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四話 変転の時~茨の道であろうとも~

 宜しくお願い致しますm(_ _)m

 ここは少し簡素かんそで、それでも上質な家具がそろえられたフィリアの自室。


「……考え直さないか?」


 兄のハリソンはフィリアによく似た端正な顔立ちをしている。


 碧眼の瞳はフィリアと同じだ。


 短い髪の色は父のアダムと同じく黒だが、だからと言って兄を嫌いな訳ではない。


 フィリアは美しくて優しい兄が大好きなのだ。


 兄はベッドの上に座ったまま、フィリアに語りかける。


 フィリアは荷物をまとめている途中だ。


「今回のことはお父様がフィリアの才能を認めたくないから、仕組んだことだよ」


 頭の固い父のアダムが、簡単に騎士への道を開くはずがないと、フィリアも思っている。


 だから、セーフフィールド独立騎士団へ「仮入隊」の意味を理解した時点で、フィリアも父の考えをさとったのだ。


 それでも――


「聞いてるのかい? お父様はフィリアの才能を認めていないんだよ」


 兄は心配で堪らないのだろう。


「ええ、聞いていますわ。お兄様」


 フィリアは荷物を纏める手をとめて、自分の背後にいる兄を見上げながら言った。


わかっていても、チャンスはのがしたくありませんから」


 迷いのない口調で言葉を続ける。


「お兄様は、イアンお祖父様の才能を受け継いだのは、わたしだと理解して下さっているんですよね?」


 兄に問いながら、フィリアは纏めた荷物をベッドの上に置いた。


「ああ、もちろんだよ。隠居されているお祖父様が知ったら、きっと喜ぶだろうね。それに、稽古もつけられていないのに、あのすきのない構え。驚いたよ」


 フィリアは、おそらくもう一つ何か袋が必要になるはずだ。と思いながらクローゼットから大きめの鞄を取り出す。


 カーテンの隙間から、銀色に輝く三日月が見えた。


 二つ目の荷物を纏めながら、ちらりと兄を見ると、焦燥しょうそうにかられたような表情をしている。


 その中に、戸惑いと不安の色も見て取れた。


「お兄様……わたしがセーフフィールド独立騎士団へ仮入隊することが、不安でならないのですよね?」


 兄の顔を見つめながら問いかけると、兄はベッドから立ち上がり、怒っているような口調で言った。


「当たり前だ! 可愛い妹を心配しない訳がないだろう!? 僕はフィリアが傷モノにされないかと心配で、心配で――っ!」


 兄が怒ることなど滅多にない。

 

 いや、怒っているのではない。と分かっていても、フィリアは眼を大きく開いて、驚いてしまった。 


「……ごめん。大きな声出しちゃったね。でも、本当に心配なんだよ……」


 フィリアは荷物から手を放すと立ち上がり、気まずそうな表情になった兄に近づいて行く。


 兄の前に立ち、カーテシーのポーズを取ったあと、兄に思い切り抱きついた。


「お兄様を心配させるわたしは悪い妹です! でも、諦めることは出来ないのです!!」


 一日に二度も妹に抱きつかれた兄は、驚きを隠せないでいる。


「お兄様。わたしは、どうしても諦めるつもりはないんです。イアンお祖父様のように沢山の人を守れる、強くて優しい騎士になりたのです!」


 フィリアは頭二つ分高い兄の顔を、見上げながら言った。


 その言葉を聞いた兄は困ったような表情になる。


「ずっとずっと幼い頃から、『剣聖』と呼ばれるイアンお祖父様を目標にしてきたのです! 分かって貰えなくても、わたしは――」


 みずからの思いを力強く語るフィリアの様子を見て、兄は諦めたように言った。


「……分かったよ。フィリア。固い決意だと理解した」


 兄は抱きついているフィリアから身を離し、吹っ切れたような笑顔になると。


「それなら僕に出来ることは、身を守る方法を教えることだな。大丈夫、イアンお祖父様の才能を受け継いでいるフィリアなら、すぐに体得できるよ」


 そうして、フィリアは、兄から数時間に渡ってみっちりと護身術を叩き込まれたのだった。



◇◆◇◆◇


 翌日。フィリアは愛馬であるライザに乗って、王都の中心地にあるセーフフィールド独立騎士団の本部へと旅立つことになった。


 母は兄がなだめてくれたらしいが、それでも、諦め切れない様子で、馬上のフィリアを見つめている。


「うっ、うっ……どうして考え直してくれないのです……ぐすっ」


 白いレースつきのハンカチを手に、眼を涙でらした母がフィリアに懇願こんがんする。


「わたしは、フィリア。あなたに傷ついて欲しくなくて……ううっ」


 母は今にも崩れ落ちそうな風情で兄に支えられている。


「ごめんなさい。お母様。それでも、わたしは諦めたくないのです!」


 フィリアは兄のハリソン、母のセーラ、父のアダム、弟のリアムの順番で視線を合わせると、馬上でお辞儀をして、愛馬の腹を蹴った。


「お母様! お兄様! お父様! リアム! 皆んなお元気で! わたしはきっと立派な騎士になって見せます!」 


 駆けて行く馬の上でフィリアは叫んだ。


 それは決意の叫びでもあった。


 セーフフィールド騎士団本部までは全力で馬を駆けて一時間弱。


 マースティン男爵家は王都の外れにあり、小山の近くにある。


 乗馬はフィリアの趣味でもあったから、一時間弱程度、愛馬で駆けるのは苦ではない。


 希望と不安を胸のうちかかえて、フィリアは馬で駆けて行く。


 王都中心部近くにある、セーフフィールド独立騎士団本部へ向かって。

 

 お読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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