二話 始まりの時~兄と剣術で対戦。そして……~
一話からお読み下さっている読者様。この回から読んで下さっている読者様に感謝致しますm(_ _)m
思いもよらず、兄のハリソンと対戦をすることになってしまったフィリアは少々困惑していた。
兄もフィリアも普段着のままだ。
フィリアは青いワンピース姿。
白いシャツに茶色のベストと同色のズボンを着た兄は、端正な顔に焦りの表情を浮かべている。
フィリア自身も困惑しているが、兄はそれ以上に困惑している様子だ。
それでも、フィリアは反省するつもりなど欠片もない。だから、やはり対戦は避けられないと思っている。
兄のハリソンはフィリアより三つ年上だ。
誰もが兄が勝つと思っているだろうことはフィリアにも解っていたが、勝たなければ騎士に成れる未来はないとも思っていた。
(お兄様と剣術で対戦するなんて……でも、負けるわけにはいかないわ!)
フィリアと兄は、父であるアダムに屋敷内の剣術道場まで連れてこられていた。
そこは、屋敷から少し離れた場所にある、広々とした建物だ。
真昼の日射しが、僅かに道場内を照らしている。
フィリアは困惑中でありながらも、昔、祖父のイアンに、この道場へと連れてこられたその日を思い出しそうになっていたが――
「あなた! いくらなんでもやり過ぎですわ!」
道場の入り口付近で、父と母が言い争っている声が耳に入り、現実に引き戻された。
珍しく、母のセーラが父のアダムに抗議している。
「うるさい! お前の育て方が悪いからこんなことになってるんだろうが!」
父は母の抗議に耳を貸さず、逆に母を責めている。
「なっ! なんですって!?」
これには母も怒りを覚えているようだが、言い返したところで意味はないと思っているのか、唇を噛んで黙り込んでいた。
フィリアは、自分の行いが間違っていないと確信している。
だからこそ、何があろうと兄に勝たなければならないと考えていた。
父を納得させるには、それしかないと思っているので、怒っている母から目を背け、木剣を持って兄に一礼する。
「フィリア、本気な――!」
兄のハリソンは、フィリアの構えを見た瞬間、言葉を切って、フィリアに一礼してから木剣を構えた。
「始め!」
審判役の父のかけ声と共に対戦は始まったが、だが、兄もフィリアも動かない。
双方共に相手のわずかな動きにまで集中している。
フィリアは兄が警戒していることを瞬時に覚った。
兄が強い相手だと理解したので、こちらから下手に動くことは出来ないと思い、様子を伺う。
「どうしたハリソン! 妹相手に臆したか!?」
じりじりと焦れた父が、兄に発破をかける。
その声で、ぴくっと体を震わせた兄に、あからさまな隙が出来たのをフィリアは見逃さなかった。
フィリアは一瞬で接近し、木剣の切っ先で兄のみぞおちに突きの一撃を入れる。
「――っ!」
フィリアの突きは軽めの威力ではあったが、兄に確実なダメージを与えた。
崩れ落ち、木造りの床に片ひざをついた兄の喉元に、木剣の切っ先を突きつける。
フィリアが横目で、ちらりと父を見ると、父は両肩を震わせながら青ざめた顔色になっていた。
唇がわなわなと震え、声も出ないようだ。
母のセーラも目を白黒させている。
「お父様、ちゃんと、審判を、務めて下さ、い……」
フィリアが持つ木剣の切っ先を喉元に突きつけられている兄のが、苦しそうな声音で父に声をかける。
「……ッ! 勝者……フィリア!」
葛藤の末だろうか? 父は絞り出すような声音でフィリアの勝利を口にした。
フィリアは音もなく、兄の喉元から木剣の切っ先を離すと、あわてて両膝をつく。
「ごめんなさい! お兄様! わたしの力加減が下手でお兄様に辛い思いをさせてしまいました! ごめんなさい!」
フィリアは必死になって謝罪するが、兄は片手でフィリアの頭を撫でながら微笑んだ。
「そうか……やっぱりお祖父様の天賦の才はフィリアに行っちゃったか……」
痛む腹部を片手で擦りつつ、兄は言葉を続ける。
「フィリアが木剣を構えたとき、『もしかして』って思ったんだよね……お父様も、あの瞬間に解っていたはずですよね?」
兄が父へと目を向け、声をかける。
父は怒りや悔しさが抑えられないのだろうか? 黙って道場の外へ出て行ってしまった。
「お兄様は、わたしが剣を手にすることに反対はなさらないんですか?」
フィリアは兄であるハリソンにも怒られるか呆れられて、反対されるのではないかと内心ハラハラしていたのだ。
すると兄は腹部を擦りながら、フィリアの頭から手を離し、立ち上がる。
「僕はイアンお祖父様のお考えに賛同してるんだ」
「……イアンお祖父様のお考えにですか。だから、わたしを怒らないんですね」
父方の祖父イアンが「剣術を学ぶ者に性別は関係ない。国の盾であり剣である騎士ならば、尚更女騎士は不可欠な存在になるかも知れない」と予想していたことをフィリアも覚えている。
フィリアは嬉しくなり、思わず横から兄に飛びついた。
「お兄様! わたしの願いを否定しないでいてくれてありがとうございます!」
兄はびっくりしてはいたが、もう一度フィリアの頭を優しく撫で始める。
「……二人とも、屋敷に戻りましょう」
全ての成り行きを見ていた母のセーラから声がかかる。
母とあとについて、フィリアは兄と手を繋ぎ、屋敷まで歩いて戻っていった。
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