11.ケモノ萌えと犬萌えは全くの別物だと、昔の偉い人は言った
えーっと、これどうすればいいんだろう?
とりあえず、頭の中でイエスと念じてみる。
≪申請を受理しました。モモが貴方のパーティーに加入しました≫
どうやら、これでモモが仲間になったらしい。
うん。なんだか、色々と突っ込む部分が多すぎて、上手く考えがまとまらん。
ステータス画面を見てみると、一番下に新たな項目が増えていた。
『パーティーメンバー』という項目だ。
そこにはモモの名前が記されていた。
モモ
柴犬 LV2
成程、パーティーを組めば、名前とレベルが表示されるようになるらしい。
柴犬って……。
いや、もしかして『種族』か?
犬の品種って可能性もあるけど、ゲームっぽいシステムだし、『種族』の方がしっくりきそうだ。
これが仮に人間だったら、どう表示されるんだろ?
職業とか?うーん、実際に他の人に会ってみないと、分からんよなー。
ていうか、ちょっと待て。
LV2……だと?
「……なあ、モモ。お前、もしかしてモンスターを倒したのか?」
「わん!」
モモは元気よく返事をする。
イエスと言う事か?
え、うそ、マジで?
モモは尻尾を振りながら、どうしたのー?と首を傾げてる。
なんて可愛い。
こんなかわいいワンちゃんが、モンスターなんて倒せる筈ないじゃないか。
そうだよ、きっと何かの間違いだよ。
あ、そうだ。確かめる方法があるじゃんか。
「なあ、モモ。お前、こういう石を見かけなかったか?」
俺はアイテムボックスから、青色の小石を取り出す。
ゴブリンを倒した証拠であるドロップアイテムだ。
というか、これ何に使うんだろう?
ちなみに、これを収納した時、これの名前が判明した。
アイテムボックスのリストに、「ゴブリンの魔石(極小)」と表示されていたのだ。
魔石……異世界の定番だよな。
冒険者ギルドに持って行って換金したり、強い武器を作る素材になったりするのがお約束だ。でも現実にはギルドなんて存在しない。在るのは労働基準法を無視したブラック企業(社畜製造機)だけだ。
ん?
俺がゴブリンの魔石(極小)を出した瞬間、モモがめっちゃ尻尾を振った。
「わんわん!」
ちょうだい!それ、ちょうだい!と言ってる様だった。
え?欲しいの?
「わふっ!」
欲しいらしい。
というか、俺の言ってる事が分かるのか?
魔石を持った手を右へ動かすと、モモの視線も右へ。
左へ動かすと、モモの視線も左へ。
ぐるぐる回すと、モモの顔もぐるぐる回る。
「わふん……」
あ、目を回しちゃった。……可愛い。
ごめんごめん。
とりあえず俺はモモの目の前に魔石を置いた。
スンスンとモモは匂いを嗅ぎ、俺と小石を交互に見つめる。
俺は頷く。
でもこんなの貰ってどうすんだ?
そう思った瞬間、モモは小石を口にくわえ、そしてボリボリと食べた。
えぇ!?食べた!?
「ちょっ、モモ!駄目だって、そんなの食べちゃ!ぺっしなさい。ぺっ」
だが時すでに遅し。
ゴリゴリ、ごっくんと。
モモは満足げに魔石を平らげた。
え、えぇー……。
モモはキラキラした瞳で俺を見つめてくる。
もっとないの?もっとたべたいよー。
そんな風に言ってるように見える。
「……わふん?」
くれないの?だめなの?
うぐ……ぐおおおお。
止めてくれ、その視線を止めてくれ。
某CMのチワワを思い出す。 どうする、俺。
結局、モモの眼差しに負け、俺はアイテムボックスからゴブリンの魔石を取り出した。
モモはすっげー喜んで食べた。
「マジか……これって食えるのか?」
試しに俺も口に含んでみる。
硬い。ただの石だ。それに苦い。クソ不味い。
とてもじゃないが、食えたもんじゃない。
何でモモは食えるんだ?
まあ、いいか。喜んでるんだし。
結局、俺は倒したゴブリンの魔石を全てモモにあげた。
「あ、そう言えば」
俺はアイテムボックスのリストを見る。
相当な量を収納したから、『それ』を探すのだけでもちょっと苦労する。
「あった……」
最初に俺がひき殺した大きな犬。
その犬が落とした紫色の小石。
それも名称がきちんと記載されていた。
『シャドウ・ウルフの魔石(小)×1個』
どうやらあの大きな犬はシャドウ・ウルフと言う名前だったようだ。
直訳すると影狼か。なんてカッコいい名前だ、こんちくしょう。
つーか、この収納リスト便利だな。
収納した物の『名前』を正確に記載してくれる。
これは色々と応用がきくかもしれない。
シャドウ・ウルフの魔石を取り出し、それもモモの前に置く。
すると、モモは今までにない位尻尾を振って、表情をキラキラさせた。
めっちゃ嬉しそうだ。
いいの?これたべていいの? と視線が訴えてくる。可愛い。
俺が食べていいよと言うと、勢いよく食べる。
それにしても、お預けされた犬が餌を食べる瞬間って、どうしてこうも胸がときめくんだろうか?きゅんきゅんする。
俺だけ?いや、犬好きならきっと分かってくれる筈。
モモが食べる様子を、俺はのんびり眺める。
「ん?」
シャドウ・ウルフの魔石を食べ終わった後、モモは体をピクンとさせた。
そして、何か自分の体を確かめる様に、その場でクルクルと回る。
「どうした、モモ?」
もしかして、やっぱり食べさせちゃいけない物だったか?
心配そうに俺が見つめると、モモは俺の影をぽんぽんと叩いた後、元気よく体を擦り付けてきた。
「わん!」
大丈夫、心配ないわよ、ありがとうと、言っているようだった。
心なしか、先程よりも声に張りがある気がする。
可愛い。しばらくモフモフする。荒れた心が癒された。
「さて、モモ。俺はこれから近所のコンビニに向かう。付いてくるか?」
「わん!」
モモは勢いよく返事をした。
うーん、ホントは俺のスキルやジョブ、それにモンスターの危険性を考えれば、一人で行動した方が良い筈なんだけどな……。モモの安全から考えても。
でも……なぜか俺はモモを連れて行った方が良いと感じてしまった。
人間は理性で考え、感情で動く生き物だと誰かが言っていた。
こういう時は直感に従った方が良い。
そして、数分後―――俺はその直感が正しかったのだと確信する。
モモは、俺の予想よりも遥かに凄かったのだ。