十六話 従騎士の時~正式入団から三年後の今~
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フィリア・R・マースティンがセーフフィールド独立騎士団へと、正式入団してから三年が経った。
正式に入団しても、そのまま先輩正騎士であるロジャー・ゼックの元で、従騎士として色々と学び、稽古をつけて貰っている。
同期で、ライバル兼友人でもあるルーク・ベルモントも、正騎士カーシー・アトウッドの従騎士のままだ。
それは三年経った今でも同じだった。
「今日の全体訓練は妙に厳しかったですね」
訓練場から戻ったフィリアは茶色の長髪を、首の後ろで一つに纏め直しながら言う。
三年間の月日を経てフィリアは十六歳になり、女性らしい体つきと共に、強くしなやかな筋肉と筋力を手に入れていた。
フィリアは碧眼の瞳でベルモントの顔を見ながら更に語りかける。
「ベルモントはどう思いましたか?」
ここは独立騎士団本部の短い廊下。二人は自室へ戻る為に廊下を歩いている途中だ。
「そうか? まあ、マースティンがそう感じるならそうだろうな。俺はいつも通り『厳しい』と感じていたよ」
ベルモントは黒髪黒目の十八歳の少年だ。
フィリアより頭二つ分身長が高く、昔より落ち着いた感じにはなっているが、それでも短気な性格は変わらない。
「いつも通り『厳しい』ですか……」
フィリアは独り言のように呟く。
フィリアは全体の動きを合わせる訓練が妙に厳しいと感じていた。
いつもはそこまで厳しいとは感じてなかったのにだ。
「それより一対複数の戦闘訓練……マースティンはなんであんなに強いんだ?」
ベルモントは不思議そうに聞いて来る。
「ええと……ちゃんと見ていれば相手の動きが分かりませんか?」
フィリアは逆に不思議そうな表情で答えた。
「……いや、ちゃんと見ていても、次にどう動いて良いのか反応が遅れるんだよ……マースティンはなんですぐに動けるんだ?」
ベルモントの呆れたような感心したような返事を聞いて、フィリアは納得したような。今一分からないような、複雑な表情になる。
「そう……なのですか?」
普通なのだと思っていたことが、違うと分かってフィリアは密かに驚いていた。
(普通は出来ないのなら、これはお祖父様から受け継いだ才能なのでしょうか?)
フィリアは考えつつもベルモントと共に短い廊下を歩く、自室まではもうすぐだ。
現在は夕食の時間に近づいている。
フィリアはこの三年間、挫けそうになりながらも、国家魔術師シャロンに助けられ、騎士団の同期達に励まされて今まで耐え抜いたのだ。
父親との確執や、仮入団の経緯はともかく、フィリアはこの騎士団に正式入団して良かったと心から思っている。
数ヶ月に一度は『剣聖』と呼ばれる祖父のイアンとも会えるのだ。
祖父に連絡を取ってくれた独立騎士団長にも、連絡役になってくれたシャロンにも感謝してもし切れない。
何しろ祖父に直接指導して貰う機会まで与えられたのだ。
これには正騎士以下従騎士達も喜んでいる。
フィリアはこの三年で、セーフフィールド独立騎士団が、国民達の間では「王立騎士団と同等の品格を備えている」。
と囁かれ始めているのを知って嬉しかった。
それはフィリアと言う女性の従騎士がいることと、祖父のイアンが定期的にこの騎士団に来てくれるからでもある。
「では、また十分後に廊下で」
フィリアは自分の部屋の前で、ベルモントに言葉をかけた。
「おう。十分後な」
ベルモントは今でも、正騎士アトウッドとゼックとは同室のままだ。
その理由は、短気な性格であるベルモントの精神修行も兼ねた結果だった。
それは団長から聞かされて、ベルモント自身も知っており納得もしている。
フィリアはベルモントとほぼ同時に自室へと入った。
フィリアの自室は誰かとの相部屋ではなく、個室である。
何しろこの騎士団にいる女性は、通いでやってくる調理場のおばさんとフィリアの二人だけなのだ。
自他共に誰もが認める美少女であるフィリアだが。
この騎士団の誰からも恋愛感情を抱かれることはなかった。
それは祖父である『剣聖』イアンの才能を余すところなく受け継いでいるからにほかならない。
簡単に言えば、フィリアが心身共に強過ぎるのだ。
祖父から受け継いだ天武の才は、ある意味フィリアを普通の少女から遠ざけてしまっていた。
フィリア自身は別にそれでも構わないと思っているが。
ともあれ、フィリアは訓練でかいてしまった汗をタオルで拭い、別の服に着替える。
着替えには五分もかからなかった。
残りの五分で、フィリアはベッドの上に寝転がり、少しばかり休む。
僅か五分では疲れは取れないが、横になったことで微かに、体が楽になった気持ちがした。
ベッドから起き上がり、部屋から廊下へと移動すると、珍しくベルモントのほうが先に廊下で待っている。
「ベルモントがわたしより先に来ているなんて、珍しいですね」
フィリアは嫌味でもなんでもなく、純粋に珍しいと思って聞いた。
もちろん、ベルモントもそれを知っているので嫌味とは受け取らなかったが、その代わり……。
「先輩達が部屋で……なんか、とんでもなく重要な話をしてた。だから居たたまれなくなって、着替えを終わらせたら、すぐに廊下へ出て来たんだ」
フィリアとベルモントは食堂へ向かいながら歩き出していた。
「先輩方は……何を話していたのですか?」
フィリアは好奇心と不安が入り交じったような声音で、ベルモントに問いかける。
「……隣国の、ハンサウス王国は知ってるよな?」
ベルモントは、やや怯えたように力ない声で話しはじめた。
「ええ。先代国王様の時代に侵略戦争を仕かけて来た東の大国ですね」
王城の背後の山に遮られ、また、要塞としても堅固な城がハンサウスの進軍を阻んでおり。
先代国王率いる近衛隊及び騎士団、各将軍率いる軍隊などが総力を上げて撃退したのだ。
一応、停戦の条約は結んでいるものの、ハンサウスとケアフィールドは国交断絶状態にある。
北と西の二つの隣国とは、同盟を結んでおり。
海ではケアフィールド屈指の海軍がハンサウスとの海峡沿いを警護しているので、海からの侵略はまずない。
「その……東の大国の兵士がだな。北の山でウロチョロしてるそうなんだよ」
北の山でウロチョロ……そう聞くと大したことがないようにも思えるが、実際はおおごとである。
「ハンサウスの者は北の山に入ることは出来ないはずですよ!」
ハンサウスの国土は北の山には隣接していない。
更に言うなら、北の山はケアフィールドと北の同盟国リングノーズが互いに管理しており、ハンサウスとリングノーズは敵対している。
ハンサウスの者など、例え冒険者であろうとも、北の山には立ち入らせるはずがない。
「そ、それで先輩方はなんと!?」
フィリアは驚き、ベルモントの胸ぐらを掴むほどの勢いで問い詰めるように言ったが、ベルモントから返って来た答えは……。
「悪い……そこまで聞いたところで、廊下に出たんだ……」
と言う、なんとも情けないもので、フィリアはベルモントの胸ぐらを掴む手から、ガックリと力が抜けてしまった。
そしてフィリアは無言でベルモントから手を離し、食堂へ向かう足を早める。
「お、おい、マースティン。そんなに急がなくても食堂は逃げないぞ?」
急いで追いかけてきたベルモントに、フィリアは冷たく言い放つ。
「ベルモントがこんなに臆病者だなんて思いませんでした」
フィリアは殆ど駆け足になりながら、食堂へ向かっていく。
「国の一大事かも知れないのですよ? わたしは食堂でゼック先輩の食事を取って来ます」
フィリアは本当にベルモントを置いて食堂まで行き、ゼックの食事を持って部屋へ向かおうとする。
「待てってマースティン。いつも通り俺と一緒に行こう」
ベルモントがフィリアを引き止めようと声をかけても。
「わたしは早く先輩方から詳しいお話を伺いたいのです」
フィリアは振り返らずに歩いて行ったのだった。
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