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二十九話 戦乱の時~東の山のベルモント精肉店牧場にて・最後の人質奪還戦、そして~

 宜しくお願い致しますm(_ _)m

 「ベルモント精肉店の牧場で人質になっているのは一人……いえ、身重の奥様ですから人質は二人になりますね」


 その家から少し離れた場所に立ち、フィリアは小さく呟いた。


「シャロン、何か良い案はあるか?」


 完全武装の国王は、隣に立つシャロンに問う。


「そう、ですね……まずはわたしとフィリアちゃんが空間移動の術で家の中に移動し、奥様を助け出しましょう」


 目と唇の部分を残し、顔の右側のみを白いマスクで覆っているシャロンが答えた。

 

 茶色の髪は一本の三つ編みにして背中の後ろへ垂し、深紫色のマントを身にまとったシャロンの青い瞳が国王の顔を見つめている。


「本気か? シャロン」


 国王は「信じたくない」と思っているような口振りだ。


「本気に決まっているでしょう? 何を言っているんですか!?」


 ギロッ、とシャロンは国王をにらむ。


 なんと言う強気な態度なのだろうかと、フィリアはハラハラしながらシャロンを見るが、何も気にしていない様子だ。


「フィリアちゃんは間違いなく『剣聖』イアン様の天賦てんぶの才を受け継いでいるんですよ!? ()()疑っているんですか!?」

 

 シャロンはきびしい眼差しで国王を更に強く睨む。


「あぁ、いや、疑っている訳ではない……だだ……」


 やはりフィリアが()()()()受け入れがたいのだろう。


「いい加減にして下さい。今は人質の奪還だっかんが最優先でしょう?」


 シャロンは()()敬語こそ使っているが、一国の王に対しての態度ではなくなっていた。


「いつまでも古い価値観(伝統だの)こだわっていては手遅れになりかねません!」


 だが、シャロンは止まらない。


「大体、人質を取るなんて作戦は、この国に王位継承者がいないから、現国王さえどうにかしてしまえばなんとでもなると思われた結果でしょう!?」


 国王はシャロンの言葉を聞いて、悔しそうな表情になったが、事実なので何も言い返せないでいる。


「成人も近い――しかも、()()()()()な王女がいるのに、()()()()という理由で王位継承権を与えないなど骨頂こっちょうですよ!!」


 シャロンの声の大きさに、フィリアは慌てる。


「し、シャロン。声を落として下さい。敵にまで聞こえてしまいます」


 フィリアはシャロンのマントを軽く引っ張りながら、自分の唇に人差し指を当てて注意をした。


「あ、あら……しまったわね。わたしの声が聞こえてしまったかしら?」


 シャロンは目を閉じて集中しながら呟く。


「……良かった……聞こえてはいないようね」


 この牧場全てがシャロンの結界内だ。勝手には誰も出て行けず、誰も入っては来れない。

 

 シャロンはその気になれば、牧場内の生き物の動きが全て把握出来る。


「とにかくここで揉めるより、わたしとフィリアちゃんに指示を出して下さい。国王様」


 「指示を出して下さい」と言ってはいるが、そのじつ、「指示を出しなさい」と命じているようなものだ。


「……あの、国王様。わたしからもお願いします。奥様を助けに行きたいのです」


 フィリアは今尚捕らわれている、身重の奥様が心配だった。


 豪胆と聞いてはいるが、それでもたった一人、ハンサウス兵五人に見張られているのだ。


 身重の体なのに、どれほどの精神的負担がかかっているのかと思うと気が気でならない。


「う、む……わかった。国家魔術師シャロン・L・ドーンと独立騎士団従騎士フィリア・R・マースティンに命じよう。人質となっている、ジェーン・ベルモントを即刻救出して参れ」 


 国王は明らかに気乗りしない様子で、それでもキッパリと言い放つ。

  

「シャロン。わたしにここまで言わせたからには失敗しましたでは済まされんぞ」


 国王は、鋭い眼差しでシャロンを睨んだ。


「睨まれたところで動じるわたしではないことはご存知でしょうに――はぁ、全く……北のリングノーズは先代が女王だったと言うのに……」


 まだまだ文句を言いたそうなシャロンの態度に、フィリアと精鋭部隊のあいだに緊張感が走る。


「……フィリア。あの国家魔術師殿は『ケアフィールドの盾』と呼ばれるお方だが……国王様に対してあんな強気な態度に出て良いものなのか?」


 隣に立っている兄のハリソンがささやくような小声で問いかけて来るが、フィリアには答えられなかった。


 そもそも、フィリアはシャロンにそんな二つ名があることさえ知らなかったのだ。


「とにかく行ってくるわね、国王様。フィリアちゃん、準備は良いかしら?」 


 シャロンは一転優しい眼差しでフィリアを見つめながら言った。


「あ、は、はい!」


 フィリアはさやに入ったままの両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を両手で持つ。


「それじゃあ、わたしとフィリアちゃんが奥様を助けてここに戻って来たら総攻撃を仕かけて下さいね」


 シャロンは国王と精鋭部隊に向かって言うと、背後からフィリアの両肩に手を置き、呪文を唱え始める。    

 

 もう何度も聞いた呪文だが、フィリアには呪文の意味は分からない。


 などと考えているうちに、わずかな浮遊感ふゆうかんがあり、気づけばフィリアはシャロンに連れられ、奥様ことジェーン・ベルモントの側に空間移動していた。


 そこはキッチンだった。


 奥様のすぐそばには中年のハンサウス兵が立っていて、フィリアは両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を勢いよく振るいながら、シャロンに言う。


「わたしを置いて、奥様と脱出して下さい!」


 シャロンはしば躊躇ちゅうちょしたが、黙って頷きながら奥様を抱き寄せつつ呪文唱え始めた。


 フィリアは奥様のすぐ側にいたハンサウス兵を、力任せに鞘に入ったままの両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)で横っ面を思い切り殴り、残りのハンサウス兵に体を向ける。


 全ては考えるより先に体が動いた感じのフィリアだった。


 ―――ビュッ、とフィリアは二人目のハンサウス兵に向かって、奥様が使っていただろう包丁を勢いよくに投げる。


「――ぐっ!」

 

 投げた包丁はハンサウス兵の腕に突き刺さり、持っていた剣を取り落とさせた。


 フィリアは包丁を投げた直後に、トッ、と空中に跳躍ちょうやくすると、ハンサウス兵の脳天へ両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を叩き込む。


 ――ゴッ、と重く鈍い音がして、革のよろい姿のハンサウス兵は床へと倒れて動かなくなった。


 三人目は別の部屋にいたらしく、やりを持ってフィリアに突進して来る。


 フィリアはとっさに懐に入れて置いた、一センチにも満たない鉄製の球体に、同じく鉄製のトゲがいくつもついている物体を前方へと投げるようにく。


「ぐあっ!」


 突進していたので上手く止まり切れずに、槍を持ったハンサウス兵は思い切り()()を踏んでしまい、その場にうずくまって悶絶もんぜつしている。


 フィリアは()()を踏まないようにけて、悶絶しているハンサウス兵に近づき、両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)で殴り倒す。


 ――ドゴッ、とこれまた鈍く重い男がして、ハンサウス兵は、バッタリと床へ伸びてしまった。


「なんだお前は!?」


 続いて残った四人目と五人目のハンサウス兵が現れる。


 一人が腰の鞘から剣を抜き、狼狽うろたえつつ叫ぶが、フィリアは構わず相手に突進するように走り、ガギッ、とやいばを交える。


 突進された反動で相手はよろめき、隙が出来た。

 

 もう一人のハンサウス兵も剣を抜いてフィリアに飛びかかろうとするも、フィリアは横へとステップするようにハンサウス兵二人から距離を取る。


 流れるような動きで両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を鞘から抜き、思い切り水平に振るうと、ザグッ、と風のやいばがハンサウス兵二人の腕に深い傷をつけた。


 ――そこに――


「フィリア! 大丈夫か!?」

  

 血相を変えた兄と精鋭部隊数人が飛び込んで来る。


「あ、お兄様。大体終わりました。あとは逃げないように捕らえるだけです」


 殴り倒され、腕を切られ、戦意の下がりまくったハンサウス兵達を、兄達が簡単に捕らえて行く。


「さすがフィリアちゃんね。両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を抜かずに三人倒したのね」


 シャロンがフィリアの元に歩いてくる。


「遅くなってごめんなさいね……でも、ここのハンサウス兵達をまとめている『将軍』の居場所が正確に分かったのよ。国王が王立騎士団に調べさせていたわ」 


 シャロンの言葉でフィリアは思い出す。人質は取り戻せても、まだ終わりではないのだと。

 お読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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