四十話 正騎士の時~セーフフィールド独立騎士団本部にて(三)~
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ここはフィリアの自室。
フィリアは衝撃を受けただけでなく混乱もしていたので、制服を着たまま自室のベッドで休んでいる。
だが、この部屋にはフィリアだけでなく、衝撃発言をした先輩正騎士ロジャー・ゼックに、ゼックと同室の正騎士カーシー・アトウッド。
更はアトウッドの従騎士で、フィリアの同期で友人でもあるルーク・ベルモントもいる。
「ゼック……その話は折を見て話すことになっていただろう?」
アトウッドは薄い金の髪に緑の瞳の柔和な顔立をしており、気さくで優しい性格だ。
そんなアトウッドが呆れたように言った。
「良い機会だと思ったので言ってしまいましたが……ダメでしたかね?」
ゼックが気まずそうに答える。
「グレース王女殿下へ暫定的に王位継承権が与えられると同時に、王立騎士団へ入団し正騎士になる。その上にグレース王女殿下の専属騎士への抜擢」
アトウッドが指折り数える。
「情報量が多いだけならまだしも、全てが異例だらけの内容だ。そこに我が騎士団でも正騎士へ昇格の話まで出ているとなると、混乱するに決まっているだろう?」
諭すような口調で話った。
「ゼック先輩、アトウッド先輩の言う通りです。全てがこの国では異例だらけの内容です。マースティンが混乱するのも無理はないですよ」
ベルモントもアトウッドと同意見のようだ。
短気な黒髪黒目の少年は、三年経ってもやはり短気な性格には変わりはない。それでも随分と落ち着いた雰囲気にはなっているが。
「ベルモントにまでそう言われてしまうと、自分の浅慮さが余計に浮き彫りになるな――だから団長も言わなかったのか……」
ゼックは自らの言動を恥じるように俯いた。
「い、いえ……我が騎士団がわたしのことを買って下さるのに、わたしがこんな有り様なんて……自分の心弱さが悔しいです」
フィリアは衝撃から立ち直って、ベッドからゆっくり起き上がりながら言う。
「お、マースティン。大丈夫なのか? 無理はするなよ」
ベルモントは座っていた椅子から立ち上がり、フィリアに手を貸そうとベッドの側まで歩いて来る。
「ありがとうございます。ベルモント。ところで、アトウッド先輩もベルモントも今日は非番でしたっけ?」
フィリア、ゼック、アトウッド、ベルモントの四人はセットで動くことが多いのだが。
フィリアとゼックは団長に呼ばれたので半休となっているが、アトウッドとベルモントは非番ではなかったはずだと記憶している。
「まーだ少し混乱してるな。時計見ろよ。今は昼食の時間だぞ」
ベルモントに言われて壁かけ時計を見ると、今は十二時を十五分ほど過ぎたところだった。
「あ、あら? そ、それでしたらゼック先輩の給仕をしなくては――」
教えを乞うている先輩正騎士の給仕をするのは従騎士の務めの一つだ。
フィリアは急いで立ち上がろうとするが。
「いや、マースティンを混乱させたのはわたしだからな。給仕のことは気にしなくて良い」
とゼックはそれを制した。
「そうそう。それに、マースティンは頑張り過ぎだ。今日くらいは全部ベルモントに任せて休むと良い」
アトウッドがさり気なくベルモントにフィリアの仕事を押しつける。
「う、あ――わ、分かりましたよ。マースティンはベルモント精肉店の恩人だ! 今日一日は全部俺に任せておけ!」
片手でフィリアの体を支えながら、ベルモントは空いたほうの手で自分の胸を軽く叩いた。
「……ありがとうございます。ベルモント。でも、あなたも北の山では大変だったでしょう?」
フィリアの気遣いにアトウッドが快活に答えた。
「何度も言っていると思うが、北の山での戦いは『剣聖』イアン様の独壇場だったぞ。あのお方の、鋭く素早く重い剣技には敵も味方も圧倒されっぱなしだった」
イアンの戦い振りを思い出して瞳をキラキラ輝かせるアトウッドは、まるで少年のようだ。
「ああ、マースティンが男で歳を取ったらあんな感じになるのか。って思ったよな」
ベルモントがフィリアの顔を見ながら楽しげな笑顔を浮かべる。
「北の山で我々を率いて戦ったイアン様の勇姿は素晴らしかった……」
ゼックまで、イアンの勇姿を思い出して瞳を輝かせる。
「――と言うことで、北の山での我々は大変ではあったが、それよりもイアン様と共に戦えたことが本当に幸運だったと思っている」
つまり、北の山では大変でもあったが、それ以上に得られた物があった。
とアトウッドは言っているのだ。
「――そうそう、だからマースティンは安心して休んでてくれ」
ベルモントが笑顔で締めくくり、三人はフィリアの部屋から出て行く。
フィリアも、もう少し気持ちが落ち着いたら食堂へ行って昼食を食べようと思った。
けれど……とフィリアは考える。
グレース王女殿下の専属騎士になれば、王立騎士団初の女騎士になれる。
今までにない大抜擢で大出世だ。
だが、父と上手くやって行く自信がどうとか言う前に、フィリアが守るのは王女殿下ただ一人になる。
フィリアは『剣聖』と呼ばれる祖父イアンの背中を目指して、ここまで来た。
祖父のように、『剣聖』と呼ばれるまでにはまだまだ研鑽を積まねばならない自覚はある。
(わたしイアンお祖父様が騎士であった頃の代名詞である『強くて優しい騎士』と言って貰えましたが、優しく強く弱き者を守れる騎士になれた――いいえ。なれるのでしょうか?)
――とそこまで考えてフィリアはなんとなく気づいた。
自分が、どんな騎士になりたいかを。
だが、それには自分の心弱さを克服しなければならないと思う。
「父と上手くやって行ける自信がない」など考えてしまった自分が非常に情けなく思えた。
「それならば――けれど……」
フィリアはどうするべきなのか、考える。
(王立騎士団に入団し、グレース王女殿下の専属騎士になってお父様に実力を見せるべきでしょうか?)
だが、それだとグレース王女殿下を守る為と言うより、父を見返す為に専属騎士になる。に、なりはしないか……そんな思いが頭から離れず、フィリアは悩み始めた。
どんな騎士になりたいかはなんとなく見えたのだが……どうするべきかは、いまだ決まらないでいる……。
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