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二十四話 戦乱の時~東の山のベルモント精肉店牧場にて・反撃開始~

 フィリアは「国王様が選んだ精鋭部隊も入っております」と説明したが、実際は国王様()来ているとは言えなかった。


 さすがに驚かせるのではないかと思ったのだ。


「ええと……では、わたしが気絶させたハンサウス兵の見張りをお願い致します」


 フィリアはそのまま話を変えて、両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)で殴り倒したハンサウス兵の見張りを、従業員の男性に頼んでいた。


「分かりました。あの……本当に助けが来てるんですよね?」

  

 従業員の男性も疑っているわけではないのだろうが、不安からそう口にしてしまったようだ。


「ええ。本当にですよ」


 フィリアは腰に差してあった小剣を手に取り、つかの部分を見せながら言った。


「こ、これは!! ルーク坊ちゃんが入団しているセーフフィールド独立騎士団の紋章!」


 従業員の男性は、小剣のつかを見ながら思わず叫ぶ。


 フィリアは慌てて男性の口をふさいだ。


「叫んではダメです。次に来る人に気づかれてしまいます」


 フィリアは小声で言うと、そっと従業員の男性から手を離す。


「す、すみません……ん? だとすると、あなたはフィリアさんですね? ルーク坊ちゃんのご友人の」


 と従業員の男性は小声でフィリアに問いかける。

 

 フィリアはそこで気づいた。


「あの……あなたはルーク・ベルモントを昔から知っている方なのですか?」


 ルーク・ベルモントを坊ちゃんと呼び、フィリアが友人だと知っているのなら、昔からの知り合いではないかと思ったのだ。


「ああ、自己紹介が遅れました。私はヘンザ・ベルモント。ルーク・ベルモントの義理のおじです」


 義理のおじ。と言うことは血は繋がってはおらず、ベルモント姓ならば父親の姉か妹の夫と言うことになる。


「義理のおじなのに、『坊ちゃん』と呼ぶんですね」


 フィリアは素直な感想を口に出す。


「ええ、おじであってもわたしはベルモント精肉店の従業員ですからね」

 

 ヘンザは軽く笑いながら言った。


 見た感じは三十代の後半だろうか?

 穏やかで、真面目そうな印象だ。


(う~ん……つまりヘンザさんは思慮分別しりょふんべつを、しっかりとつけることが出来る方なのですね)


 フィリアはそう判断した。


「では、改めて。わたしが倒したハンサウス兵の見張りをお願いします。あ、騒がないように猿ぐつわでもませておいて下さい」


 フィリアは猿ぐつわの有無を抜かりなくヘンザに告げてから、シャロンへと向き直る。


 シャロンはフィリアがヘンザと話しているあいだに何やら集中し呟いていた。


「……五件の家にいる人間は無事。こちらに向かってくる人間は四人……つまり二人は敵……あと二分ほどで到着」


 どうやら結界内……つまりは牧場の敷地内を探っ(サーチし)ていたようだ。


「ありがとうございます。シャロンが敷地内にいる人の動きを把握はあく出来るので、こちらも先手が取れるのです」


 フィリアは作業場のドアのそばに立って両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を構えながら、笑顔でシャロンに感謝の言葉をべる。


 シャロンはフィリアとは反対側に立ち、どこから取り出したのかは分からないが、国家魔術師に与えられる杖を持って構えた。


 ドアは二枚の引き戸で、二人は向かい合わせでドアの左右に立っている。


「四人同時に入って来ますか?」


 フィリアはシャロンに問う。


「……そうね。合流したみたいね」


 シャロンは目を閉じて集中しながら答えてくれた。


「では、シャロンは従業員さん二人を守ってあげて下さい。敵のほうは、わたしが相手をします」


 シャロンは無言で頷き。


「……あと三十秒」


 フィリアは気づかれぬよう出来るだけ気配をひそめる。


「あと……十、九、八、七、六、五、四、三、二、一」


 ――ガラリとドアがひらき、男女の従業員が二人、加工場に入ってくる。


 二人はフィリアとシャロンの姿に一瞬きづかず、そのまま中に入ったが、気づいたとたんに立ち止まった。


「おい、どうした。いきなり立ち止ま――ぐっ!」


 フィリアは二人の後ろから中に入ってきたハンサウス兵を両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)で、ガヅッと殴り倒す。

 

「――なっ! お前誰だ!」 


 二人目のハンサウス兵は持っていたやりを向けてきたが、シャロンの筋力強化の術がかかったフィリアは軽々と槍をける。


 もちろんフィリア自身の動体視力や反射神経、剣術の実力があってこそだが。


 槍をけると同時に、タンッと靴音も軽く跳躍ちょうやくすると、三人目の脳天を両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)で手加減なしに殴った。


 何故手加減なしなのかと言うと、ヘンザと同じく三人目の従業員に張りついていたハンサウス兵は、頭の部分だけをおおかぶとをかぶっていたのだ。


 しかも、三人目のハンサウス兵は腰に剣ではなく槍を持っていた。


 槍は中間距離の戦闘に向いている武器だ。


(シャロンに筋力強化の術をかけてもらっていて良かったです)


 一息()きながら、フィリアは倒れた兵士達を手早く縄で縛って行く。


「あなた達は倒れたハンサウス兵を見張ってちょうだい。フィリアちゃん。残りの四人も、もうすぐくるわよ」


 シャロンが従業員二人に指示を出す。


 フィリアは残りの一人も縛り上げて、ヘンザと二人の従業員に手伝って貰い、三人のハンサウス兵を加工場の奥へと引きずって移動させた。


「あと、三分で残りがこちらに来るわよ」


 シャロンは開きっぱなしになっていたドアを閉めて言った。

 

 フィリアはなるべく足音を立てずにドアのそばまで移動する。


 シャロンも先ほどと同じ位置に待機した。


 フィリアは両刃で幅広の剣(グラディウス・シルフ)を、シャロンは国家魔術師の杖を構えている。


「国王様率いる精鋭部隊は牧場の出入口の見張り二人を倒したけど、わたしが合図をするまで、隠れて待機して貰ってるわ」


 シャロンは小声でフィリアに告げた。


「了解しました」


 フィリアも小声で答える。


 国王(みずか)ら少数精鋭で密かにやって来たのだ。

 下手に動いて見つかっては意味がない。

 

 まずはこうやって人質を減らして行くのが得策とくさくだと国王自身も理解しているのだろう。


 下級貴族である男爵家に生まれたフィリアは国王に直接会ったことはない。


 シャロンに聞いた印象では少し血の気は多そうでも賢君けんくんなのは間違いなさそうだ。


「あと三十秒」


 シャロンの声を聞いたフィリアは息と気配をひそめた。


 フィリアはシャロンを見つめ、シャロンはフィリアを見つめてお互い頷く。


「十、九――」


 シャロンのカウントダウンが始まる。


「――八、七、六、五、四、三、二、一」


 ――ガラガラッ、と勢いよくドアが左右に開かれる。


「すんません! 遅刻――あれ?」


 その従業員は二十歳くらいの青年だ。

 

「ごめ――あれっ?」


 もう一人はフィリアより三つくらい年上に見える少女。


 二人はいつもと違う加工場の様子に戸惑っている。


「どうした? 早く入れよ」


 外側から男の声がする。


「ん? 誰もいねぇのか?」


 もう一人……どちらもハンサウス兵だろう。


「そうっす。誰もいないんすよ」


 青年と少女が加工場へ入るのと入れ違いで、フィリアはまだ外側にいる二人のハンサウス兵に襲いかかった。


 ドカッ、バキッ、と連続して殴打音が響く。


 フィリアの奇襲が功を奏し、ハンサウス兵は反撃も何も出来ずに。地面へと崩れ落ちた。


 倒した二人を青年と少女の従業員に手伝って貰い、加工場へと引きずり込む。


 シャロンが開かれたドアを閉めると、フィリアは既に倒した三人と同じように手早く縄で縛り上げた。


「まずは五人取り戻し、五人倒せましたね」


 フィリアはドアを閉めてくれたシャロンに向かって笑顔で言ったが。


「ええ。こうやって少しずつ取り戻せれば良いのだけれど……」


 しかし、シャロンは微妙な表情でフィリアに答えたのだった。


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