十二話 仮入団の時~朝食と練習試合の申し込み~
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翌朝早く起きて、着替えをしながらフィリアは考えていた。
昨日、団長が言っていたことにこのような内容があった。
「我がセーフフィールド独立騎士団は、国民の剣であり盾でもある」
王立騎士団は国と王家と貴族を真っ先に守り。独立騎士団は真っ先に一般の国民を守る。
王立騎士団とて国民を守りはするが、やはり優先順位と言うものがあるのだ。
ケアフィールド王国に於いて、一般の国民を守るのは、主にセーフフィールド独立騎士団である。
独立騎士団は自治も兼ねており、国民同士の諍いや細々《こまごま》とした犯罪なども独立騎士団で対処しているのだ。
だからこそ本人の資質が大事なのである。
剣聖と呼ばれるフィリアの祖父イアンは王立騎士団退任後、数年間独立騎士団で団長を勤めていたことがあった。
アーサー・ヒューイ団長はそのときに祖父から教えを乞うたことがあるのだろう。
昨日、団長が「この国にも女騎士が必要になるときが来る。と剣聖イアン様も仰っていた」と言ったときに、そうなのではないかと思ったのだ。
確信はないが、その可能性は高いと思う。
そう言えば祖父は、自分がセーフフィールド独立騎士団へと放り込まれるように『仮入団』したことを知ったらどう思うのだろう。
などと思いつつ着替えと身支度を終えたフィリアが、ドアに向かおうとすると――
ダンダンダンッ、と乱暴にドアが叩かれた。
フィリアは直ぐ様部屋の壁に立てかけて置いた木剣を手に取ると、身構えならがらドアの向こうに問いかける。
従騎士――つまり見習いの朝は早く、今は五時前だ。
こんな時間に乱暴にドアを叩くなど、ロクな者ではないか、ロクでもない報せを持って来た者でしかないとフィリアは判断する。
「誰ですか!?」
フィリアは鋭い声で呼びかけた。
「俺だ。ベルモントだ」
すると意外な人物の声が返って来たので、フィリアはビックリする。
「べ、ベルモントなのですか? わたしになんのご用なのでしょう?」
ビックリしながらも警戒は解かずにフィリアは問う。
「お前、ゼック先輩の従騎士になったんだろう? 俺はアトウッド先輩の従騎士なんだ。だからお前はこれから俺と行動することが多くなる」
ベルモントは不満そうな声音で答えた。
そう言えば団長が言っていたなとフィリアは思い出す。「アトウッドと組むことが多いゼック」と……。
「確かにアトウッド先輩とゼック先輩は組むことが多いとは聞きましたが、従騎士であるわたし達までこんな早朝から行動を同じくする必要があるのですか?」
と、フィリアは疑問をぶつけてみる。
「アトウッド先輩とゼック先輩と俺は同室なんだ。だから同じ従騎士として色々教えてやって欲しいと頼まれたんだよ」
すると、これまたフィリアがビックリするような答えが返って来た。
(アトウッド先輩とゼック先輩とベルモントが同室なんて、ゼック先輩はそんなの一言も……)
驚き過ぎて声が出ず心の中で呟いたフィリアだが、ハッと気がついた。
ゼック先輩が自分を従騎士にしたがらなかった理由の一つはこれなのではないか?
ゼックの従騎士になれば、今も不満そうな様子を隠さないベルモントと行動を共にすることが多くなり過ぎるから。
そんな理由もあるのではないか? とフィリアは思った。
「おい! マースティン! 黙ってないで早く出て来い!」
ベルモントの苛立った声でフィリアは我に返った。
「わ、分かりましたわ。今行きますね」
フィリアは木剣を壁に立てかけ直すと、ドアを開けて廊下に出る。
「ようやく出て来たな……マースティン」
不機嫌そうな表情に不満そうな声音。黒髪黒目の気が強そうな少年が目の前にいた。
「ベルモント、何故あんなに乱暴にドアを叩くのですか? 普通にノックすれば宜しいでしょうに」
フィリアが文句を言うがベルモントは不満そうな声で答える。
「お嬢様が早起きなんて出来るはずないと思ったんだよ。でも、ちゃんと起きてたんだな――チッ!」
起きてなかったほうが良かった。とでも言わんばかりに舌打ちまでするのだから、フィリアも、ムッとしてしまった。
「貴族を舐めないでください。特に、我がマースティン家は強い剣士を輩出することを条件に世襲が許されています。男だけでなく、女も朝早くから起きて色々とやることがあるのです」
フィリアの言葉を聞いたベルモントは、ぶっきらぼうに一言、「そうかよ」と答えて歩き出す。
「どこへ行きますの?」
フィリアがベルモントのあとに着いて歩きながら問う。
「食堂だ。先輩達の給仕をするんだよ。食堂で食事をするのは、俺達みたいな仮入団の従騎士か、正式に入団した従騎士だ。ああ、俺達みたいな仮入団者が食事を摂れるのは一番あとになる」
不満ながらもちゃんと説明するベルモントを、フィリアは少しだけ見直した。
ベルモントとフィリアはそれぞれアトウッドとゼックの食事を調理人から受け取って、部屋へと向う。
フィリアは食堂で、同じように先輩騎士達の食事を取りに来た従騎士達の注目を浴びてしまったが、素知らぬ顔で通した。
調理人達は驚いた表情をしていたが、他の従騎士達と同じように扱ってくれたので問題はなかった。
やはり注目されてはしまったが、そこはしょうがないとフィリアは諦める。
暫くすれば皆んな慣れるだろうとは思うのだが。
ベルモントがアトウッドとゼックがいる部屋のノックをすると「入っていいぞ」とアトウッドの声がした。
ベルモントは「お待たせしました」と声をかけながら。フィリアは「おはようごさいます。先輩方」とお辞儀をしてから部屋に入る。
すると、まだ鎧も何も着けてないアトウッドとゼックが笑顔で二人を迎えてくれた。が――
「先輩お二人にお願いがあります!」
とベルモントは食事をテーブルに置き。ビシッと背筋を伸ばして敬礼しながら力強く言った。
黒い瞳には決意が宿っている。
「どうしたベルモント。いつになく真剣じゃないか?」
アトウッドが不思議そうに言う。
「気をつけて下さいアトウッド。こいつが真面目なときはロクでもないことを考えている場合も多いです」
とゼックは射貫くような眼差しでベルモントを見ながら言った。
するとベルモントは図星を突かれたようで、額に冷や汗を流し始める。
「お、俺、俺は、フィリア・R・マースティンに決闘――いや、練習試合を申し込みたいです! どうか許可をお願いします!」
……まだ諦めてなかったのか、とフィリアは呆れてしまった。
「お前なぁ……昨日あれだけ見苦しい真似は、や・め・ろ、と言っただろうが!」
たちまち怒りの表情になるアトウッド。こめかみに青筋を浮かべて本気で怒っているようだ。
「ま、まあまあ、アトウッド。落ち着いて下さい。マースティンの強さは団長が認めているので、間違いはないと思います」
するとゼックは宥めるように言葉を発する。
「しかし、わたしもそうですが、他の団員達はマースティンの実力を知りません。なのでこの際、二人に本部の中庭で練習試合をして貰いませんか?」
それは、本部の団員が見守る中でと言う意味なのだろうか? とフィリアはゼックの提案を聞いて思った。
「ベルモントに不満を抱かせたままより、皆んなの前でマースティンの実力を示し、まぐれ勝ちなどではなかったとベルモントに納得させることも出来ると思います」
ゼックの提案を聞き、アトウッドは暫し考えてフィリアに言った。
「ゼックの提案は一理ある。この際だから皆んなの前でベルモントと練習試合をやってみるか?」
確かに不満を持たれたままなのは、不都合も多いだろう。だからフィリアは敬礼をしながら「はい」と答えたのだった。
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