十三話 仮入団の時~ルーク・ベルモントVSフィリア・R・マースティン再び
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午前の六時頃。
騎士団本部の備品である木靴を履いて、フィリアとベルモントは中庭に出た。
そこには本部中から二人の練習試合を見る為に集まった者達が、輪になっている。
予想以上に多いなと思いながらもフィリアは輪の中心に歩み出た。
ベルモントもフィリアの対面の位置に歩み出る。
「やっとあの娘の実力が、この目で見られるな」
「ベルモントが負けるか、番狂わせが起こるか見物だな」
などと言う声が周囲から聞こえてくるが、フィリアは無視して木剣を構え、目の前にいる対戦相手に集中している。
だが、ベルモントは集中どころではないようだ。
「まだ負けを認められないのかー?」
「自分より年下の女の子に負けたことより、団長の決断に背いたことのほうが不味くないかー?」
フィリアの耳にもハッキリと聞こえて来る、ベルモントを野次る声。
「練習試合を申し込んだのはお前からか?」
「うわ、本当か? そりゃ笑っちまうな」
続いて本当に笑い声が聞こえて来た。
ベルモントは怒りと羞恥が入り交じった表情で、真っ赤になって震えながら、昨日と同じく冷静さを欠き始めている。
さすがに気の毒だとフィリアは思うが、だからと言って負けてやる訳にはいかない。
そこへ、審判役を買って出たゼックが二人の側へ歩み寄る。
「練習試合――始め!」
ゼックの声を引き金に、フィリアとベルモントは睨み合った。
昨日とは違い、ベルモントはフィリアの隙を狙って、簡単には仕かけては来ない。
前回よりは、多少なりとも落ち着いてはいるようだ。
「恥の上塗りになったりしてなー?」
またもやベルモントを野次る声。
昨日と似た展開になりそうな予感がしつつも気を抜かず、フィリアはベルモントの様子を観察している。
「『剣聖』イアン様の孫か……中々に良い構えだな」
と言う声も聞こえて嬉しくなるが、ベルモントからは目を放さない。
膠着状態が数分続き、周囲からフィリアではなくベルモントに容赦ない野次が飛び交い始める。
「女相手に何やってるんだー」
「お前から申し込んだ試合だろうがー」
「汚名を雪ぐんじゃなかったのかー」
正騎士ならともかく、従騎士身分以下の者は朝食を済ませていない時間だ。
空腹で気が立つのも仕方がないと言えよう。
「さっさと行けー!!」
誰かがベルモントに向かって思い切り叫んだ。
それを合図にベルモントがこちらに突っ込んで来る。
フィリアは前回とは違い、向けられたベルモントの木剣を勢いよく横に払った。
が、払い切れずに、持ちこたえられてしまったので、フィリアは力一杯体ごとベルモントに体当たりする。
(体当たりなんて、騎士道精神に反するかもしれませんが、まずは勝つことが優先です!)
祖父から「体当りも有効な手段だ」と教えられた覚えがあるので、フィリアに躊躇はなかった。
体当たりされたベルモントがバランスを崩したところに、加減をしながら頭に一撃を加えた。
――ボグッ、と痛そうな音がすると同時に、
「勝者! マースティン!」
と勝敗を決めるゼックの声が響いた。
「おおっ! あの娘が勝ったぞ!!」
「さすがに団長が認めただけはあるんだな!」
「『剣聖』イアン様の才能を女が受け継いだってことか! 凄いなあの娘!」
フィリアを称賛する声が聞こえる。
「勝負の決め手は、ベルモントの精神力より、あの娘の精神力が勝っていたとも言えるのか?」
「いや、剣術に於いても、あの娘が勝っていたんだと思うぞ」
それだけでなく、練習試合の分析を始めている者もいる。
「やっぱり、恥の上塗りになったなー」
「今度こそ敗けを認めろー」
だが、またもやベルモントを野次る声も聞こえて来る。
ベルモントが自分を野次る団員達に何か言い返そうとした直前――
「皆様! 静粛に願います!」
ゼックの凛とした声が響き、中庭が、シンと静かになった。
いつの間にかゼックの横にアトウッドも立っている。
「皆様。このような早朝に、しかも騎士団本部の中庭で、我が従騎士の我儘にて練習試合など行ってしまい。申し訳ありません」
アトウッドが優雅な身のこなしでお辞儀をする。
(なんて優雅な身のこなしなんでしょう)
とフィリアは驚く。
「気にするな、アトウッド。わたし達としても気になっていた事柄だったので丁度良かった」
歳かさの――と言っても三十代前半くらいだろうか? アトウッドやゼックよりも明らかに年上の正騎士が、温かい言葉をかけてくる。
「先輩方……ありがとうございます!」
アトウッドだけでなく、ゼックも声をかけてくれた先輩騎士に向かって敬礼している。
フィリアもそれに倣って敬礼する。
「お前も敬礼するんだ! ベルモント!」
アトウッドの声で我に返ったように、ベルモントも慌てて敬礼をした。
こうして、二人の練習試合はフィリアの圧勝で終わりとなったのだ。
――が、フィリアがゼックと共に中庭を去ろうとすると、数名の正騎士と従騎士達に囲まれてしまった。
ゼックがフィリアの両肩を抱いて「な、なんのご用でしょうか? 我が従騎士に何か不満がありますか?」と庇うように行動してくれたが。
「いや、ゼックの従騎士に不満はない。寧ろ不満ならアトウッドの従騎士にあるが……それはそれとして、ゼックの従騎士マースティンに質問したいことがある」
とアトウッドと同じくらいの年齢だろうか、二十代半ばくらいの、金髪に緑の瞳の正騎士がフィリアの顔を見つめながら問うて来た。
「わ、わたしに質問ですか?」
フィリアも正騎士の顔を見つめながら言った。
何故、正騎士だと分かるかというと、セーフフイールド独立騎士団の紋章がついた鎧を着ているからだ、昨日ゼックとアトウッドが着ていたものと同じデザインの鎧だ。
「マースティンは何故、うちの騎士団に仮入団したのかと思ってな。マースティンならぱ、王立騎士団のほうが良いんじゃないかと思ったんだ」
まことに素朴な質問だが、フィリアはすぐには答えられない。「父親に落とし入れられました」などとは口が裂けても言えない。
「……それは、ですね……」
それでも、フィリアはつっかえながら何とか答え始める。
「祖父が……王や貴族だけでなく、国民に寄り添える独立騎士団で修行したほうが、わたしの為になると言って下さったから……です」
フィリアの出任せを聞いた正騎士達と従騎士達は口々に、
「『剣聖』イアン様が!」
「やはり『剣聖』イアン様は素晴らしいお方だ!」
「王族や貴族ばかりではなく、我々一般国民のことを気にかけて下さっているんだ!」
と喜びを露に叫び始めた。
(今はもう隠居されてるけど、イアンお祖父様って……わたしが思っていたより、ずっとずっと人気があって有名で、多くの人から信頼されているお方なのね……)
思わぬ形で祖父に助けられたフィリアは、祖父の偉大さを改めて胸に刻む。
「ですから! 解りましたってば!」
急にベルモントの大声が聞こえて、フィリアとゼック、それにフィリア達を囲んでいた団員達もそちらに目を向ける。
「お前もわたしも団長に怒られることだけは覚悟しておけよ!!」
どうやら、アトウッドがベルモントに説教をしているようだ。
「素直に敗けを認めますから!」
ああ、やっと認めたんだなとフィリアは思った。
いきなりやって来た男爵家の令嬢と対戦させられ、簡単に負けてしまったのだ。
無理はないと思うが、団長が認めた勝敗に納得できなかったのは頂けないとも思う。
今回の練習試合で素直に敗けを認めたベルモントの印象は、最初よりずっと良いものになっている。
なってはいるが、それとは関係なく団長には怒られるだろうなとフィリアは考える。
気の毒だとは思うが、こればかりはどうしようもない。
フィリアは「ふぅ」と軽い溜め息をついた。
この作品はカクヨムコン11にエントリーしている作品なのでカクヨムでは完結しています。
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