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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 作者:よっしゃあっ!
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52.絶望の果てに


 ……なんで、俺がこんな目に遭ってるんだろう?

 ふと、俺の頭に湧いたのはそんな疑問だった。
 必死に逃げて、死ぬほど怖い思いをして、その上でこんな化け物に出会って。
 俺、こんな状況に追い込まれるくらい酷い事をしただろうか?
 理不尽だよ、世の中って。ホントに。

「はぁ……はは、はははは……」

 不思議だよな。
 笑えない状況なのに笑えてくる。
 涙がこぼれて、膝が震えやがる。

 一歩、また一歩ハイ・オークが近づいてくる。
 その距離が、多分俺が死ぬまでに残された時間に思えた。

 不意に、ハイ・オークと目が合った。

 奴は嗤っていた。
 なんだよ、そんなに俺を殺すのが楽しいのか。
 ふざけんなよ。
 俺は死にたくなんてねぇんだよ。
 死にたくない、死にたくない、死にたくない!

「……ッ!く、来るなあああああああああああ!」

 俺はアイテムボックスから、手当たり次第に物を放った。
 重機、巨大な岩、土砂、廃車、冷蔵庫、洗濯機。ペットボトル。タバスコ球、食器、果物。なんでもだ。

「ゴァ……」

 ハイ・オークはそれを鬱陶しそうに払いのける。
 まるで虫か何かを払う様に。小石か何かを蹴飛ばす様に。
 ふざけるな。
 なんでそんな動作で、岩が砕ける?
 どうして、サッカーボールの様に廃車が飛び上がる?
 タバスコ球やペットボトルを避け、地面に落ちた果物を踏みつぶす。

 何もかもが出鱈目だった。
 あの巨体に見合ったパワー。見合わぬスピード。
 余りにも圧倒的で、格が違い過ぎて。
 気づけば、奴は俺の目の前に居た。

「ゴァ……」

 満面の笑みを浮かべるハイ・オーク。
 まるで『次はどうするのだ?』と期待するかのような眼差し。
 ヒュンッ!と何か音がした。

「ガッ……!?」

 殴り飛ばされた後で、それがヤツが手を振るった動作だと気付いた。
 それだけで、俺は何メートルも吹き飛ばされた。
 ゴロゴロと地面を転がる。

「う……あ、痛っ……」

 痛い。
 アカがクッションになってくれなければ、多分骨が折れてただろう。
 久々に感じた『痛み』。
 そう言えば、モンスターとの戦いでも、俺は恐怖こそすれ、傷を負った事は無かった。
 打撲だけでこんだけ痛いんだ。
 骨折や斬られるってどれだけ痛いんだろうな。
 は、ははは……。

「た、助けて……」

 気づけば、俺の口から出ていたのは、助けを求める声だった。

「誰か、誰でもいい……。助けてくれ……」

 ぽろぽろと涙が出ていた。
 怖い。
 身体が全然動かない。

 モンスターの恐怖。
 ハイ・オークの圧倒的な強さは、俺に絶望を刻み付けるには十分すぎた。

「誰かああああああああああ!誰か居ないのかああああああああ!このままじゃ殺される!お願いだ!誰も良い!助けてくれえええええええええええええええええ!」

 必死になって叫んだ。
 何もかもをかなぐり捨ててみっともなく叫んだ。

 返事は―――無かった。

 ただ静かだった。
 静寂が、ショッピングモールの駐車場に満ちる。
 誰も、答えてくれなかった。
 誰も―――。

「―――わん!」

「……えっ?」

 見れば、モモが俺の影から出てきた。
 俺に寄り添うように立ち、真っ直ぐにハイ・オークを見つめている。

「うーッ……!わんわん!」

 モモはハイ・オークに向かって吠える。
 何でだよ、モモ……?
 お前は、怖くないのか?

 ……いや、違う。
 よく見れば、モモの体は震えていた。
 モモも怖いんだ。
 でも、その恐怖を必死に抑えつけようとしているんだ。

「や、止めろ、モモ!もういい、お前だけでも逃げ――痛っ!?」

 近づけた俺の手を、モモは噛んだ。
 な、なにすんだ、モモ!

「……わん」

 そしてペロペロと、モモは俺の顔を舐めた。

「モモ……?」

「くぅーん……」

 そして、寂しそうに一鳴きし、正面を見た。
 何をしてるんだ、モモ?
 止めろ。
 逃げるんだ。

「うぅぅぅ……がるるるうううううううう!!」

 モモは走った。
 俺に背を向けて、ハイ・オークへ向けて走った。

「ゴァ……ァァァアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 ハイ・オークは満面の笑みで、モモを迎えた。
 モモの下から『影』が伸びる。
 それは槍の様に変化し、ハイ・オークへと迫る。

「ガアアアアアアッ!」

 でも、通じない。
 身体に刺さった槍は少しだけ皮膚を傷つけるだけに終わった。
 槍を払いのけ、ハイ・オークは地面を蹴り、モモに迫る。

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

 ビリビリと大気を震わすハイ・オークの咆哮。
 俺はアカが体を膨張させたおかげで守られた。
 『影』で防御してても、モモは吹き飛ばされた。
 地面を転がる。

「うー……」

 痛みに耐え、それでもモモは立ち上がる。
 地面を駆ける。
 止めろ、止めるんだ……。

「がるるるる!」

 ハイ・オークの腕に食らいつく。
 必死になって喰らい付こうとするが、牙が通らない。
 腕を振るうも離れないモモを、ハイ・オークはうっとおしそうに睨み付ける。
 おもむろに、もう一方の手に持った肉切り包丁を振り上げた。

 ―――止めろ。
 あんなもので斬りつけられたら、モモは―――死ぬ。

「ゴアアアアアアアアアッッ!!」

 刃がモモに迫る。

「ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 俺はモモとハイ・オークの間にブロック片をいくつも放ち、小さな『壁』を作った。
 『壁』によって、モモとハイ・オークは無理やり引き剥がされる。

 気付けば、俺は痛みをこらえ走り出していた。
 地面に落ちる寸前にモモをキャッチし、そのままゴロゴロと地面を転がる。

「馬鹿野郎!死ぬ気か、モモ!」

 腕に抱えたモモに、俺は怒鳴りつける。

「くぅーん……」

 怒鳴られているというのに、モモは嬉しそうに俺の頬を舐めた。
 まるで、助けに来る事を信じていたかのように。

 なんでだよ……。
 なんで、お前はそこまで俺を信じられる?
 なんで、お前はそこまで俺の為に頑張れる?
 怖くて震えてたのに。
 死ぬかもしれなかったのに。

「どうしてだよ、モモ……?」

「……わん!」

 とうぜんでしょ!と言わんばかりに、モモは吠えた。
 そっか、そうか……。
 モモにとっては、それが当たり前なのか。

「ああ、そうか……分かったよ」

 モモを抱きしめ、ゆっくりと地面に下す。
 立ちあがり、アイテムボックスから『オークの包丁』を取り出す。
 そして、力いっぱいハイ・オークを睨み付けた。
 覚悟を、決めた。

≪熟練度が一定に達しました≫
≪恐怖耐性がLV6から7に上がりました≫

≪熟練度が一定に達しました≫
≪恐怖耐性がLV7から8に上がりました≫

 間近に迫る死の恐怖。
 それがどうした?
 乗り越えろ。

 ここで俺が立たなきゃ、モモが死ぬ。
 俺も死ぬ。アカも死ぬ。

 ならば、足掻け。
 最後の一瞬まで、少しでも生き延びろ。

 心臓が鼓動を増し、浅い呼吸を繰り返す。

 考えろ。
 この状況を打開する方法を。

 考えろ。
 どうすれば生き延びられるかを。

 考えろ。
 どうすれば、コイツを倒せるのかを。

 見るんだ。
 ヤツを、ハイ・オークを。

 思い出すんだ。
 これまでの戦い、今までの動き。
 その全てを。

≪熟練度が一定に達しました≫
≪観察がLV7から8に上がりました≫

≪熟練度が一定に達しました≫
≪観察がLV8から9に上がりました≫

 ショッピングモールで出会い。
 そこからの逃走。
 これまでの行動。
 俺のスキル、レベル、アイテムボックス、モモ、アカ。
 自衛隊の戦い、銃、視線、ゴブリン、洗濯機、相性、シャドウ・ウルフ、レッサー・ウルフ、ミミック、ゾンビ、魔石、遠吠え、ホームセンター、火災、西野君、女子高生、イチノセさん、狙撃、高層マンション、メール、鬼ごっこ、障害物、叫び、動き、視線、違和感―――全てを、全部思い出せ。

 ドクン、ドクンと心臓が血液を送り始める。
 熱い。
 酸素を貪り、呼吸を整える。
 全身が焼けるように熱い。
 恐怖、緊張、興奮のるつぼは容赦なく俺の脳を焼く。

 考えろ……考えろッ……!

 考えて、考えて、考えて。
 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて。
 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて。

≪一定条件を満たしました≫
≪スキル『集中』を獲得しました≫

≪熟練度が一定に達しました≫
≪集中がLV1から2に上がりました≫

≪熟練度が一定に達しました≫
≪集中がLV2から3に上がりました≫

「―――ぁ」

 そして、たどり着く。
 その全ての記憶を思い出し―――不意に、ある『違和感』を思い出した。
 そうだ、そう言えば、なんでこいつは……。

「モモ……アカ……」

 俺は、真っ直ぐに目の前の敵を見つめながら、

「―――生き延びるぞ、絶対に」

「わん!」
「……ッ!(ふるふる)」

 覚悟を決めた。
 僅かに見えた希望の光。
 可能性と呼ぶには余りにもか細い勝利の糸。
 それを手繰り寄せてやる。

 さあ―――足掻け。
ツギクルバナー
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