二十一話 閑話・女魔術師シャロン視点~シャロンとヒューイ団長の会話~(二)
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「で、わたしが空間移動の術で東、北、西の山を見て回った結果なんだけどね」
ここはセーフフィールド独立騎士団本部の団長執務室。
シャロンはケアフィールドを囲む三方の山を調査した結果を報告に来ていた。
北の山では独立騎士団の騎士に見つかりそうになったがそれは秘密だ。
「東の山の様子はどうなっていた?」
実は、フィリア達が北の山沿いへ向かったすぐあとに、ベルモント精肉店から相談があったのだ。
「東の山にある牧場と連絡が取れなくなった。何か起こっているなら対処して欲しい」とのことだった。
だが、王立騎士団と東の山を警備している将軍及び国家魔術師の第一部隊に、東の山を立ち入り禁止にされてしまい途方にくれていた。
そこで、ヒューイはまだ召集のかかってなかったらしいシャロンに頼み込んで様子を見て来て貰ったのだ。
ヒューイが頼んだのは東の山の調査だけだったのだが、何故かシャロンは、国を囲む三方の全ての山を調査して来た。
「……ベルモント精肉店の牧場にいる人間は全員無事よ。但し家畜はハンサウスの将軍や兵士達に消費されてるけどね」
シャロンの言葉の前半を聞いて、ホッとしたが、後半を聞くとヒューイは暫し考えて、ゾッとしたようだ。
少しでもショックを和らげようと、遠回しな言い方をしたが、意味はなかったかなとシャロンは思った。
「ベルモント精肉店の牧場がハンサウスの手に落ちてたわよ。従業員達はみんな人質になってるわね」
それを聞いたヒューイは悔しさで、ギリッと奥歯を噛み締める。
「あの牧場は、ベルモント……ルーク・ベルモントのすぐ上の兄夫婦が取り仕切っていると聞くが……人質に取られたのか……」
東の山は王城があり、山を挟んでかつてケアフィールド侵略を目論んだハンサウス王国がある。
東の山にある王城は要塞にもなる堅固な造りで、先代国王の時代にハンサウスからの侵略を阻むのに、要塞として充分な活躍をしたのだ。
その後、東の山には多くの警備が置かれた。
だからハンサウスに近いとは言え、そこまで危険なはずはなかったのだ。
「先代国王の頃に起こった侵略戦争ではハンサウスを退けたけれど、ハンサウスはケアフィールド侵略を諦めてなんかなかったのね」
この大陸に於いて一番大きい国は、敵国ハンサウスではあるが、資源が少ないことでも知られている。
「わたしが調べて来た情報を纏めると、ハンサウスは北の山と東の山からケアフィールドに総攻撃を仕かけるみたいなのよ」
それを聞いたヒューイは言葉を失う。
東の端の大国ハンサウスは、豊かな資源を持つケアフィールドを今でも狙っていると分かっただけでなく。
そこまで大規模な作戦が進行していたことにも驚いたのだ。
「驚くのは無理もないわよねぇ」
シャロンは、「ふぅ」と軽くため息を吐いてから言った。
「わたしとイアン様が協力して早急に調べたんだけど、ハンサウスは二十年近く前から、少しずつ強力な魔術師や兵士を育成していたようなのよ」
ケアフィールドとて有事に備えて色々な準備をして来た。それに山岳地帯に強い軍隊もあるので、負けるはずはないとは思うけれど。
と考えつつもシャロンは知っている情報を話して行く。
「それにしても、随分と長期で大規模な作戦を練ってきたのだな」
ヒューイは呆れたように言う。
だとしても、とシャロンは思った。
(高等魔術である空間移動の術を使える魔術師がどれだけいるのかしら……それともかなりの知将がいるのか、もしや有能な軍師でもいるのかしらね?)
国交は断絶するしかなかったとは言え、ハンサウスの情報が入って来にくいのは問題である。
だからこそ。今回みたいな不意打ちがあっても気づくことが遅れてしまったのだろう。
ハンサウスには密偵を放っていると国王から直接聞いたが……。
「役に立ってないじゃないのよ……」
シャロンは怒りを込めた低い声で呟いた。
「どうした? シャロン」
ヒューイが心配そうに聞いてくるが、国王がハンサウスに密偵を放っていることは国家魔術師として口外は出来ない。
だからシャロンはヒューイの問いかけに「なんでもないのよ」と答えた。
「本当になんでもないのよ……それより、フィリアちゃんをわたしに貸して欲しいんだけど……貸してくれるわよね?」
ヒューイにも話せない国家の一大事があるのだ。
それにはどうしてもフィリアの力が必要だとシャロンとしては考えている。
シャロンはフィリアの才能と努力と実力を高く買っているのだ。
「いきなりどうしたんだ?」
ヒューイにも話せない国家の一大事ではある。
それでも、シャロンは独立騎士団長としてのヒューイの立場を配慮して、話せるところまでは話そうと思っていたので、口を開いた。
「北の山にはケアフィールド王国の国家魔術師第二部隊と軍の遊撃隊が、既に分け入っているわ。それにイアン様も向かって下さってる」
シャロンの言葉にヒューイは真剣な表情で頷く。
そんなヒューイにシャロンは「だから北の山は大丈夫」と安心させるようにと言葉を続けた。
西の山にはシャロンが張った結界があり、シャロンが認めたの者しか入れないようにしておいた。
「でも、東の山には王立騎士団と国家魔術師第一部隊が入ってるけど、ベルモント精肉店の牧場の人間が人質に取られてるわよね」
そのたち言葉にヒューイは深く頷く。
「――だからまずは、わたしとフィリアちゃんで、ベルモント精肉店の牧場を取り戻す切っかけを作るのよ」
と、シャロンは断言するように言い放った。
「ちょっと待て! ベルモント精肉店の牧場を制圧出来る人数のハンサウスの兵士が入り込んでるんだろう!? 二人だけでなんとかなるものなのか?」
この疑問は当然のものだ。
ベルモント精肉店の牧場はかなり広い。
東の山の中に、小さな村が一つあるようなものだと考えれば良いだろうか。
それでもシャロンは確信している。
イアンから受け継いだフィリアの天賦の才と、努力と実力を。
「ヒューイ。フィリアちゃんの才能と実力を甘く見ちゃダメよ。あの子は一対多数の戦闘訓練では負けたことがないわよね?」
これには、ヒューイが黙るしかなかった。
「それだけじゃないわよ。刃がついてる武器は少し練習すればすぐに使いこなせているじゃないの」
だから、シャロンは自信を持って言い切るのだ。
「わたしとフィリアちゃんが力を合わせれば、なんとでもなるわよ! それに、わたしは国家魔術師の遊軍なの! たった一人ではあるけどね!」
シャロンは国王から、とある理由で特別な信頼を得ているのだ。
その理由は誰にも明かせない秘密だが。
「わたしとフィリアちゃんがベルモント精肉店の牧場を占拠しているヤツらを引っ掻き回して援軍も呼ぶから、安心してね」
と、ヒューイを安心させようと言ったのだが、聞かされたヒューイは到底安心など出来なかったようだ。
このあと、不安がるヒューイを宥めすかし、とにもかくにも、シャロンはフィリアを借り受ける約束を取りつけたのである。
四章終わり~五章へ続く~
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