二十七話 戦乱の時~東の山のベルモント精肉店牧場にて・合流~
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フィリアはシャロンが戻って来ると、国王率いる精鋭部隊がどのタイミングで突入して来るのかを尋ねた。
どうやらフィリアの動きに合わせてシャロンが合図を出すようだ。
それと――牧場に来てから一度も抜いていない魔法剣、両刃で幅広の剣がどのような魔法を付与されているのかも教わった。
フィリアは説明を聞き、両刃で幅広の剣の扱いが難しいことを知ったので、なるべく抜かない方向に持って行きたいと考える。
だが、同時に抜かなければならないときはすぐに来るだろうと覚悟も決めた。
「フィリアちゃん。投げナイフの準備は良いかしら?」
フィリアはシャロンに問われて頷きながら答える。
「はい。おそらく実戦で使えるレベルに達していると思います」
ただ、手加減は難しいので、背後から狙う場合は、どこに当てようかと考えた結果。
太ももか尻と言う結論になってしまったのはいささか不本意だったが、仕方がないことである。
特に尻……は狙う場所が場所だけに、微妙な気持ちになるフィリアだが、命を奪わず、それでいて的が大きく相手にダメージを与えやすい。
そう考えて行ったら太ももか尻に行き着いてしまったのだが、実際に狙うのは足になるのではないかとも思う。
何故ならハンサウス兵は鉄鎧か革の鎧を着ているからだ。
シャロンに身体強化の術をかけ直して貰ったので、革の鎧なら投げナイフでも突き破ることが出来るだろう。
が、鉄鎧となるとそうも行かないことは簡単に予想できた。
「まずは空間移動の術で、ハンサウス兵から少しだけ離れた場所に行きましょうね」
シャロンの言葉を聞いたフィリアは抜き身の投げナイフ五本を構える。
すると、僅かな浮遊感のあと、フィリアは家畜達が放牧されている柵の近くへと、空間移動の術で移動していた。
五人の従業員が五人のハンサウス兵にくっつかれたまま、仕事を終わらせて帰ろうとしているところだった。
やはり考えるより先に体が動いたフィリアは、背を向けているハンサウス兵二人のふくらはぎと太ももに投げナイフを力一杯投げ、命中させる。
「――ぃだっ!」
「――ぐっ!」
ハンサウス兵二人は崩れ落ちるようにしゃがみ込む。
「人質になっていた方は加工場へ逃げて下さい!」
人質になっていた従業員に呼びかけながら三人目に投げナイフを投げるが相手はこちらに振り向きながら動き、的から外れる。
その結果、かする程度にしか当たらない。
間髪入れずに同じ相手に二投、三投と残った投げナイフを投げると、そのうちの一つが相手の脇腹に刺さった。
自由になった従業員の女性一人と男性二人が加工場の方向へと走り出す。
フィリアは、両刃で幅広の剣を両手で構え、残りの二人相手に立ち向かって行く。
――ガギッ、と相手の剣と鞘から抜かないままの両刃で幅広の剣が相手の剣と打ち合う。
視界の端で、シャロンが音もなく光弾を空へ放つ姿が見えた。
フィリアは打ち合った相手がここの牧場長――つまりはルーク・ベルモントの兄ホーク・ベルモントを見張っていたハンサウス兵だと気づいて、体当たりしながらその反動で相手から距離を取る。
対峙してみて、やはりこのハンサウス兵は強いと思ったのだ。
フィリアは覚悟を決めて両刃で幅広の剣を鞘から抜いた。
刀身が淡い緑色の光に包まれた両刃で幅広の剣は美しいが、扱いを間違えると残っている人質も巻き込みかねない威力を秘めている。
刃のついた長剣を抜くということは、相手の命を奪う覚悟も、自分の命が奪われる覚悟も持たなければならない。
どちらの覚悟もとっくの昔に出来ている――出来てはいるのだが、実際に強い相手に対峙すると、改めて覚悟を試されているような気持ちになってしまう。
フィリアは覚悟を決め直し、残りの人質を奪還すべく、敵に向かって両刃で幅広の剣を振るった。
――ヒュボッ、とフィリアが振るった剣の軌道がそのまま風の刃に変わる。
予想だにしていなかった攻撃を避け切れず、敵の左腕を風の刃が切り落とす。
「――ぐうっ!」
牧場長に張りついていたハンサウス兵が膝をつく。
牧場長はその隙を逃さず、仲間の従業員を連れて逃げようとするが、残りのハンサウス兵に阻まれ捕まりそうになったそのとき。
――ヒュッ、ドスッ、と短い音がしてハンサウス兵の頭に深々と弓の矢が刺さった。
「ぐ……っ」
頭に矢が刺さったハンサウス兵が呻き声を上げ、ドサッ、と地面に倒れ動かなくなる。
おそらく絶命しているのだろうとフィリアは思った。
矢は次々と射かけられ、もう一人のハンサウス兵も倒れ伏す。
フィリアは矢が飛んで来た方向を見ながら、人質に取られていた従業員二人に駆けよった。
「加工場が安全です。そちらに逃げて下さい。国王様の精鋭部隊が皆さんを救出に来ました。わたし達はこれから奥様を奪還します」
すると、フィリアの言葉にすぐさま反応したのが、牧場長ことホーク・ベルモントだ。
「つ、妻を助けてくれるのか!?」
いきなり急変した事態に戸惑いながらも、工場長はフィリアに問いかける。
「もちろんです。誰一人として喪わせはしません。なので、安心して加工場へ避難して下さい」
フィリアは安心させようと、なるべく優しい声音で言った。
「どうか! 妻と生まれて来る子供を助けて下さい!!」
牧場長はフィリアの左手を握り締めて、祈るように頼み込んで来る。
「ええ、もちろんですよ。さあ、加工場へ」
フィリアは牧場長と助け出した従業員とを加工場へ向かうよう促して、両刃で幅広の剣で腕を切り落としたハンサウス兵を見やる。
切り口から大量の血が吹き出しており、失血で気を失いかかっている。
これは戦なのだ。
しかも非戦闘員を人質に取った相手だ。情けをかけることは出来ない。
両刃で幅広の剣を鞘に仕舞うと、フィリアは国王率いる精鋭部隊に視線を移す。
一目で国王だと分かる人を含め、ざっと十人ほど。馬は使っておらず、全員徒歩だ。
山中なので、馬は使わなかったのだろう。
「フィリア! フィリアだね!?」
その中から一人、王立騎士団の鉄鎧を着た、見覚えのある少年がフィリアの名を呼びながら走ってくる。
「――お、お兄様!?」
それは三年前に別れたっ切りで、一度も会うことがなかった兄のハリソンだった。
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