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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 作者:よっしゃあっ!
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54.エピローグ 始まりの終わり


 声が聞こえる。
 耳を澄ませなければ、聞き逃してしまいそうな程の子犬の鳴き声が。

『捨て犬か……』

 その日、俺は残業を終えてボロアパートに帰ってきた。
 駐車場に車を置くと、茂みから小さな泣き声を聞いた。
 何だろうと思い、近づくとそこには一匹の子犬が居た。
 まだ赤ん坊だったのだろう。その体は驚く程小さかった。

『……くぅーん……』

 弱々しい泣き声。
 俺はその子犬を見つけると、腕に包み込む様に抱いて落ち着かせた。

『大丈夫だ。もう泣くな』

 このボロアパートはペット禁止だ。
 無責任な事は出来ない。
 でも、見つけてしまったんだ。
 情が移ってしまうのも仕方がないだろ。

『普段はここで隠れてろよ。内緒で餌くらい持ってきてやるから』

『くぅーん……』

 不安で仕方がないと言った子犬に向けて、俺は満面の笑みを浮かべる。
 出来るだけ、安心させるように。

『大丈夫だ。俺はお前を見捨てないよ』

『うー……?』

『だから、安心していいよ。そうだ、せっかくだし名前を付けようか』

 子犬は不思議そうな顔で俺を見つめている。

『そうだな、それじゃあ―――』

 お前の名前は―――。



「……あれ?」

 目が覚める。
 どこまでも続く青い空が視界に映った。
 意識が少しずつはっきりする。

 ああ、そうだ。
 俺は確か……ハイ・オークとの戦闘が終わって気絶したんだっけか?

「なんで、あの時の夢なんか―――」

「わん!」

 鳴き声が聞こえた。
 すぐ隣で、モモがお座りの姿勢で俺を見つめていた。

「モモ……?」

「わん!」

 俺が目を覚ましたことに安心したのか、モモは凄い勢いで俺に体を擦り付けてきた。
 ぺろぺろと顔を舐めてくる。

「ごめんな、心配かけて」

 モモの傍には、アカも居た。
 ゆっくりと俺の方へ移動してくる。
 二匹とも無事の様だ。

「生き延びたんだなぁ……」

 改めてその実感が湧いてくる。
 今回は本当に、いつ死んでもおかしくなかった。
 それぐらいあのハイ・オークはヤバいモンスターだった。
 その恐ろしさを思い出し身震いする。

「あれ?そう言えば―――」

 ふと、自分の体を確かめる。
 痛みが無い。傷が……治ってる?
 服は破れたままだが、傷はもう塞がっている。
 どうしてだ?
 HP自動回復の効果か……?
 それとも『誰か』が、俺の事を治療してくれた?
 誰か……可能性として一番高いのは―――。

「イチノセさんか……?」

 メール画面を開く。
 未読のメールが80件ほどあった。
 ヒェッ……。

 ちょっと寒気がしながら、メールの内容を見てみると、そこには予想通りの内容が書かれていた。
 戦いの後、彼女はここへ駆けつけ、自分のスキルを使い俺の傷を治してくれた事。
 その後、モモをモフモフしたこと。凄く毛並みが良かった事。めっちゃ満足した事。
 俺の傷が治るのを見届けて、モモとアカにこの場を任せ立ち去った事などが書かれていた。
 立ち去った理由は単純で、人と直接話しをするのは緊張するから、だそうだ。
 ……なんだそりゃ。

 でも、助かった。
 ありがとうとメールで送っておく。
 すぐに返事は来た。

『まだお返事を頂いてませんから。死なれては困ります』

 その内容に、俺は思わず苦笑してしまう。
 ホント、この人はブレないな。

 でも、確かにそうだな。
 そろそろ返事をするべきだろう。

「モモ、アカ……」

 俺は二匹に問いかける。

「イチノセさんをパーティーに加えたいんだ。いいかな?」

 今回、彼女の助けが無ければ俺は死んでいた。
 その前も彼女がホームセンターの事を知らせてくれなければ、ハイ・オークの弱点に気付けなかった。
 もういいだろう。
 意地を張らなくても。
 彼女を信用しても、良い頃合いだろう。

「わん!」
「……(ふるふる)」

 二匹とも、いいよと言ってくれた。
 ありがとうな。

 それじゃあ、彼女をパーティーメンバーに……って、そう言えばメールでパーティー申請ってどうやるんだろ?
 調べてみるが、それらしき項目は無い。

「もしかして……直接会わなきゃいけないのか?」

 そう言えばモモの時も、アカの時も相手が見てきたことでパーティー申請が送られてきた。
 相手が人間でもそれと同じなら、一度イチノセさんと会う必要がある。
 という訳で、その旨をメールで送る。
 返事はすぐに来た。
 そこには、こう書かれていた。

『分かりました。パーティーメンバーの件、ありがとうございます
 では、一度時間を決めてお会いしましょう。その間に、私も準備を進めます』

 準備?
 一体何の準備だろうか?
 訊ねてみる。

『その……人と直接会うのはとても緊張しますので、精神を集中させる時間が欲しいのです……』

 その内容に俺は思わず笑ってしまった。
 ホント、面白い人だな。

 とりあえず、イチノセさんは一日ほど時間が欲しいと言ってきた。
 俺も同意し、メール画面を閉じる。

「さてと……」

 俺は立ち上がり、背伸びをする。
 とりあえずはショッピングモールに入るか。
 さっきの戦いで上がったスキルやレベル、魔石の確認もしたいし、中にある物だって物色したい。
 今回のハイ・オーク戦で溜めこんだ物資の殆どを使ってしまったし、また補充しないとな。
 やるべき事はいくらでもある。

「それじゃあ、行くか」

「わん!」
「……(ふるふる)」


 俺たちは生きている。
 そして、これからも生き延びてみせる。

 この―――モンスターのあふれる世界で。

 決意を新たに、俺たちは再び歩き始めた。
読んで頂きありがとうございます!
これにて『モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います』第一章終了となります。
ようやく一区切りです。
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