二十三話~戦乱の時~東の山のベルモント精肉店牧場にて・反撃の兆し~
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フィリアは、シャロンから「何かあったときの為にね」と身体強化の術をかけて貰った。
更には宝物庫で渡された両刃で幅広の剣と、十本近くの掌サイズで、刺すのみに特化した、ペンのような投げナイフにも似た武器を渡されたのだが。
シャロン曰く、「暗武……隠し武器よ」ということらしい。
(こういう武器は騎士道精神に反する気がしますね)
などとフィリアは考えつつも、反面そんなことを言っている場合ではないとも思い、受け取ったのだ。
シャロンの空間移動の術で、こっそりベルモント精肉店の牧場敷地内に侵入しているのはフィリア一人。
国王自ら率いる精鋭部隊へ連絡の為、シャロンは牧場から一旦、去ってしまった。
「フィリアちゃんは、ここで牧場の様子を見ていてね」
と一人、残されてしまったのだ。
今は早朝。
ここはベルモント精肉店の牧場の一部だが、薪やら炭やらにする為に、敢えて木々を切らずに置いてある場所だ。
葉が生い茂った木々の一つに上がって牧場を見下ろしていると、五件の家からそれぞれ二人ずつ、人が出て来た。
家から出てきたのは――ハンサウスの兵士と牧場の従業員らしい。
従業員は男が四人に女が一人。
その中に、フィリアのライバルにして友人の、ルーク・ベルモントに似た顔立ちの男性がいた。
遠目に見て、年齢は二十代半ばから後半くらいに見える。おそらく肉親ではないだろうかとフィリアは思う。
ルーク・ベルモントはベルモント精肉店の三男なので、兄のどちらかではないかと考える。
その兄らしき人の側には、褐色の肌を持つ、上級兵とおぼしき厳つい顔立ちのハンサウスの兵士がぴったりくっついていた。
(……わりと強そうですね)
敵の強さを測れるのも、また祖父から受け継いだ才能の一つだ。
それにしても――とフィリアはシャロンから説明されたことを思い出す。
まず、ベルモント精肉店の牧場は、東の山にある平面的は場所を開拓して作られていた。
牧場にいるのは二十名、家の数は五つ、農具置き場や加工場を合わせると、建物は七つとなる。
牧場で飼育されているのは牛と豚と馬が少々。
で、乗り込んで来たハンサウス兵達は三十名。
ベルモント精肉店の牧場を警備していた者達は奮闘したらしいが全員倒されたようだ。
そんな、諸々の情報はシャロンからもたらされたものだが。
「取り敢えず……偵察しましょうか」
口の中で、ごくごく小さな声で呟きながら、軽い身のこなしで枝から木々の間へと降りる。
ここで何もせずに待っているのはフィリアの性に合わないのだ。
「ここから一番近い建物は……」
農具置き場である。
フィリアはなるべく音を立てずに農具置き場まで走った。
そこには人の気配がない。
鍵がかかっておらず、そのまま開いたので、フィリアは用心しながらも中へと滑り込む。
鍬や鋤や縄にトンカチ、ギザギザの刃がついたノコギリなど、武器になりそうなものも多く置かれている。
フィリアはその中から縄とトンカチを持ち出した。
そこから足音を立てないように、農具置き場に近い加工場まで走り、中を覗く――がどうやら誰もいないようだ。
加工場の奥にある窓をトンカチで割り、手を突っ込んで鍵を外し加工場の中へ入ると、加工器具の影に身を隠し気配を殺す。
フィリアは祖父から習った、身を隠すときの呼吸法を試してをみる。鼻から息を吸い、お腹の底に溜めるイメージの。
息を吐くときは、細く長く少しずつ。これを繰り返して行くと徐々に身体のコントロールが出来るようになる。
――はずなのだが、フィリアは気が静まって落ち着くことが出来た。
そんな程度にしか使えていない感じがしている。
が、ライバルで友人のルーク・ベルモントには「気配の消し方が上手すぎる! 盗賊かなんかなのか! マースティンは!」と言われること数回。
少々心外だと思った記憶が甦って来たフィリアである。
そんなことを考えつつも、身を潜めて三十分ほど待っていると……。
「お待たせ、フィリアちゃん」
宿屋のときと同じく声と気配が同時に現れ、フィリアは心臓が止まるかと思うほど驚いた。
フィリアがゆっくり振り向くと、背後に現れたシャロンはにこやかに微笑んでいる。
「ど、どうしてわたしがここにいると分かったのです?」
意識して、なるべく気配を潜めつつフィリアは小声で訪ねた。
「この牧場を、わたしの結界の中に入れたのよ。わたしの結界の中に存在する生き物の動きは、手に取るように分かるの」
すると、シャロンは事もなげに答える。
「……そこまで大規模な魔術を使えるシャロンは、一体どれだけ高位で力ある魔術師なのですか?」
ここでフィリアはシャロンがただの国家魔術師ではないようだと気づいた。
「この国で一番。って言ったら信じてくれるかしら?」
シャロンはフィリアを試すように問いかける。
「わ――わたしの才能をわたしより信じていたり、宝物庫を守っていたり、この牧場を自身の結界に閉じ込めたり……」
フィリアは少し間をおいて続ける。
「……もしやですが、西の山はシャロン一人で警備しているのではないでしょうか? これが当たっているならシャロンの言っていることは真実です」
半分は勘、半分は推測。
フィリアはそれらを答えと共にシャロンへ返してみた。
「あらまあ、よく分かったわね」
シャロンは驚きながらも嬉しそうな表情で答えてくれる。
「だけど、何故分かったのかしら?」
フィリアの問いかけには答えてくれたが、更に質問を投げかけられた。
「それは、ハンサウスの兵士が東と北の山にしか出現してないからです。北の山まで行けたなら西の山にも行けるはずです。でも西の山には入れなかった」
西の山にハンサウスの兵士達が出現しなかった理由をフィリアは考えたのだ。
「つまり、西の山には空間転移の術を使っても入れなかったからです。西の山にはシャロンが任意の者しか入れないように、結界を張ってあるからだと思うのです」
フィリアは「違いますか?」とシャロンに問いかけるとシャロンは、にっこりと笑う。
「さすがね! 大正解! フィリアちゃんはイアン様に似て賢いのね」
シャロンが声を潜めながら、笑顔のままで答えてくれる。
そこでフィリアは、ハッと気づく。
何人かの人の声が作業場に近づいてくることに。
「……を言うな。こっちは紳士的に振る舞ってるんだ。これ以上どうしろと言うんだ?」
「ですから、この牧場の家畜を必要以上に消費しないで下さいとお願いしてるんです」
どうやらハンサウスの兵士と牧場の従業員が二人、話しをしながらこちらへ向かって来るようだ。
「フィリアちゃん。まずは一人助けましょう。加工場で働く従業員は十人。時間交代制で、朝の場合は決められた時間までに五人来る予定なのよ」
フィリアは無言で頷き、加工場の入り口……声がするほうへ足音を立てないように歩いて行った。
一人に一人ずつハンサウスの兵士がついているのだろう……フィリアは両刃で幅広の剣を鞘に入れたまま構え、引き戸のドアの側に立つ。
ガラリとドアが引かれる音がして、まずは従業員――中年の男性が入って来る。
フィリアは黙るように合図を出し、入ってきた従業員の男性と視線を合わせた。
その直後――従業員の後ろから加工場に入ってきた、革の鎧と頭の部分だけを覆う鉄兜をかぶったハンサウスの兵士を、フィリアは両刃で幅広の剣で思い切り殴り倒す。
ボガッ、と鈍い音がすると同時に、声も上げられず、ばったりと床に倒れ伏した兵士を、フィリアは農具置き場から持って来た縄で縛り上げる。
そのままドアを締めると、従業員の男性からこの牧場がどんな状況に陥っているのか聞き出し始めた。
「ハンサウス兵は三十人です。一人に一人ずつ見張りとして張りついてます」
従業員の男性はそう言ってから、なんともいえない複雑そうな表情になって言葉を続けた。
「ですが……身重の奥様に張りついている兵は五人です。奥様は豪胆なお方なので、五人を使用人のように上手く扱っていらっしゃいますが……」
それを聞いたフィリアは思わず「えっ!?」と大声を上げそうになったが、すんでのところで自分の口を手で押さえる。
奥様とやらが、ハンサウス兵を使用人のように上手く扱っていることにも驚いたが。
何よりも、ハンサウス兵達が身重の女性を一番重要な人質と判断しているからでもあった。
(身重の女性に一番多くの兵をつけるなど……!)
フィリアは改めて決意する。
「安心して下さいませ。この牧場のどこかに、国王様が選んだ精鋭部隊も来ております」
フィリアが、ちらりと目配せしながら言えば、それに気づいたシャロンは、しっかりと頷いた。
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