。……けれど、王立騎士団に入って父に自分の実力を認めさせたいとも思います。そして――」
一呼吸おいて言葉を続けた。
「グレース王女殿下をお守りしたいと思っているのも事実ですが、自分の気持ちが王女殿下をお守りするより父を見返すことに重きをおいてしまわないかと不安です」
「ふぅ」とフィリアはため息を吐きイアンの顔を見ながら更に続けた。
「わたしはこのお話を聞いたとき、グレース王女殿下に暫定的でも王位継承権が与えられることを快く思っていない父と上手くやれるのか自信がない。と心弱いことを思ってしまいました。だから――」
「待て。アダムの馬鹿は王女殿下に王位継承権が与えられることにも不満を抱いてるのか?」
フィリアの言葉に被せるようにイアンが呆れた表情で言った。
「そう、ですよね? シャロン」
フィリアはシャロンに確認するように問う。
「そうよ。王立騎士団長はグレース王女殿下へ王位継承権を与えることは反対してるわ。反対してる者は他にもいるけどね」
シャロンはフィリアの問いかけに、新しい情報を乗せて答えた。
「やはりお父様の他にも反対している方はいるのですね。ではグレース王女殿下はわたしが専属騎士になることを望まれているのですか?」
グレース王女殿下自身が望まれていないなら、例え国王陛下が是非にと言ってくれても、フィリアは断るつもりだ。
「わたしはあの一件以来。東の山にも定期的に防御結界を張ることになったから、以前より王城へ赴くことが多くなったけど、グレース王女殿下のお姿を見たことは一度もないわね」
シャロンは「そもそも、国王陛下はグレース王女殿下をあんまり公の場に出さないようにしてるのよね。全くもう……」とぶつぶつ文句を言い始める。
「それならば、グレース王女殿下に謁見させて頂けるか国王陛下にお願いしてみます。まずは王女殿下のお気持ちを確かめたいのです」
守るべき相手に望まれているのかすら分からないのでは、判断のつけようがない。
「それが叶わないならば、わたしは独立騎士団で正騎士になることを選びます」
とフィリアは言い切ったが。
「それなら、フィリア自身はどちらを選びたいんだ? お前を良く思っていない者がいる中、実力を示すために茨の道を選ぶか。それとも、多くの人々を救う手を差し伸べる者となるか」
イアンがもう一度問いかける。
「わたしの心は独立騎士団にあります。けれど、女性でありながらこの王国で初めて王位継承権を与えられるグレース王女殿下をお守りしたいとも思っています」
父への気持ちは複雑だが、騎士たる者、必要とされているならば応じるべきだと思う。
フィリアの心は自分を疎ましく思う者より、守るべき対象へと向けられていた。
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