三十五話 決戦の時~最終決戦(一)~
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両刃で幅広の剣を躊躇なくぬき放ったフィリアは、目の前に迫って来たハンサウス兵に向かって上段から斬り下ろす。
――ズバッ、とフィリアが振るった剣の起動が風の刃となって、ハンサウス兵の右肩に深い傷を負わせる。
ハンサウス兵はフィリアに剣を届かせることなく、がくりと膝をつき前のめりに倒れた。
「――それは! 両刃で幅広の剣か!!」
灰色の魔術師専用ローブを着たジンザが叫ぶように言った。
「あら、両刃で幅広の剣のことを知ってるの?」
円陣の中で何かの呪文を唱えていたシャロンが詠唱を中断させ、驚きながらジンザに問う。
「当たり前だ! 両刃で幅広の剣はハンサウスの名工が作った魔法剣だぞ!!」
敵の口から両刃で幅広の剣の出自を知ったフィリアだが、だからと言って使うことをやめるなどと言う考えにはならない。
「ふふ……その魔法剣が、何故にケアフィールドの宝物庫に眠っていたのか、知ってるかしら?」
シャロンが薄く笑いながら言った。
「両刃で幅広の剣は先の戦で失われたと聞くが、ケアフィールドの者に奪われていたのだな……」
ジンザは悔しげに言うが、自分から取り戻そうとする様子は見せない。
「そうよ。『剣聖』イアン様が先の戦で手に入れたのよ」
「――い、イアンお祖父様が手に入れた魔法剣だったのですか!?」
フィリアは驚き、思わず振り返ってしまいそうになるが、なんとか耐え抜き正面を向く。
よそ見などしている場合ではないのだ。
フィリアは油断なく、ヤシン・ブリアンの行動を見ている。
今のところ誰かを狙う素振りすら見せていないのだが。
ジンザとヤシン・ブリアンは、フィリア達とは三メートルも離れていない場所にいる。
暗器を使うと聞いているので、いつどんな攻撃を仕かけて来るのか分からないと思い、フィリアは気を抜かないでいるつもりだ。
――が、「ま、魔術が発動しない! 何故だ!?」と言う背後から聞こえた味方の声に、またもや振り向いてしまいそうになる衝動を堪える。
「魔術が発動しない? わたしが使っている防御の術は継続して発動中よ」
防御の術は国王のみに使われているが、ちゃんと発動中のようだ。
「しかし! 何度やっても攻撃魔術が発動しないんだ!」
と焦っているのは深緑色のローブを来た国家魔術師らしい。
振り向けないのは残念だが、「攻撃魔術」と言っているから、多分、間違いないだろうとフィリアは思った。
「それなら――ジンザ! あんたがこちらの攻撃魔術を封じているのね!?」
そうなのだろうか? とフィリアはヤシン・ブリアンの隣に立つ魔術師ジンザを見たが、ジンザは落ち着いた表情で黙ったまま薄笑いを浮かべている。
フィリアに魔術の知識はない。だがシャロンが、そう推測したのならそうなのだろうな、と思う。
周りでは戦闘が続いているが、フィリアに向かって来る者はいない。
両刃で幅広の剣の力を見てしまったから、誰もが怯えて近よりたがらないのだろう。
周りの味方は苦戦している。
ジンザとヤシン・ブリアンに意識を向けているのは、円陣の中にいる者とフィリアだけらしい。
周りに助太刀をしたいが無理だ。
射手でもある王立騎士が国王の側にいるとは言え円陣を崩すことはできない。
いざとなれば自分がヤシン・ブリアンと直接対決することも考えなければいけないだろう、とフィリアは思った。
色々と考えながらもジンザとヤシン・ブリアンから目を離さないフィリアの視界に黒い何かが移り込む。
それは円陣の中から放たれて――ジンザとヤシン・ブリアン目がけて飛んで行くと――
――ドガァン、と爆発を起こしたが直撃はせず、少し離れた場所の地面から土煙が上がっている。
土煙に霞んでいるが、ヤシン・ブリアンは無傷だ。ジンザのほうは衝撃と風圧で片ひざをついているが。
「少しタイミングが早かったかしら? ――でも、今よ! 攻撃魔術を使って頂戴!」
シャロンの言葉をあとで、やや早口の詠唱が聞こえ始める。
「対象者が動いても確実に当たる『空雷』のほうを使って!」
聞こえてくる詠唱は止まらない。
どうやらシャロンが言った『空雷』の呪文を唱えているようだ。
「あ、あれを投げたのはシャロンなのですか?」
フィリアはジンザとヤシン・ブリアンから目を話さずに、シャロンに問う。
「そうよ。中型の爆弾を作って持ってたんだけど、上手くダメージを与えられなかったわ。でも、ジンザのほうには少しダメージがあったみたいね」
シャロンがそう答えた直後――ドカンッ、ドカンッ、ドカンッ、とジンザとヤシン・ブリアンに立て続けて三回雷が落ちたが――
「――む、無傷!?」
フィリアは驚いて大きめの声を上げてしまう。
二人が立っている場所には確かに雷が落ちて、地面が焼け焦げているのにだ。
「む……無詠唱で防御の術が使えるの?」
シャロンも驚いているが、声はいつもと同じ調子だった。やや動揺しているようにも聞こえるが。
「さて、と……ジンザの防御の術で守りが固まった。今度は――こっちから行くぞ!」
ヤシン・ブリアンは真っ直ぐフィリアに向かって走りながら、何か小さなものを投げて来た。
フィリアは咄嗟に両刃で幅広の剣の刀身で『それ』を阻む。
ガガガッ、と投げられた――と言うより強い力で投げ打たれた『それ』は両刃で幅広の剣の刀身に当たって地面に落ちる。
一瞬だけ見えた『それ』はフィリアがシャロンから渡された刺すのみに特化した釘にも似た暗器だった。
「気をつけろ! 両刃で幅広の剣は使う者の力量によって強くも弱くもなる! 風の刃まで出せるその小娘は相当の使い手だぞ!」
ジンザがヤシン・ブリアンに向かって叫ぶ。
(――そうだったのですね!)
フィリアは表情にも口にも出さず、心の中で驚いた。
これは多分だが、シャロンも知らなかった事実だろうと思った。
知っていたなら必ずフィリアに教えてくれるはずなのだから。
「ほう……俺の暗器を防げるとは……やるじゃないか」
ヤシン・ブリアンはフィリアを、ジッと見つめ、楽しそうに呟いた。
――ゾッ、と全身に悪寒が走ったフィリアだったが、逃げることはできない。
(――ええい! 気迫で負けてなるものですか! 円陣の中には国王様がいるのです!意地でも負ける訳にいきません!!)
フィリアは奥歯を噛みしめた。
果敢にも、ヤシン・ブリアンを視線で射貫くつもりで睨みつけながら。
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