41.地道にレベル上げ
モモとアカを連れて再び街を探索する。
と言っても、正確にはアカは歩いていない。
俺が『着ている』状態だ。
「ホントに違和感ないなー……」
アカが『擬態したジャケット』を触る。
質感から着心地まで普通の服となんら変わらない。
むしろ普通の服より着心地がいい位だ。
重さはまあ、普通の服よりかは重いが、ステータスが上がった今はなんも苦にならない程度だ。
凄いスキルだな。
「……(ふるふる)」
「あ、すまん、アカ。くすぐったかったか?」
触って着心地を確かめているとアカが震えた。
どうやらあんまり触りすぎるのはNGらしい。
着るのはオッケーなのに。駄目の度合いが分からん……。
アカの擬態スキルについていろいろ確認したのだが、どうやらアカは『自分が食べた物』に擬態できる様だ。
試しにアイテムボックスにしまってあった食器やゴミ、服なんかを喰わせてみたのだが、どれも問題なく擬態する事が出来た。
ただあまり小さすぎる物や大きすぎる物には擬態できない。
ある程度、本来の自分のサイズに近くなければいけない様だ。
なので俺が着る『服』に擬態して貰ったという訳だ。
本来のアカの移動スピードは遅すぎるからね。
これなら背負うよりも楽だし、擬態した状態のアカは『索敵』や『敵意感知』に引っかからないので、俺のスキル的にも問題ない。
なにより、アカが擬態した服は丈夫で防弾チョッキの様な役割も果たしてくれる。
中々切れない上に、衝撃にも強いのだ。
性能はまだ少し試した程度だが、多分普通の銃弾位なら貫通できないんじゃないかな?
まあ『衝撃』そのものは伝わるっぽいけど。
それでも大助かりだ。
アカのおかげで俺の防御は飛躍的に上がった。
モモの判断は正しかったな。
仲間にしてよかった。
ちなみに擬態できるのは、あくまで道具や服と言った『物』だけだ。
モモの様な他の生物の姿になる事は出来ないらしい。
それでも十分凄いけどね。
レベルが上がれば武器とかにも擬態できるのだろうか。
ちょっと楽しみである。
さて手ごろな物資と、モンスターを探すとするか……。
アカの擬態のスキルもじっくり確認したいが、レベル上げも大事だ。
実戦の中でもアカの擬態の性能は確認できるだろうし。
お、『索敵』に反応があった。
この感じは……ゴブリンか。
数も手ごろだし、狩るとしよう。
ゴブリン達は公園でくつろいでいるところだった。
全部で七匹か……。ホブ・ゴブリンは居ないようだ。
モモを『影』に忍ばせたまま、ギリギリのところまで近づき、効果範囲に入ったところで、モモの『影』で一気に拘束する。
「ギ……ギィィ?」「ギギ……ギ!?」
「ギギャ……」「グギィィ……!」
ゴブリン達は必死に抜け出そうとするが叶わない。
モモもレベルが上がった影響か、『影』のスキルの性能も上っていた。
今まではこの数のゴブリンを拘束する事なんて出来なかったのだが、今は楽に拘束できるうえ、締め付ける力も上がっている。
身動きの取れないゴブリン達へ接近し、包丁で止めを刺す。
アイテムボックスで圧殺しても良いが、今回は包丁だ。
それも出来るだけ一撃で仕留められるように狙いを定める。
なんとなくだが、ゴブリン達の『急所』は分かる。
これは『急所突き』の効果だろう。
こうしてスキルを使い続ければ、『剣術』や『急所突き』の熟練度も上がる。
アイテムボックスがカンストした今、少しでも他のスキルのレベルを上げたいからね。
SPの節約にもなるし。
≪経験値を獲得しました≫
ゴブリン七匹を倒し、魔石を回収する。
モモとアカにそれぞれ魔石を与え、直ぐに移動する。
ちなみにアカは魔石を食べる際には、『擬態』を解かなければいけない様だ。
食べさせるときは、周囲に人や魔物が居ない事を念入りに確認する。
スライムの体内で魔石が溶けてゆく様は、何度見てもシュールだと思った。
その後も、確実に狩れそうなモンスターを探し狩ってゆく。
安全第一だ。
下手に冒険する必要などない。
「まだ行けるんじゃないか?」、「もう少しなら……」そう言う気持ちを持つ事が、命取りになると身をもって知っているからね。
生き延びる事が最優先だ。
その後、ゾンビやゴブリンを数体倒したところでレベルが上がった。
よしっ。心の中でガッツポーズを決める。
ポイントの割り振りも決まっている為、サクサク済ませるとしよう。
JPの方は、『暗殺者』をLV7へ上げる。
残り3ポイントは温存だ。
スキルの方は『観察』をLV6へ、『危機感知』をLV6へ、『敵意感知』をLV5にあげる。
残り1ポイントは温存する。
やっぱりレベルが高くなると、一つ一つのスキルに使うポイントが多くなってくるな。
なんとか実戦で熟練度を上げて少しでもポイントを節約できるようにしよう。
そう言えば、ショッピングセンターからはだいぶ離れた場所まで来たな。
距離的には、ホームセンターが丁度中間に位置するくらいの場所か。
まあ、まだ安心はできないけどね。
『危機感知』が反応を示さないとはいえ、この周囲にあのハイ・オーククラスのモンスターが居ないとも限らない。
ミミックの様に擬態していれば、気付かない可能性もあるんだし。
「そろそろ次の目的地を決めておいた方がいいかな……」
隣町か、都心部か、はたまた山の中にでも籠るか……。
どれも、ここより安全という保証はないが、確かめない事にはそれも分からない。
一番近いのは都心部の方だけど、そこに向かうにはあのショッピングモールの周辺を通らなきゃいけないんだよな。
それだけは避けたい。
となると、隣町か山か。
でも、可能な限りこの辺でレベルを上げておきたい。
移動した先にあのハイ・オークよりも強いモンスターが居ないなんて保障はどこにもない訳だし。
そう言う意味では、危なげなくモンスターを狩れるようになった現在は、ある意味安定した状態と言えなくもないか。
ともかく、今日一日はレベル上げだな。
「よし、もうひと踏ん張りするか」
「わん!」
「……(ふるふる)」
再び手に入れた魔石をモモとアカに渡す。
二匹とも喜んで魔石を受け取った。
だが、魔石を飲み込んだ瞬間、モモの様子が変わった。
「……ん?どうしたんだ、モモ?」
「……ぅぅぅ」
モモは俺が話しかけても反応せず、呻りながら震えている。
な、どうしたんだ、モモ?
俺が近づくと、モモの足元から『影』が噴き出した。
「ッ!?」
それはマユの様に変化し、モモの体を覆い尽くす。
な、なんだ……モモに何が起こっている?
魔石を食べた直後……。
考えられるのは―――まさかッ!
俺はステータスプレートを開き、一番下の項目を確認する。
「やっぱり……」
そこには『モモ 柴犬LV10』と表示されていた。
ならば、この現象は……。
じっと俺とアカは影に包まれたモモを見つめる。
数秒の後に影のマユが消えた。
そこから現れたモモの姿は―――。