十五話 閑話・女魔術師シャロン視点~シャロンとヒューイ団長の会話~(一)
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厳しい訓練や稽古にも耐え抜き、フィリアがセーフフィールド独立騎士団へ正式入団したと聞いて、国家魔術師シャロンは喜びを隠し切れずにいた。
ここはシャロンが山から王都に下りて来るときに、必ず利用している宿屋の一室だ。時間は正午より少し前。
「本当なのね!? 嘘は言ってないわよね!? この三ヶ月、フィリアちゃんからの連絡はなかったけど、本当に本当なのね!?」
顔の右半分を白いマスクで覆ったシャロンは、ヒューイに食ってかかる勢いで何度も念押ししていた。
「ほ、本当だ。嘘は言っていない。わたしは一度マースティン家に戻りアダムと話すよう、言外に訪ねたんだ」
ヒューイはシャロンの勢いに圧倒されながらも答えて行く。
「しかし、本人の意思が固く『我が騎士団で正騎士になりたい』と言われてしまった」
が、シャロンはその言葉を聞き、瞬時に不機嫌になった。
「確かめる必要なんかないでしょう!? あの手紙の内容を知っていて、よくもそんなことできたわね!!」
自分のプライドを守る為に、娘の志を否定するなど、あまりにも酷い内容のあの手紙。
シャロンはそれを読んだときから、アダム・I・マースティンを心底、軽蔑するようになった。
「だから、|あの娘《フィリア・R・マースティン》の仮入団が決まったときに、イアン様へ連絡を取って貰うようシャロンに頼んだんだろう?」
不機嫌になったシャロンから、少しずつ距離を取りながらヒューイは話を続ける。
「わたしが直々《じきじき》に会って、イアン様に全てをお伝えしたら、すぐにマースティン家へ行かれたんだ」
ヒューイが自分から距離を取ろうとしても、シャロンは咎めなかった。
「イアン様はマースティン家へ着くなり、アダムを罵倒する勢いで説教をされたようだ」
そこまで聞いたシャロンは少しだけ落ち着きを取り戻す。機嫌は悪いままではあるが。
「……それで、どうなったのかしら?」
シャロンは、イアンに説教されようが、アダムが考えを変える訳はないと思っている。
ある程度年齢を経た者は、男であろうが女であうが、プライドが高ければ高いほど、自分の考えや意見を変えたがらない傾向にあることをシャロンは知っている。
「この先、もしもだけれど、フィリアちゃんが屋敷に連れ戻されるような事態にはならないわよね?」
連れ戻されようものなら、シャロン自身が出張ってでもフィリアを取り戻すつもりだ。
「取り敢えずはこの先も、あの娘には手出し無用となっている。その証拠をシャロンに取りに行って貰ったんだ」
ヒューイは懐に忍ばせていた手紙をシャロンに渡す。
「これは……わたしがイアン様から預かった手紙ね。読んで良いのね?」
シャロンは【イアン・マースティン】の署名が書かれた手紙を受け取りながら問う。
イアン・マースティンからアーサー・ヒューイへ宛てられた手紙だ。
「読んで貰わないと信用されない自信はある」
それはどんな自信なのか、とシャロンは思いながらも手紙に目を通す。
「シャロンの疑り深さは昔から変わっていないだろう? まだ『人間不信の魔術師』との陰口が時々聞こえて来るぞ?」
ヒューイのからかうような言葉はシャロンの耳には届いていない。
「な、嘘! い、いえ――嘘じゃないわよね! イアン様がこんな嘘を書く理由がないわ! じゃあ本当なのね!!」
シャロンは手紙を読んで、興奮気味に言った。
「イアン様が定期的にセーフフィールド独立騎士団へフィリアちゃんの様子を見に来ることになったのね!!」
ケアフィールド王国の先代国王から現在の国王へ代替わりして数年後、イアンは妻を亡くしたあと、西の山奥へ隠居している。
シャロンが住む山と同じではあるが、二人が住んでいる場所はかなり離れているのだ。
それに、イアン本人が一人でゆっくり暮らしたいたいと願っている。
今回のようなことでもない限り、二人が会うことはない。
「ねえ。イアン様がこの王都に来られたときには、わたしにも連絡してよ?」
シャロンは期待を込めた眼差しを、ヒューイに向けながら言う。
「それは構わないが、どうやって連絡を――あ、通話の魔道具を渡されていたな。あれはどうやって作ったんだ?」
ヒューイが不思議がって聞いて来るがシャロンは困ったような表情になる。
「実際のところは、結構面倒な手順を踏んで造ってるから、魔術の知識が少ない人に説明は難しいのよね」
シャロンとしても、ヒューイには伝えられるなら伝えても良いのだが、本当に難しいのでこう言うしかない。
その魔道具はフィリアに何かあったときの為、シャロンからヒューイに渡して置いたものだ。
だが、この三ヶ月間をフィリアはシャロンに頼ることなく一人で乗り切ってしまったのだが。
「まあ、そうだな。イアン様が来たら、シャロンにも連絡するとしよう」
シャロンはヒューイの言葉に、キラキラと目を輝かせる。
「頼むわね! お願いね!」
シャロンは人とあまり関わりたがらない性格のうえに、疑り深くもあるので『人間不信の魔術師』と嬉しくないだろう呼ばれ方をしているが。
それをシャロンは否定をしない。人間不信気味なのは事実だから。
だが、ちゃんと信用している人間もいる。その一人がイアンである。
先代国王の頃に起こった隣国ハンサウスとの戦いのとき、今は遠くへ旅立ってしまったシャロンの師匠の命を救ってくれたのがイアンだ。
それは間接的にではあるが、シャロンをも助けた。
まだ半人前の魔術師だったシャロンは、イアンのお陰で師匠を失わずに済んだのだから。
それ以来、シャロンの師匠は遠くへと旅立つまで、イアンと親しく交流していた。
師匠が遠くへ旅立ったあとは、イアンが山に隠居するまで、シャロンがイアンと定期的に会っていたのだ。
それは、そうしなければならない理由があったからだが、シャロンはその理由を誰にも話すつもりはない。
師匠からも話さないように言いつけられている。
「あ、その魔法具の使い方は分かっているわよね?」
色々と考え、思い出を振り返っていたシャロンは、ハッと気づいてヒューイに確認した。
「ああ、使い方は分かっている。ちゃんと連絡するから心配しなくて良い」
ヒューイの返事を聞いて、シャロンは漸く安心する。
正式入団となったフィリアのことを気にかけながらも、シャロンは敬愛するイアンにまた会える日を心待ちにするのだった。
二章終わり~三章へ続く~
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