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三十三話 決戦の時~山小屋が見える場所にて~『罠』

 宜しくお願い致しますm(_ _)m

 国王を連れ、突然シャロンが消えてしまったので、フィリア達は待つことにした。


「シャロン殿が、国王様を安全な場所に……王城へ連れ戻してくれるなら良いけどな……」


 フィリアの兄であるハリソンが独り言のように呟く。


「おそらくですが、シャロンはその為に国王様を連れて王城へ……いえ、まずは説得でしょう。人質は取り戻せましたけれど国王様は帰る様子を見せませんでしたから」


 国王がみずから精鋭部隊を率いて出て来たのは、人質を取られ、ベルモント精肉店の牧場を占拠されたことだけが理由ではない、とシャロンは言っていた。

 

「もしかしたら、国王様にはヤシン・ブリアンと何か浅からぬ因縁でもあったりするのでしょうか……?」


 フィリアは誰に問いかけるでもなく呟いた。


「兎に角、待ってみよう。シャロン殿が国王様を連れて消えたのは、決して危害を加えたりする為ではないと思う。フィリアの言う通り、説得の為なのだろう」


 ハリソンのその言葉に、異を唱える者はいなかった。


 ――それから十分後じゅっぷんご


 シャロンと国王は空間移動の術で音もなく戻って来た。

 

「陛――いや、国王様! お戻りになられましたか!」


 ハリソンが真っ先に国王に駆け寄る。


「ああ、心配をかけたな。我はシャロンと作戦を練っておったのだ」

 

 国王は安心させるように答えた。


「シャロン、そうなのですか? いきなり国王様を連れて消えてしまったから驚いたのですよ。せめて何か一言だけでも声をかけて下されば良かったのに……」


 フィリアは心配のあまり国王より先にシャロンへと声をかけてしまう。


 だが、国王はフィリアをとがめない。


「フィリアよ。シャロンを許してやれ。我のことを思って、我と共に作戦を練っていたのだ」


 国王がそう言うのならフィリアは納得するしかない。


「はい――分かりました。国王様」


 フィリアは国王に向かって敬礼をしながら答えた。


「――で、作戦なんだけど……」


 シャロンは国王の隣に立ったまま全員に手招きする。


 国王とシャロンを囲んで全員が輪に――円陣になった。


「まず――……」


 そこからは――山小屋が見える場所にどどまったままで、シャロンと国王が作戦の説明を始める。


 ここは山小屋から三十メートルほど手前の場所だが、フィリアは作戦を聞きながらも油断なく辺りの気配を探っていた。


 人の気配はしない。

 山なので動物や虫の気配が感じられるだけだ。


 シャロンと国王からの説明が終わると、フィリア以下、全員が以前より安堵の表情になっていた。


 何しろ国王自ら「我はヤシン・ブリアンと直接戦うことはしない。後ろに下がっていよう」と宣言したのだ。


 これで、フィリアにとっても精鋭部隊にとっても少しだけ負担が軽くなった。


「じゃあ、作戦通りに行きましょうか」


 一同の安心した表情を見つめてからシャロンが言う。


 その言葉を聞いた全員が円陣を解き、新たに列を組み直す。


 前衛は左から順番に、フィリアの兄ハリソン、フィリア、ハリソンの同期一人と先輩二人。


 後衛は左から、射手でありハリソンの同期一人と、国王、シャロン、国家魔術師二人。


 山小屋まで三十メートルの距離を一歩一歩、慎重に進んで行く。


 シャロンが呪文を唱え、全員を覆うように防御の術が張られる。

 

 前回より強固なものなのか、シャロンが呪文を唱え終わると同時に、キィィィンと防御が張られる音が聞こえた。


 前回は音もなく張られていたのに、とフィリアは思う。


 両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)は構えてはいるが、まださやの中だ。


 たった三十メートルの距離を、牛歩の如くゆっくりゆっくりと、周囲と罠の有無にも警戒しながら歩く。


 十メートルほど歩いたとき、フィリアは足に何かが触れた気がして、反射的に足を引っ込める。


 それはフィリアだけでなく、前衛の誰もが思ったことのようだった。


 フィリアはじりじりと後ろにさがりながら、


「足に……何かが触れました」

  

 続いてハリソンが言う。


「僕の足にもなにか触れたような感じだった。――糸、か何かじゃないかな?」


 それを聞いたシャロンが指示を出す。


「全員五メートルほど下がって」


 前衛にいる五人はすぐに従い下がり始めようとするが、国王はシャロンに問いかける。


「わざわざ五メートルも下がる必要はないだろう?」


 だが、シャロンは国王の問いには答ない。


「とにかく、下がりまょう」


 と言うのみである。


 国王が渋々ながら下がり始めると後衛の者も合わせて下がり出した。


 五メートルほど下がった位置まで来ると、シャロンはフィリアに両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を使い、風のやいばで糸を切るよう頼んだ。


 フィリアは両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を抜き放ち、上段に構えて真っ直ぐに振り下ろす。


 ――パキン、と防御が壊れる音が聞こえたが、気にしている場合ではないだろうな、とフィリアは思った。 


 すると、先ほどまでフィリア達前衛がいた場所に右側から三本。

 シャロンや国王、後衛がいた場所に左から三本の矢が放たれ。


 ――ドドドッ、ドドドッ、と一斉に地面へと突き刺さった。


「……やっばりね」


 シャロンが、ぼそりと呟く。


 先のいくさを知っているシャロンだからこそ、何か罠が仕かけられていると気づけたのだろう、とフィリアは思った。


「シャロン、あれは……ヤシン・ブリアンが仕かけた……罠か?」


 国王は僅かに震える声でシャロンに問いかける。


「ええ、そうです。わたしが先ほど国王様の問いに答えなかったのは、直接見て貰うほうが、早いと思ったからです」


 国王の問いに答え終わると、シャロンは呪文を唱え始めた。


(ああ、わたしが両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を振るったから防御が壊れたのですね)


 フィリアは、ちらりとシャロンを振り返りながら思う。


 シャロンが呪文を唱え終ると、キィィンと防御が張られる音がした。


「それじゃ、地面に刺さった矢をけてからあとは、また慎重に進みましょう」


 一同は元いた場所まで戻ると、矢が刺さった場所を固まって迂回うかいする。


 それから、またゆっくりゆっくりと牛歩の歩みで進み、十メートルほど進んだ先で、前衛の者全員が足元の地面に違和感を感じてあとずさる。


「地面の感覚が違う気がする」


 ハリソンが言う。


「わたしも違うと感じました」


 これはフィリア。


「ああ、違う」


薄氷はくひょうの上に片足を置いたような気分だった」


「下に空洞があるように感じた……」


 ハリソンとフィリア以下、前衛の誰もがおかしいと感じたようだ。


「……驚いたわ……国王様はちゃんと精鋭を選べたのね」

 

 シャロンが感心したように言う。


「シャロンよ。今の言葉は聞き捨てならぬぞ。我に人を見る目がないと思っていたのか?」


 しかし、国王にとってはシャロンが言った言葉は侮辱にしか聞こえない。


「いいえ。国王様の人を見る目を疑ったりはしてません。心から称賛したのですよ。それより――」


 シャロンは国王に侮辱ではないことを述べてから、さっさと話題を変えた。


「ええと……騎士団の射手の貴男、前衛の皆んなが不自然に感じた辺りの地面に、思い切り矢を一度で三本ほど打ち込んで貰えるかしら?」


 シャロンの言葉を聞いた射手でもある騎士は頷いて、フィリアが敵から取り上げた矢を三本弓につがえる。


 ハリソンとフィリアが矢の軌道を確保すべく、空間を開ける為に、それぞれ左右に立ち位置をずらした。


 ――ドドドッ、と勢いよく矢が地面に打ち込まれる。


 すると――矢を打ち込まれた地面を中心に、ドザザザザッ、と土が地下に吸い込まれるように落ちた。


 土が地下へと落ちたあとは、横幅は道一 みちいちめん、縦幅は一メートルほどの《《落とし穴》》が一同の目の前に出現したのである。


「お、落とし穴!?」


 フィリアは思わず叫ぶ。

 

 何しろ、目の前に出現した落とし穴は、子供の遊びなどで作られたものではなかったからだ。


 底までは三メートルはあるだろう。しかも底には先端を鋭く削った木の杭が穴の底にびっしり仕かけられていた。


 それは明確な殺意を持った、しかも、悪質な罠だった。


 お読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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