十九話 従騎士の時~北の山での偵察中に~
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ここは山中。北の山。フィリア達はハンサウスの兵士を探しながら、異変などがないか偵察中だ。
革の鎧を身に着けているのは、従騎士も正騎士も同じだった。
山の中ではなるべく身軽なのが良いとされるからだ。
傾斜があったり、木々や草が生い茂る山中では、重い鎧は足を鈍らせてしまう。
正騎士は革鎧を身に着け、その上に独立騎士団の紋章が縫い着けられた緑色のマントを羽織っている。
これならば、正騎士と従騎士の見分けがつきやすい。
今回偵察に出ているのは二組だ。
そのうちの一組が、アトウッド、ゼック、ベルモント、フィリアの四人である。
案内人は日頃から山道の整備などを請け負っている町人だった。
「わしも何度かハンサウスの兵士を見たことがあるが……恐ろしかったですなあ」
(案内人を買って出て下さった方は、六十代半ばくらいでしょうか?)
フィリアの祖父イアンよりは若いが、口調や雰囲気は老人のそれである。
祖父のほうがもっと若く見えるのは個人差なのだろうか? などと思いつつ。
恐ろしいと思っていても、山中の案内人を買って出てくれた高齢の男性には感謝しなければならない。
そんなことを考えながらも、フィリアは辺りの様子を油断なく探りながら歩いて行く。
音に、臭いに、気配。だが気配は山に住む動物や虫達の気配が多く感じられた。
案内人が一般人であることを考えると、日が落ちるまでに引き上げなければならない。
案内人はアトウッドの後ろを歩いている。
順番は、アトウッドのすぐ後ろに案内人。案内人の左右にはフィリアとベルモント。案内人の真後ろをゼックが歩いているのだ。
偵察に使える時間は三時間半くらいになるだろうか?
「アトウッド先輩。わたしはどうやってこの山にハンサウスの兵士が入ったか。を考えてみたのですが」
案内人の後ろを歩いているゼックが自分の考えを語り出した。
「やはり小数部隊に分かれ東の山を越えて北の山に入ったのではないかと」
アトウッドは軽く頭を掻きながら、ゼックの考えを聞いている。
「夜の闇に紛れてしまえば、警戒網にもひっかかりにくくなりますから、不可能ではないと思います」
一通りゼックの考えを聞いたアトウッドは頷いた。
「ふむ。わたしも同じ考えに行きついた……ところでゼックはイアン様目当てで、時々、騎士団本部に来る国家魔術師殿と話したことはあるか?」
が、アトウッドは逆にゼックにこう返した。
「あ、はい。マースティンの友人でもある、シャロン殿のことですね」
フィリアは、シャロンが祖父のイアン目当てで、騎士団本部に度々《たびたび》訪れていると認識されているのが、妙に可笑しく思えた。
まあ、実際その側面は大きいのだろうな。とフィリアも内心では思っていたが、口には出さずにいる。
「そうだ。シャロン殿のことだ。彼女から聞いた話だが、高等魔術の一つに空間移動術と言うものがあるそうな」
それはフィリアも随分と前に聞いたことがあった。
ただ、魔術師の力量とコンディション及び天候や気候に左右されるので、使えたとしても、空間移動出来るのは、魔術師本人だけの場合が多いとも聞いている。
他人だけを空間移動させるのは、成功したか失敗したか分からないので、まずやることはない。
他人を空間移動させる場合は魔術師本人が共に移動するのは当然。
一緒に移動させられる人数は、最高でも三人までが限度だと説明された記憶もあった。
ハンサウスは大国だから優秀な魔術師もいるだろうとフィリアは考える。
「まさか――ハンサウスの兵士達が空間移動の術で侵入して来たと」
ゼックがアトウッドに言葉を返そうとすると――ガサッ、と山の奥のほうで、草が揺れる音が聞こえた。
アトウッドは咄嗟に短剣を山の奥へと投げて、走り出す。
ベルモントも走り出し、思わずフィリアも走り出しそうになったが、案内人をゼック一人で守るのも危険だと思ってとどまった。
もしかしたらあの草の音が陽動なのかも知れないからだ。
フィリアはゼックと共に案内人を守りながら、アトウッドとベルモントが走って行った山の奥へと慎重に向かって行く。
辺りに敵の気配や殺気はない。敵意がある存在はいないようだ。
それでも慎重に歩みを進めて行くと、アトウッドとベルモントの緊張した雰囲気が感じ取れるようになって来た。
近づいていくと、アトウッドが生い茂った草の向こう側でしゃがみ込み、地面を観察している姿が見える。
ベルモントはアトウッドの短剣を回収している途中だった。
草をかき分け、フィリア達はアトウッドの側によって見る。
どうやらアトウッドは地面につけられた一人分の足跡を見ているらしかった。
「この……足跡は町か村の人が使う靴跡でしょうか?」
アトウッドは案内人に訪ねた。
「いや……違うと思いますな。町と村では、男も女も山歩き専用の靴を使いますからな」
フィリアは足跡をじっくり見つめ、ハッと気づく。
「これは……ハイヒールではないでしょうか?」
女物のハイヒールにも貴族の男性が履くハイヒールにも見える。
男物か女物か判断がつかないのは、その靴跡の大きさが男女どちらにも見て取れるからだ。
「あ、確かにハイヒールっぽいな」
短剣を回収して戻って来ていたベルモントも言う。
「う~ん。とにかく、兵士の靴跡でないことは確かだな」
ゼックも足跡を見つめながら言った。
「今はまだ山の中に日は届いているが……山の日暮れは早いからな。一度町に戻ろう」
アトウッドは足跡から目を離し、立ち上がって言った。
「え? この足跡の主は探さないんですか?」
ベルモントは意外そうな表情だ。
「ベルモント。わたしにはこの足跡が魔術師のものではないかと思えるのです」
フィリアは、シャロンのことを頭に思い浮かべながら言った。
シャロンが履いている靴の跡も、こんな感じだったと思い出したのだ。
「よくよく考えてみて下さい。ベルモント。この一人分の足跡は、どこにも続いていないのですよ?」
そう、辺りを見回しても同じ足跡は他にない。
「と言うことは、アトウッド先輩がシャロン殿から聞いた空間移動とやらの術を使える魔術師の足跡。なのか……?」
ゼックは足跡を見ながら、誰にともなく問いかけるように呟いた。
「その可能性が高い気がするな」
アトウッドは歩き出しながら言う。
下りはゼックを先頭に、全員の位置は変えずに町まで戻って行くことになった。
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