表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
3月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

321/322

2.グラウンドで叫べ! ②

 最後のホームルーム中も卒業する寂しさで泣いていた(うみ)。そんな彼女が涙を拭き勇気を振り絞って声をかける前に、帰宅しようとした東柊(あずましゅう)は女子たちに呼ばれて、教室から出ていってしまった。


(先越されたー!!)


 東を追って辿り着いたのは校舎の外で、そこには多くの女子生徒が並んでいた。ほとんどが三年生だが、一年生や二年生の姿もある。そして、彼女たちは順番に東へ告白をしていく。


「東君。私、ずっとあなたのことが好きでした! 付き合ってください!」

「え、ごめん」

「……」


「あの、前に(わざと落とした)ハンカチを拾ってくださったじゃないですかぁ?」

「そんなことあったっけ?」

「……」


「まずはお友達からでもいいんで、よかったら連絡先教えてほしいな?」

「遠慮しとく」

「……」


 海は瞬殺される彼女たちが可哀想に思えてきた。だが、ここにいる者たちは全員自分は大丈夫だと信じており、列から抜ける者はひとりもいない。


(よし! わたしも並ばんと!)


「海先輩、なんばしよっとですか! さっきから何度も電話しとるのに!」


 海も列の最後尾に並ぼうとすると、後輩の松崎萌季(まつざきもえぎ)が鬼の形相で二階の窓から睨んでいる。


「え! ……あ、本当だ! もえちゃん、気づかんかった! ごめん! で、何?」

「色紙、いらないんですか? せっかく書いてあげたのに」

「いる! 欲しい! 絶対いる!」

「だったら早く来てください。私たち、この後練習あるんですよ」

「うん! 急ぐけんね!」


 まだまだ東への告白の待ち時間はかかると予想し、海は走って校舎に戻った。








 後輩たちから心のこもった色紙を渡され機嫌の良い海は、同じパートの三年生と共に仲良く廊下を歩く。


「なんだかんだで、しっかりこういうの用意してくれて嬉しいね」

「もらえんかと思っとった」

「えー、そう? わたしはあるってわかっちょったよ!」

「その割に松崎の電話無視しとったな」

「そりゃだって、東君に告は……あ! 東君!」


 急いで廊下から先ほど東がいた場所を確認すると、既に誰もいなくなっていた。


「うっそ! 帰った? え、帰ったの!?」

「どした?」

「誰かと約束しとった?」

「しとらん。しとらんけど! ちょっと捜してくる!」

「こっちの集まり忘れんなよー」

「もちろん!」


 廊下を走って東の捜索を始める海。生活指導の教師に怒鳴られながらも、そのスピードを緩めなかった。

 それから彼が学校を出たという情報を手にし、彼女は駅へと向かう。


(おった!)


 視界にやっと入った大三東(おおみさき)駅には生徒たちが何人もいたが、その集団の中にいる東を海はすぐに見つけた。

 しかし、無情にも電車がやってきてしまう。


「東くーん!!」


 海は全力で彼の名前を叫んだ。


「まだ乗らんで! まだ『そいぎぃ』も言っちょらんけん!」


 足を止めずにそのままホームへと駆け込むと、そこには電車に乗らず残った東がひとりポツンと立っていた。


「俺、何か忘れ物でもした?」

「ううん」

「ねぇ。さっきの『そいぎ』って何?」

「島原弁で『またね』っていう意味だよ」

「へぇー。……あ、確かに音和(おとなぎ)さんに何も言わず帰ろうとしてた。ごめん。そういえば、この制服っていつ返せばいい? 一応誰にもボタンとかあげずに綺麗に残しておいたんだけど」

「返さんでよかよ。それよりね、わたし、東君に伝えたいことがあるんよ」

「何?」

「わたし……東君のことが好き!! 大好き!!」

「……え?」

「わたしと付き合ってほしいかです!!」

「……」

「……」


 海にとって苦しい沈黙の時間が流れる。この間、振られた女子たちの顔が浮かんだ。彼女は重い空気に耐えるが、なかなか東は返事をしない。


「……した」

「へ?」

「びっくりした。……あ、黙っちゃってごめんね。音和さんから告白されるとは思ってなかったから。えっと……」

「うん」


 東の言葉の続きを待っていると、突然「ぐー」という音が響いた。


「え? なんの音?」

「……わたしのお腹の音」

「……何か食べる? あ、これは? 校長からもらったやつ」


 東は鞄からかす巻きを取り出した。それは、成績上位三人へ校長から特別に贈られたお菓子である。


「……食べてもよか?」

「いいよ」

「やっぱ悪いけん、半分こね」


 半分に割ったかす巻きを海は頬張り、幸せに満ちた表情をする。


「音和さんは本当に美味しそうに食べるよね。よかったらこれも食べてよ」


 東が残りの半分を彼女の口の前に持っていくと、一瞬でそれが消えた。反射的に一口で食べてしまった海は恥ずかしがるが、彼はそれを見て楽しそうである。


「はははっ。食欲あるのはいいことだよ。運動もよくするし、健康的だね」

「なんだかペットみたい」

「……Eva(エヴァ)

「へ?」

「誰かに似てるなとは思ってたんだ。そっか。音和さんだったんだね」

「ど、どゆこと?」

「東京の猫に似てるんだよ。ほら、動画観せたことあるだろ?」

「あ、うん」

「似てる」

「似て、る……? それはつまり、東君がわたしのこと好きってこと?」

「え? ……えっと、そういうことじゃ、いや、そういうこと?」

「東京のニャンコより、わたしならいっぴゃあ(たくさん)会えるよ!」

「い、いっぴゃあ?」

「うん! たっくさん会えるんよ! 目の前でご飯を美味しく食べて、とにかく動き回れるし、あと匂い嗅いでもOK! おすすめです!」

「なる、ほど?」

「だからわたしと付き合おう!」

「……悪くないかも」

「っ!」

「うん。付き合おうか」

「やったー!!」


 ぽっちゃり体型の海は、嬉しさのあまりジャンプして東に飛びついた。それを彼はしっかりと支えた。








 海と東が駅にいる頃、実音(みお)大護(だいご)はグラウンドにいた。

 実音が後輩と別れて教室に戻った時、男子たちが告白をするため声をかけようとしたが、その前に大護が彼女を外へと連れ出した。


「なんのためにここ来たか、察しはついとるよな」

「……」

「一回振ったのにって思っとるかもしれん。ばってん、諦めきれん。俺、実音のことがーー」

「ごめんなさい!」

「……え」


 二回目の告白は言い切ることも叶わず、大護の頭は真っ白になる。


「あ、違うの! 違くはないけど、その、今のはあの時振っちゃったことに対してで……」

「えっと、それはどういう?」

「私、大護君に悪いことした。部活のこと優先させなきゃ全国は無理だって思って……。それで、ルールを作ったの」

「ルール?」

「うん。……『部活のために誰とも恋愛しない』って」

「……」

「あの時、すっごく嬉しかった。でも、今は断んなきゃって。それに、大護君はテレビの中の私が好きだったんでしょ? あれって編集の力で私が特別な存在みたいになってただけで、実際は大したことないもん。だから、あのイメージを超えないとって」

「ちょっと待て! 俺の初恋がテレビで観た実音なのは間違いなかばってん、今の実音の方がーー」

「ストップ!」

「……」


 またしても途中で止められ、大護は傷ついて泣きそうになる。

 だが、目の前の実音は深く深呼吸を繰り返している。


「……っ……あのね、私ね……」

「うん?」

「……好き! ものすごく、どうしようもなく……大護君が好き! やっちゃ(すごく)好き!! いっちゃん(一番)好き!!」

「……っ!!」

「……方言使ってみたんだけど、間違ってるかな?」

「だ」

「だ?」

「抱き締めてもよかですか?」

「っ! ……よか、です」


 恥ずかしそうに許可を出す実音が可愛すぎて、大護は発狂しそうになるが我慢した。

 嬉し涙を流しながら、彼女のことをそっと抱き締める。それに、彼女も応えて背中に手を回す。瞳からは綺麗な雫が溢れた。


「俺もやっちゃ好き!」

「うん」

「いっちゃん好き!」

「うん」

「実音のこと、すいちょります」

「私もすいちょります」

「すいとっと?」

「うん。すいとっと」


 視線が交差して互いに微笑むと、またふたりはギュッと抱き合うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ