二十五話 戦乱の時~東の山のベルモント精肉店牧場にて・状況把握(一)~
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今の時刻は朝の七時頃だろうか?
フィリアは加工場内を見回す。
時計はないけれど、大体そのくらいの時間かなと思った。
「フィリアちゃんが倒したハンサウス兵達は、加工場の奥にある作業員休憩室に閉じ込めて貰ったわよ」
出入口に鍵をかけてから、その近くにある窓をほんの僅かに開け、外の様子を見ていたフィリアはシャロンへと顔を向ける。
加工場の外はフィリアが最初にいた、敢えて木々を切らずに置いてある場所に隠れるような形になっているから、牧場敷地内の様子は殆ど見えない。
逆に言えば、加工場は他から見えにくい位置に建っているのだ。
「ヘンザさんにはもっと詳しい話を聞きたかったから、ここに残って貰ってるけど」
シャロンの少し後ろからヘンザが歩いて来る。
「もう少し状況を話したいし、あなた達お二人からも色々と話が聞けると思いましたので」
シャロンの隣に立ったヘンザがフィリアに説明を始めた。
「六日ほど前に、この牧場はハンサウス兵に占拠されました」
六日も前に……とフィリアは驚く。
「そうね。十日くらい前にはこの山でハンサウス兵の目撃情報があったそうよ」
シャロンが口を挟むと、ヘンザは「そうです」と言いながら頷いた。
「ハンサウスが東の山を越えて侵略戦争をしかけて来たことは、わたし達も知っていました」
この山のことなのだから、確かに情報は早いだろうと思いながら、フィリアはヘンザの説明を真剣に聞く。
「だからホーク坊っちゃ……いえ、牧場長は東の山を警備している皆さんに、食料を提供すると決めたんです」
それでシャロンが「牧場は東の山の警備担当者達に食料を提供している」と言っていたのかとフィリアは思い出す。
「それは牧場長の独断ではありましたが従業員の総意でもあります。なにしろ東の山の防衛線が破られたら、この牧場が真っ先に占拠されますからね」
それは確かにその通りだ。牧場長も従業員も皆んな賢明な判断をしたのだなとフィリアも思う。
「けれど、防御線は破られていないはずなのに、牧場はハンサウスの『将軍』が率いる偵察専門の精鋭部隊に占拠され、二十人もの従業員が人質に取られてしまったの」
ハンサウスの『将軍』率いる偵察専門の精鋭部隊!?
「えっ!? ど、どう言うことなのですか!?」
シャロンの思いがけない言葉に、フィリアは動揺してしまう。
「言葉通りの意味よ。この牧場に送り込まれたのはハンサウスの『将軍』が率いる偵察専門の精鋭部隊なの」
自分が倒したハンサウス兵が偵察専門の精鋭部隊だと知ったフィリアは驚いた。
「あ、あのハンサウス兵の中に『将軍』が!?」
ヘンザも知らなかったようで、かなり驚いた表情をしている。
「『将軍』の位だけど、その実は偵察専門の部隊長よ。これはイアン様とハンサウスに潜り込んだとき、調べ上げて来たんだけどね」
偵察専門――とは言えフィリアは精鋭部隊を五人も倒せた自分に驚く。
「偵察専門の……うちの護衛は偵察専門の部隊に負けたんですね」
ヘンザは残念そうに言う。
「護衛は五人だったと聞いているわ。仕方ないわよ。多勢に無勢だったんだから」
それはその通りだとフィリアも思った。五人と三十人では多勢に無勢が過ぎる。
「あの……ハンサウス兵の中にいる『将軍』って……まさか、奥様の見張りをしている兵の中にいたりします……か?」
恐る恐ると言った様子でヘンザはシャロンに問いかける。
「残念だけど、わたしには分からないわ。フィリアちゃんなら誰がハンサウス兵の『将軍』なのか見抜けると思うんだけどね」
シャロンはフィリアを見ながら言った。
「ええと、シャロン……偵察部隊の『将軍』と言うからには、相当に強いのですよね?」
フィリアは木の上にいるときに見た、わりと強そうなハンサウス兵のことを思い出す。
「ええ、そうね。戦闘にも長けていると聞いたわ……だからこそ、国王が危機感を持っちゃった訳なんだけどね」
それならば、『わりと強い』ではなく、かなり……いや、やはり『相当に強い』と考えたほうが良いだろうとフィリアは思った。
「……わたしが今まで見たハンサウス兵の中には『将軍』らしき者はいませんでした……奥様の側にいるかも知れないと考えたほうが自然かと」
暫し考えてからフィリアが答えると、
「捕らえたハンサウス兵は五人。今牧場に出ている従業員のところにハンサウス兵が五人。まだ仕事の時間じゃない加工場の従業員ところに五人……」
シャロンは目を閉じて集中しながら言う。
「奥様の側つまり牧場長ジーク・ベルモントの家に五人。牧場出入口に二人……とすると残りの三人……は?」
シャロンの言葉の最後は独り言に近かった。
「残りの三人はシャロンの結界内に――牧場内にいないのですか?」
シャロンは僅かに焦った表情になる。
「ヘンザさん。牧場の回りに洞窟とか雨風をしのげる場所とか、小さな山小屋とかないかしら?」
とシャロンに問われたヘンザは、
「牧場から少し離れた山奥のほうに小さなな山小屋がありますが……まさか、そこに!?」
てっきり牧場内に三十人全員いるのだろうと思っていたようだ。
それはフィリアやシャロンとて同じなのだが。
「と、取りあえず。国王様の精鋭部隊が潜んでいる場所もわたしの結界内に入れてあるから精鋭部隊は無事よ」
シャロンはもう一度目を閉じて確認をしている。
「やはりシャロンが認めた者しか入れない結界なのですか?」
フィリアは西の山全体、宝物庫、この牧場内にまで結界を張れるシャロンの実力に、改めて感嘆する。
「そうよ。わたしが許可した者しか入れないわ」
シャロンの返事を聞いたフィリアは改めて思う。
「シャロンは……何者なんですか?」
単なる国家魔術師ではないと思うフィリアだが。
「そうね……ここでは言えないけど、機会があったらちゃんと教えてあげるわ」
シャロンは微笑みながら言った。
(ああ……ヘンザさんがいるからですね)
一般人にはおいそれと話せないことなのだろう。
フィリアは独立騎士団の従騎士であると同時に下級貴族でもある。
けれど、おそらくではあるが、シャロンは自分を信頼しているので話してくれるのではないかとフィリアは思った。
「ではまずは、敵の位置が大まかに分かったところで……どう攻めますか?」
フィリアはシャロンに問いかける。
「そうね。わたしが空間移動の術で五件の家の裏手に回るから、 一件ずつ確実に倒して行きましょう。奥様の家は上手く行くとは限らないけれど」
何しろ五名もの見張りがついているのだ。
「あ、それなんですけど、わたしに提案があるのです」
フィリアはシャロンの空間移動の術を見ていて、一つ思いついたことがあった。
「奥様の家にわたしとシャロンで移動して、わたしがハンサウス兵を撹乱している間にシャロンが奥様を別の場所に移動させてはどうでしょう?」
フィリアの提案にシャロンは暫し考えてから、「五人対一人はキツいとは思うけど……フィリアちゃんがそう言うなら」と答えてくれた。
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