三話 変転の時~騎士への道は……~
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母と兄の三人で屋敷に帰ったフィリアは窓を締め切った居間で、父のアダムから一通の封書を手渡された。
居間の天井にはシャンデリアがあり、窓から差し込む昼間の光を反射して、部屋中が明るく照らされている。
「……お父様。これは?」
封書は赤い蝋で閉じられており、蝋にはマースティン家の紋章が押されている。
それは、いわゆる封蝋と呼ばれるものだ。
「お前も知っているだろう? ケアフィールドで有名な独立騎士団のことは」
父に問われたフィリアは封書を見つめながら答える。
「セーフフィールド独立騎士団ですね。国民の有志で結成された」
ケアフィールドの冒険者やら剣術自慢の一般国民が、自治の為に立ち上げた騎士団だ。
国立騎士団は国王直属だが、独立騎士団は国に認められてはいるものの、国立騎士団とは違い、国王の直属ではない。
品格も国立騎士団と比べ遥かに劣っていると言われている。
が、間違いなく正規の騎士団だ。
「セーフフィールド独立騎士団の団長アーサー・ヒューイとは知己だ。お前は明日から、セーフフィールド独立騎士団の見習い騎士として、仮入団するんだ」
フィリアは父の言葉を聞いて、一瞬耳を疑った。
「お父――」
父の考えが今一つ分からず、問いかけようとするフィリアの声は、いつの間にか居間に入って来ていた母のセーラに遮られる。
「何を考えているのです!? あなたは!!」
フィリアが思わず震え上がってしまうほどの剣幕で怒鳴る母を、追いかけてきた兄のハリソンが抑えた。
「お母様! 落ち着いて下さい!」
兄の言葉を聞いても、母の怒りは止まらない。
「王立騎士団ならともかく!! どこの馬の骨ともつかない者達が集まっているのでしょう!? 男爵家の娘が入って良い集団ではありません!!」
それでも、かつてない母の剣幕にも、父は何食わぬ顔だ。
「おいおい。セーフフィールド独立騎士団を成らず者の集まりみたいな言い方をするものではないぞ? セーラ」
フィリアとて、セーフフィールド独立騎士団が成らず者の集まりなどではないと知っている。
フィリアは意味が分からず不思議そうに、怒る母を見つめた。
「あなたという人は!! 自分の娘が心配ではないのですか!? それほど女を下におきたいのですか!?」
フィリアの戸惑いなど気づかぬままに、母は今までの鬱憤を晴らすかのように、怒鳴りまくっている。
そこへ、母を止めるのを諦めた兄が、フィリアの側に来て話し出す。
「見習い騎士はともかく、『仮入団』となるとなぁ」
兄は不安げな表情を浮かべる。
「お兄様。『仮入団』だと何がいけないのでしょうか?」
フィリアの問いに、兄は不安と思案が入り交じった表情になって答えた。
「……独立騎士団自体に問題はないんだけどね。入団志望者は上品な人間ばかりじゃないんだよ」
フィリアは兄の言葉の意味を咀嚼するように繰り返す。
「入団希望者は上品な人間ばかりじゃない……」
つまり粗野な性格や性質の人間も交ざっているのだろうか? とフィリアは考える。
「正式に見習い騎士になった者は、騎士としての資質有りと認められるけど、『仮入団』している者の中には、騎士として相応しくない性格や性質の人間も少なくないんだよ」
兄の言葉から察するに、自分の考えは当たっているのだ。とフィリアは思った。
となると、騎士として相応しくない人間達の中に自分が交ざることを考えると、フィリアも少し不安になる。
母が今までにないような怒り方をしている訳も理解ができた。
父が団長を務める王立騎士団ならば、フィリアにも顔見知りの騎士がおり、副団長とは言葉を交わしたこともあり、それに王立騎士団の団員は貴族や身元が確かな者達で統一されていた。
だが、独立騎士団となると、そういう訳には行かない。
それでも――とフィリア考えた。
王立騎士団だろうが、独立騎士団だろうが、剣術という暴力が根底にあるのだから、粗野な人間が交じるのは当然なのではないか。とフィリアは思う。
この考えは祖父であるイアンの受け売りではあるが、フィリアも理解して納得している。
(イアンお祖父様のお考えは、間違っていません。だからこそ、この国にも女騎士が必要なのだと思います……)
「剣聖」と呼ばれる祖父は『剣術を学ぶ者に性別は関係ない。国の盾であり剣である騎士ならば、尚更女騎士は不可欠な存在になるかも知れない』と予想していた。
その考えを知っているからこそ、フィリアは諦めるつもりはない。諦めることを選択肢に入れていない。
不安に思う心があろうと、母が心配していようとだ。
「お母様。お兄様。ご心配下さりありがとうございます。けれど、諦めるつもりはありません。わたしの目の前に、騎士になる道が開かれたのですから」
フィリアはキッパリと言い放った。
「フィリア! 本気かい!?」
兄が心配そうにフィリアの顔を見つめる。
「はい!」
が、フィリアはすっかり覚悟を決めた表情をしている。
「だ、ダメよ! フィリア! 独立騎士団に『仮入団』なんて!」
フィリアの覚悟を聞いても、母は認めたくないようだ。
「女の子が粗野な男ばかりの集団に入るなんて! わたしは認めません!!」
フィリアはまだ十二歳だが、貴族であるから婚約者がいてもおかしくはない年齢でもある。
なので、母が心配するのは無理もない。とフィリアは思う。
「お母様……大丈夫です。わたしは何があって諦めないし、負けません」
無理もない。と思っていても、諦めることを選択しないフィリアは、母に安心して貰いたくて声をかける。
――が父は違った。
「セーラ。お前が認めなくても、わたしとフィリア自身も決めたことだ。口出しはするな」
明らかに、『お前には意見する権利などない』とでも言うかのように、怒鳴っても怒ってもいないが、威圧的な口調で母に告げたのだ。
「わ、わたしの心配が分かっていながら――もう、知りません! お好きにすれば良いわ!」
母は怒りに燃えた口調と表情で、足早に居間から出て行ってしまった。
「お母様! 落ち着いて下さい!! フィリアもよく考えるんだ!!」
そんな母を宥める為なのか、母を追いかけて居間を出て行く兄は、フィリアにも声をかけた。
「お兄様。お母様……ごめんなさい」
二人が部屋から出て行ったあとに、フィリアは、ぽつりと謝罪の言葉を口にして誰にともなく頭を下げる。
オレンジ色の長い髪が、さらりと肩を流れる音が耳に入り、母の怒りの声は居間から出たあとも、廊下からずっと聞こえ続けた。
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