ep.30『Can't Take My Eyes Off You』
翌月、ジャンク・バスターズが再び紗和の働くライブハウスでライブを行った。
最後の曲が終わり、ステージ中央に立つボウがマイクを握り、思いの丈を叫ぶ。
ボウ: 「今日はありがとうございました!!
俺たちは……今観てくれている皆さんの心に刻まれる歌を歌いたい!
そして、そんな演奏を届けたいと思っています!
もし次見てもらえる時には、もっと皆さんの心を動かせるような演奏をお見せします!
もちろんバンドとしてもっと大きくなるのが本音です。でも、それ以上に、今日ここで観てくれている皆さんを大事にしたい!
来月もこのライブハウスでライブをやる予定なので、ぜひまた観に来てくれたら嬉しいです!
今日は本当にありがとうございました!」
少人数の観客が大きな拍手で応え、会場には温かい空気が流れる。
ジャンク・バスターズのメンバー全員が一礼し、控え室へと戻った。
控え室
控え室ではライブを終えた余韻の中、メンバーたちが感想を言い合っている。
野田: 「ボウちゃん、最後の挨拶アツかったね!最高だったよ〜!」
他のメンバーも頷きながらボウに視線を向ける。
ボウ: 「いやさ、なんか演奏しながら自分でもアツくなっちゃってさ、気づいたら勝手に叫んでた(笑)」
メンバー全員が笑顔で話していると、控え室のドアがノックされ、ゆっくりと開いた。
紗和が恐る恐る顔を出し、控え室に足を踏み入れる。
紗和: 「あ、あの……すごくカッコよかったです!
最後の挨拶もそうですけど、演奏も本当に素晴らしくて……!」
野田がいち早く反応し、大げさに手を叩く。
野田: 「紗和ちゃん〜!そんなこと言ってくれるのね〜!ありがとう!!」
ボウが目を少し丸くして紗和に話しかける。
ボウ: 「あっ、紗和さんって言うんすね!」
紗和: 「は、はい!紗和です。よろしくお願いします!」
そこで野田がニヤニヤと笑みを浮かべながら、2人に話を振る。
野田: 「そういえば、ボウと紗和ちゃんってさ、年齢近いんじゃない?
2人ともいくつだっけ?」
ボウ: 「27だよ。」
紗和: 「27歳です!」
野田がさらにニヤつきながら、ふざけた口調で続ける。
野田: 「じゃあ、お互い敬語なんか使う必要ないじゃん〜!
紗和ちゃんも俺に敬語いらないからね!親戚のおじさんだと思ってさ!」
ボウがすかさずツッコミを入れる。
ボウ: 「いや、野田っち、1歳しか変わんねぇだろ!!」
それを聞いた紗和が、真面目な顔をしながら野田に返す。
紗和: 「うん、分かった。野田っち。」
ボウが驚いたように再度ツッコミを入れる。
ボウ: 「受け入れんの早っ!!」
控え室に笑い声が響き渡り、明るい雰囲気が続く。
その後、紗和は自然とバンドメンバーたちとも打ち解け、心地よい時間を過ごしたのだった。。。
控え室での談笑も一段落した頃。
メンバーたちは荷物をまとめ、それぞれ帰る準備を始める。
紗和も出口付近で挨拶をしようとするが、そのタイミングで野田が彼女の近くに寄り、ふいに耳打ちをする。
野田: 「ねえ、紗和ちゃん……ボウちゃんさ、紗和ちゃんのこと気になってるよ。間違いない。」
紗和は驚き、顔を赤らめながら慌てて答える。
紗和: 「えっ!ちょっと、いきなり何言ってるんですか!いい加減なこと言わないでください!」
野田はニヤニヤといたずらっぽい笑みを浮かべたまま続ける。
野田: 「いやいや、ボウとは付き合い長いから分かるんだって。あの感じ、絶対だよ。」
紗和はさらに困惑しながら、言葉に詰まる。
紗和: 「そ、そんなの……分かるわけないじゃないですか!」
野田は得意げに笑いながら、ボウの癖について語り出す。
野田: 「ボウはさ、2回目に会った人とは基本タメ口になるんだよ。相手がかなり目上の人とかじゃなければ、だけどな。
でもさ、同世代の紗和ちゃんに敬語のままだったの、気にしてる証拠だと思うぞ。少し緊張してんじゃない?」
野田は軽く肩をすくめると、さらにニヤリと笑う。
野田: 「それに、最後の挨拶……あれ、たぶんいいとこ見せたかったんじゃないか?(笑)
まあ、信じるか信じないかは……あなた次第!」
そう言って軽く手を振りながら、先に帰っていく野田。
紗和はその場に立ち尽くし、頬を赤らめたまま、どこかそわそわとした様子で小さくつぶやく。
紗和: 「……そんなわけないでしょ……」
心の中で野田の言葉を否定しようとするも、どこか気になってしまう自分がいる。
紗和は自分の気持ちに戸惑いながらも、静かにライブハウスの片付けを再開したのだった。