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がんばらんば〜大三東高校吹奏楽部の活動日誌〜  作者: 尋木大樹
3月

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322/322

3.大三東高校吹奏楽部

 気持ちを伝え合った実音(みお)大護(だいご)

 少し離れた場所でカサカサと音がし振り向くと、そこには野球部の後輩たちが部室から顔を出してニヤニヤと笑っている。


「なっ!? お前らいつからおった!?」

「最初からです」

「いいもん見させてもらいました」

「ヒュー、ヒュー」

「見せもんじゃなか!」

「そっちから来たんでしょうが」


 大護は抱き合っていた身体を解いたが、代わりに実音の手を握った。


「練習邪魔して悪かった。試合観に行くけん、またその時にな!」

「お疲れっした!」

「お幸せにー!」


 そしてふたりは野球部と別れ、荷物が置いてある教室を目指して歩く。


「実音は春から大学生かぁ」

「うん。大護君は本格的にお仕事だよね。身体には気をつけて」

「おう」


 実音は四月から島原大学の外国語学部の一年生として、英語を専門的に学ぶ。大護は漁師だ。

 周りはみんな、実音が音楽大学へ進学すると思っていた。しかし、彼女は地元の大学で吹奏楽部へと入ることを決めた。また、音楽推薦ではなく一般入試で受験し、自分の実力で難関大学への入学資格を手にした。これは、入った後を考えてのことだ。部活だけでなく、勉強してより知識を得るために大学へ行く。決して、遊ぶためではない。

 結果的に、今年の大三東(おおみさき)高校からは実音と東柊(あずましゅう)御厨萌々巴(みくりやももは)の三人が島原大学へと進む。ちなみに、東の行く獣医学部は新設で、彼も御厨と同じく奨学金制度を利用する。ただし、給付ではなく利息なしの貸与を選んだ。理由は、バイト三昧のおかげで思ったよりも金銭的な余裕ができたからだ。親に頼らず、自分のお金で大学にて学びたいと彼は考えている。


「でも、なんで英語なんだ?」

「私が一番尊敬する恩師が、元々高校の英語の先生だったの」

「じゃあ、高校の教師になるのか? それで部活の顧問とか?」

「そういうのもアリではあるんだけどね。英語と、あとイタリア語はできた方がいいらしいから」

「ん?」

「とりあえず、バイトしなきゃ。昔買ってもらったフルートの分も早く親に返したいし」

「実音はカフェの店員とか似合いそうだな」

「ううん。ネロさんのお手伝いするの」

「……は?」

「そういう約束だからね」

「……約束ってどういうことだ? ちゃんと説明してくれ」

「無償でうちの学校へ楽器を寄贈したり練習を見てくれることを条件に、私が島原大学に進学して吹奏楽部(吹部)に入って、それからネロさんが立ち上げる会社でバイトすることになってるの。待遇次第ではそのまま就職もいいかなって」

「待て待て待て待て!」

「うん?」

「どこが無償なんだよ! つまりなんだ? 実音を人質に暴君から力を貸してもらっとったってことか?」

「そういうことじゃ……あれ? そういうことなのかな? ま、私もあの人からまだ学びたいことあるし、悪い話じゃなーー」

「実音!」

「あ、はい!」

「だから言ったろ! 警戒心が足りんぞ! 相手は男やけん、ちゃんとガードしてくれ!」

「だ、大丈夫だよ! あの人、問題だらけだけどそういう面では安心していいから。だって、恋人いるもん」

「……そうなのか?」

「うん。……あ、証拠あるよ」


 実音は以前ネロから送られた画像を大護に見せた。


「……え?」

「ね! だから安心して」

「いや……え?」

「仲いいみたいだよ。私たちも負けてられないね!」

「お、おう!」


 話しているうちに教室へと帰ってきた。手を繋いでいるふたりを見て、残っていたクラスメイトたちはざわつく。その反応で優越感に浸る大護は、一旦手を離して自分の席に行った。


「じゃ、大護君。またね」

「ああ、また……は?」


 一緒に帰るつもりだった大護に対し、実音は荷物を持ってひとりで教室を出ようとしている。


「え、駅まで送らせてくれるんじゃ?」

「あれ、言ってなかったっけ? この後吹奏楽部(吹部)で集まるんだよ」

「聞いちょらん」

「……ごめん!」

「許す!」


 長かった片想いがやっと実った大護には余裕がある。実音の謝る表情さえ可愛いと思った。

 デレデレのだらしない顔で笑ってカノジョを見送り、彼は質問攻めしてくるクラスメイトたちの相手をしてあげた。








「ごっめーん! 遅くなったー!」


 最後に空き教室へと入ってきた(うみ)は、仲間たちにハイテンションで謝った。


「これで揃ったね」

「何しとったん?」

「あのね! わたしね! 東君にね! 告白したの!」

「あー。振られたのね。はいはい」

「これ終わったら慰めるけん、さっさと準備して」

「振られとらん!」

「嘘までついて可哀想に……。相当ショックだったみたい」

「だから違うってば!」

「こんなんが、本当に保育士になれるんか?」

「だよね。まさか進学するとは……」

「体力オバケだし、案外現場では重宝されるかもよ」

「知能レベルも子供と変わらんしね」

「みんな! さっきから酷いよ! あのね! わたし! 東君と付き合うんだからね!」

「わかった、わかった。そういういう妄想ね」

「ぬあぁー!!」


 なかなか信じてもらえない海は、叫んで怒りの気持ちを発散した。

 その間も、ほかの生徒たちは各自用意を進める。


「ほら、海。あれ持ってきたの?」

「……うん」

「鞄に入っとるよ。はい」

「着けてあげる。じっとしてて」

「完璧だね。みんなはOK?」

「よかよ」


 全員イベントスタイルで黄色いスカーフやハンカチを身につけ、加えて全国大会出場記念バッチも制服に取りつけた。また、手には卒業証書を持っている。


「よし、並ぼう!」

「入っとる?」

「もう少し寄って。……あ、そこで大丈夫。じゃ、タイマーセットするな。……よし!」

「急いでー!」

「もう来るかな?」

「フッチー、じっとして。これ動画じゃなかよ。」

「そなの?」

「はい、笑顔キープして!」


 フラッシュが焚かれ、元吹奏楽部員の集合写真が撮れた。

 今身につけている物も、今撮った写真も、これまでの写真も、映像や録音した演奏会の様子も、コンクールで肩に着けたリボンも、仲間からもらった手紙やプレゼントも、心の中にある思い出も、全てが大切でキラキラした宝物だ。

 これからはそれぞれが別々の道へと進む。その先には様々な困難が待ち構えているかもしれない。だが、躓いた時にはこれらの宝物が勇気を与えてくれる。頑張る日々にたまには休息を与え、それでもダメな時は仲間をまた頼れば良い。努力してきたことはすぐに形にならなくても、決して無駄ではない。人の心に何かを届けるのはとてもエネルギーを要することで簡単ではないけれど、だからこそ届いた時の感動は大きい。とりあえず小さなことからコツコツと、目の前の人を笑顔にすることを考える。そうすれば、きっと自分も笑顔になれるはず。


「写りがよくなか!」

「ベニ子が不満だって」

「私も目瞑ってる」

「私は?」

「開いとらんね」

(きょう)ちゃん、これが限界だもんね」

「もう一回撮ろ?」

「はい、ヌイヌイよろしく!」

「代わろうか?」

「よかよか」

「次、ジャンプしよ!」

「それ、タイミング難しくなかかね?」

「タイムキープはパーカッション(パーカス)に任せて!」

「ねぇ、お店の予約って何時だっけ?」

「あ、もう時間がなか! 急いで!」

「よし、撮るぞ」

「はーい!」


 上の階からは、吹奏楽部の練習する音が聴こえる。先輩から継ぎ、そして後輩へと託した部活はしっかりと続いている。

 制服での最後の集合写真は、二十三人の仲の良い様子がよく表れた一枚となった。
















「実音!」

「海」


 島原大学吹奏楽部で、一年生ながらAチームとしてコンクールメンバーになった実音は、大学生初めての大会で海と再会した。

 海はOGとして、大三東高校吹奏楽部の手伝いで会場にいる。上級生らしく下級生の緊張を和らげたり鼓舞するかつて一緒に活動した後輩たちが優秀で、彼女は特にやることがない。


「そっちはいいの?」

「もえちゃんたち、立派だもん。今回は実音がこっちに来られんけん、わたしがしっかりするつもりだったのにね。実音は? ご飯ちゃんと食べたと?」

「うん。バッチリ」

「よかったぁ。実音のこと、応援しとるけんね!」

「ありがとう。私も大三東が上手くいくことを祈ってる」

「実音」

「何?」

「一緒に全国目指そ!」

「っ! ……うん!」

「それで、一金も目指そ!」

「うん!」

「そんでもって、もっともっと心に響く、本物の面白い音楽も目指そ!」

「うん!」


 ふたりは固く握手を交わし、この日から始まる長い長いコンクールに向けて気合を入れた。

 大三東高校吹奏楽部は、今年も前へ進んでいく。

これにて、本編は以上となります。

こんなにも長い話を読んでくださり、ありがとうございました。

その後の話と番外編もありますので、よろしければそちらもご覧ください。

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