十七話 従騎士の時~ハンサウスの不穏な動き~
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結局、フィリアはベルモントを待つことにして――
それから二人は互いにそれぞれが教えを乞うている、正騎士アトウッドとゼックの給仕をしていた。
フィリアはタイミングを見計らって二人の正騎士に問いかけ始める。
「アトウッド先輩。ゼック先輩。北の山で何か異変があったのですか?」
すると、アトウッドがパンを食べつつ、フィリアの顔を見つめた。
「宜しければ何があったのか、詳しく教えて頂けませんか?」
アトウッドはベルモントが教えを乞うている先輩正騎士だ。
薄い金の髪に緑こ瞳の柔和な顔立ちで、気さくな性格のアトウッドは、現在二十八歳。
フィリアがセーフフィールド独立騎士団本部へ初めて訪れたときに、最初に言葉を交わした正騎士でもある。
「やはりマースティンは胆が座ってるな。わたしとゼックが話しているのを聞いて臆したのか、逃げるように部屋から出て行った誰かさんとは違うよなぁ」
とベルモントのほうを、チラリと見つつ揶揄するように言った。
これには、ベルモントも返す言葉がないようだ。
怯えてやや青ざめていた顔色が羞恥と怒りで赤くなっている。
「詳しくは、仮入団者も含めて全員の夕食が終わったあと、団長から広間へ集合するように連絡が来てるから、その時に話を聞けるだろう」
とフィリアが従騎士として教えを乞うている正騎士ゼックが、スープを飲みつつフィリアの問いに答えてくれた。
ゼックは黒髪に緑の瞳の、凛々しい雰囲気を纏った、生真面目な性格の正騎士だ。
現在二十六歳。アトウッドと組んで行動させられることが多い。
部屋も同室なので自然とそうなるのかも知れないが、おそらく相性を見て組む相手が決められているのでは? とフィリアは考えている。
「騎士団本部にいる全ての騎士に、団長直々に話があるのですか……」
フィリアは胸の内に抱いた危機感が更に強くなるのを感じた。
「そ、れって……ハンサウスが攻めて来る。ってことですか?」
ベルモントの顔色が再び青ざめる。
「まだ、詳しくは分からないが。ハンサウスが絡んでいることは間違いない」
ベルモントの問いに答えたのはゼックだった。
「つまりは……全員の食事が終わるのを待つしかないのですね」
とフィリアは自分に言い聞かせるように言う。
アトウッドとゼックからはこれ以上何も聞けないと判断したフィリアは、大人しく口をつぐんで給仕の役割に集中することにしたのだった。
◇◆◇◆◇
全員の夕食が終わったあと、広間に集まった騎士団本部の面々《めんめん》は団長が来るのを、今か今かと待っていた。
広間に数ヶ所点された蝋燭が、辺りを照らし出している。
暗くはないが、昼間ほどは明るくもない。
フィリアがこの騎士団に入ってから、夜、広間に人が集められたのは、今回が初めてだった。
(これは……本当に緊急事態なのかも知れないですね)
フィリアは改めて気持ちを引き締める。
数分後、少しざわつき始めた広間に、団長はいくつもの書類を持ってやってきた。
団長は黒髪黒目で精悍な顔立ちの中年男性だ。フルネームはアーサー・ヒューイ。
平民だが、男爵であるフィリアの父アダムとは知己でもある。
「静まれ!」
団長の一声で皆が口を閉じる。
広間は、シンと静まり返った。
「既に知っている者もいるだろうが、北の同盟国リングノーズと共同で管理している北の山に、ハンサウスの兵士らしき者の姿が多数確認された」
多数との言葉にフィリアは息を飲んだ。
ベルモントから聞いた「ウロチョロしている」どころではない。
ハンサウスとの国境に隣接もしていない山にガッチリ侵入されているのだ。
「なので――緊急ではあるが、皆に国の三方へ散開して警備に当たって貰うことになった」
三方……と言うことは南の海は海軍が守っているので、そこは心配ないのだろう。
「まずは北の山だが……既に山へは国家魔術師の部隊や、将軍率いる軍隊が向かっている。山の麓にある町や村の警備は我が騎士団で常駐の者を置いてはいるが――」
団長はそこで言葉を切って、ベテラン正騎士の名を呼んで自分の近くへと招いた。
呼ばれた正騎士は敬礼しながら返事をして、団長の元に向かう。
団長は持っている書類の中の一枚を正騎士に渡した。
察するに、あの書類は辞令書なのではないかとフィリアは思った。
「下手をすると北の山に分け入って戦闘に参加することになるかも知れないが、頼む」
団長の言葉に正騎士は、「元より承知しております!」と敬礼しながら答えている。
「うわぁ、不味いことになって来たな……」
フィリアの隣に立っているベルモントが小さな声で不安げに呟く。
フィリアは自分の唇に人差し指を当てて、ベルモントに口を閉じるよう合図する。
フィリアの合図に気づいたベルモントは、慌てて自分の口を両手で塞いだ。
そんなことをしている間にも、正騎士が次々と名前を呼ばれ、辞令書らしきものを渡されて行く。
「カーシー・アトウッド。前へ」
団長の厳かな声が、広間に響いた。
アトウッドは落ち着いた様子で敬礼しながら返事をし、団長の元へと歩いて行く。
その様子をフィリアと、何よりアトウッドの従騎士であるベルモントは、固唾を飲んで見つめていた。
何しろ、従騎士は正騎士と行動を共にするのだから、アトウッドの行く場所にはベルモントも赴かねばならないのだ。
「北の山の麓にある町の警備を頼む」
団長の言葉を聞いたベルモントは一瞬で蒼白になり、よろめいた。
フィリアは急いでベルモントの体を支える。
「しっかりして下さい。ベルモント。アトウッド先輩が北へ行くならば、おそらく、ゼック先輩も同じく北へ行くことになるでしょうから」
ベルモントにだけ聞こえるよう、囁くように言うと、フィリアは辞令書らしきものを持って下がって来たアトウッドを見つめた。
その直後、今度はゼックの名が呼ばれ、フィリアの予想通り、ゼックも北の山へ行くことを命じられる。
「ベルモント。わたしも同じところへ行くことになりましたよ」
フィリアがベルモントにそう囁くと、蒼白になっていた顔色に少しだけ血の気が戻って来たようだ。
ベルモントは口から両手を離し、ゆっくり深呼吸をしている。
ゼックが辞令書らしきものを持って下がって来た。
アトウッド同様、ゼックも落ち着いた様子だ。
(やはり正騎士たるものどんな辞令が下っても、平静を保つものなのですね)
アトウッドやゼックを含む、正騎士達の落ち着いた様子を見て、いずれは自分もあのようになりたいとフィリアは思う。
暫くすると、騎士団本部にいる全ての者が警備に着く場所を告げられた。
「最後に――この本部へ残って貰う正騎士達には負担をかけるが、仮入団者達は全員本部へ残り、王都の警備に着いてもらう」
団長は一息つき。
「《くれぐれも妙な騒ぎをおこすなよ。仮入団者に非があると判断した場合は、即刻仮入団の契約を破棄にする。覚えておけ」
仮入団者達は「即刻仮入団の契約を破棄」の言葉を聞いて震え上がったようだ。
彼らは瞬時に姿勢を正し、敬礼しながら「はい!」と答えた。
それにしても。とフィリアは考える。
(イアンお祖父様はこの事態を知っているのかしら)
西の山に隠居している祖父は『剣聖』と呼ばれている。
もしかしたら国王から王立騎士団に合流するよう言われているのかも知れない。
そして、もう一つ。
今やすっかり友人となった国家魔術師シャロンも北の山にいるのだろうか?
フィリアは大切な二人のことを頭に浮かべながら、少しだけ不安になるのだった。
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