三十話 戦乱の時~東の山ベルモント精肉店の牧場にて・山小屋へ~
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ここはベルモント精肉店牧場の加工場。
牧場出入口の見張り及び、牧場内を占拠し、従業員を人質にと取っていたハンサウス兵を逃にげられぬよう、それぞれを縛り上げて人数を数える。
が、やはり三十人には三人足りない。
「王立騎士団からの使いは、牧場から二十分ほど歩いた山小屋に、偵察部隊の隊長でもある『将軍』ヤシン・ブリアンが潜んでいると言っていたんですよね?」
シャロンは加工場の中で、国王に問いかける。
「ああ、ハンサウスのヤシン・ブリアンの噂は我の耳にも入っている。厄介な者が生き延び将軍にまでなっていたものよ……」
ヤシン・ブリアンは将軍の位を与えられているが、実際に率いているのは偵察部隊だ。
本人はあまり公に出てくることはなく、常に影のようにその存在を潜めていることで有名らしい。
全てはシャロンから教えられた情報ではあるが、国王の耳にも入っていると言うことは、ひとかどの人物であることは想像できた。
「ヤシン・ブリアンは先代国王様の頃に起きた侵略戦争でもよく聞く名前だったわね」
先代国王の頃に起きたハンサウスからの侵略戦争。
それは三十数年ほど前に遡る。
フィリアが、祖父のイアンから聞いた話だと、あの戦争の厄介なところは工作部隊に腕の立つ者が数人いたことだったそうな。
その一人が現在の偵察部隊の隊長でもあるヤシン・ブリアン《《将軍》》だ。
工作部隊は偵察部隊と名前が変わっているが、工作部隊だった頃から工作のみならず、偵察、暗殺、妨害、撹乱など、正規軍とは違う色々な仕事を受け持つ部隊でもあった。
「フィリアちゃんには、ここへ来たときに暗器を渡したでしょう?」
シャロンはフィリアのほうを見ながら言う。
掌サイズで、刺す《《のみ》》に特化したペンのような、投げナイフにも似た武器のことだ。
「ああ、ペンと言うか釘みたいなあの武器ですね」
フィリアは最初、ペンに似ていると思ったが、よくよく考えれば釘のほうがもっと似ていると思い直していた。
「ヤシン・ブリアンは剣も使うのだけれど、元々の得意武器はそう言った暗器が多いのよ」
シャロンはフィリアから国王へと顔を向けると、
「王立騎士団からの使いの話だと、山小屋には二十人ほどが集まっているそうですね」
確認するように問いかけた。
「二十人か……おそらく、だがやはり偵察部隊の中でも精鋭ばかりなのだろうな」
その言葉を聞いたシャロンは無言で頷く。
「シャロンの攻撃魔法だと、威力が強すぎて、山の形を変えてしまいかねんな……イアンをこちらに呼べないものか……」
国王は絞り出すように言う。
フィリアはずっと不思議に思っていたことの答えを知って、「なるほど」と思っていた。
(シャロンの攻撃魔法は威力が強すぎるのですね)
この国で一番高位で、一番力ある魔術師が、この牧場で一度も攻撃魔法を使わなかったその理由は「威力が強すぎる」だったのだ。
「……国王様。何をおっしゃってるんですか? ここにフィリアちゃんがいるでしょう。『剣聖』イアン様の天賦の才を受け継ぐ者が」
シャロンは国王の言葉に、ぴくりと片眉をつり上げる。それを見た国王は慌てて言葉を紡ぐ。
「断じてフィリア・R・マースティンの実力を疑っている訳ではない! ただ、ヤシン・ブリアンは歴戦の猛者だろうから。経験が違うと言いたいのだ」
国王の言葉にシャロンは暫し無言で考え始めた。
フィリア自身も経験不足は否めないことを理解している。
「まあ、そこは……国王様率いる精鋭部隊に頑張ってもらいましょう」
暫し考え終わったあとに、シャロンは、ちらりとフィリアの兄であるハリソンを見ながら言う
フィリアもつられて兄を見ると、なんとも複雑そうな表情を浮かべていた。
「では、ここに二人ほど見張りを置いて……ああ、王立騎士団からの使いの人も見張りをしていて貰いましょう」
シャロンは加工場の奥で休んでいた使いの者に告げる。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか。ヤシン・ブリアンが潜んでいる……いえ、待ち構えているだろう山小屋へ」
そのまま、使いの者から返事を待たずに山小屋へ出発することを決めてしまった。
何故、国王でも精鋭部隊の隊長であるフィリアの兄ハリソンでもなく、シャロンが仕切っているのか。
不思議に思わなくもないが、誰も異論を唱えないのは、シャロンが『ケアフィールドの盾』と呼ばれているからかだろうか?
まるで国王すらも従えているように見えるのは、自分の気の所為なのか。フィリアは頭を捻りながらもシャロンに着いて歩き出した。
◇◆◇◆◇
牧場の裏手から一同は柵を越える。
空間移動の術を使わず歩いて行くのは、全員を一度に移動はさせられないからだ。
空間移動の術は高等魔術であり、魔術師のコンディションもあるが、一度に移動させられるのは、大体三人までである。
三人ずつ移動した場合。もしも三十人に待ち伏せされていたら、今度はこちらが各個撃破をされかねないのだ。
先頭はシャロンとフィリアの兄であるハリソン。兄の後ろにフィリア。
その隣、つまりシャロンの後ろに国王。
フィリアと国王の後ろに兄の同期の騎士が二人。
その後ろは国王が精鋭部隊にと選んだ国家魔術師二人。
しんがりは兄の先輩騎士二人だ。
合計で十人となる。
国王にはもう少し後ろに下がっていて欲しいと思うのだが。それは、国王以外の誰もが思っているだろうことはフィリアにも想像できた。
だが、国王はそれを良しとしない性格であるだろうことは、ここまで来ている時点で、フィリアも理解している。
「ヤシン・ブリアンのことだから、これから小屋まで行く道に罠をしかけている可能性もあるわ。皆んな注意しながら歩いて頂戴」
シャロンが注意をすると、全員の緊張感が増し、心なしか皆んなの歩く速度が遅くなった。
誰もが足元を確かめながら、一歩一歩慎重に歩いて行く。
「ところでシャロンよ。ヤシン・ブリアンと直接対峙したことはあるのか?」
国王は慎重に歩きながらも、シャロンに問いかけた。
「直接対峙したことがあるのは、わたしのお師匠様とイアン様です。わたしは遠くから見ていただけです。国王様はヤシン・ブリアンのことをどれだけご存知ですか?」
今度は国王がシャロンに問われて、考えながらも話し始める。
「三十年前の侵略戦争のとき……我は、たった一人の正式な王位継承者であったゆえ、城から出しては貰えなんだ。なのでヤシン・ブリアンのことは噂でしか知らぬのだ……」
確かに、たった一人の王位継承者を、みすみす戦場へ送ることなどしないだろう。
「それなら、ヤシン・ブリアンについては、わたしのほうが詳しそうですね」
シャロンは国王を馬鹿にするでもからかうでもなく思ったままの感想を言う。
「うむ。そうだろうな」
国王もシャロンが単なる感想を言葉に出しただけだと理解しているのか、怒ることもなく、頷きながら言った。
「ヤシン・ブリアンの出自は不明。おそらく暗殺者かそれに準じる者に育てられた可能性が高い。現在の年齢は四十代半ばから後半、片刃の剣と暗器を使うわ」
シャロンは慎重に歩きながら、一度言葉を切り、どこからともなく国家魔術師に与えられる杖を取り出し、地面を軽く叩きながら歩を進めて行く。
「騎士の人達には酷なことだけど今から対峙する敵は、騎士道精神とは真逆の考えを持っているわ。卑怯だろうが外道だろうが勝つ為ならなんでもやる相手なの」
「それを頭の中に入れておいてね」と、シャロンは主にフィリアの兄以下、王立騎士団の面々《めんめん》に向かって注意を促した。
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