最終章 君と描いた物語 (2)
約束の日から一週間が経とうとしているこの日、僕はまた、故郷の町に戻ってきている。五月十八日、今日は里奈の命日だ。
前日、一度実家に戻って、両親と顔を合わせると、二人は驚いた顔をしていた。当然だ。僕はずっとこの日を避けていたのだから。
「今日は里奈ちゃんの命日だねぇ。早いもんだ、もう六年も経つんだから」
母親が言った。僕も頷く。僕がこの日を避けていたことを責められることは無かった。一晩この家に泊まり、久しぶりに母親の手料理を昼食に食べ、僕は里奈の家へ向かった。
「ご無沙汰してます」
「あら、正志君、久しぶり」
まるで夏休み明けに久々に会ったかのような調子で、里奈の母親が僕を出迎えてくれた。彼女も僕を責める気はなさそうだった。聞くと、墓参りはもう朝に済ませたらしい。
家に上がらせてもらい、僕は彼女と里奈の話をした。僕が里奈を思い出すものを無意識に避けていた、と話すと、彼女は寂しそうに笑った。
「あの子がいなくなってからは私もそうだった。何かを見る度に里奈を思い出してしまってね。でも、もう大丈夫。いつまでもこうしていたら里奈の浮かばれないとおもってね。正志君もそう?」
僕は「ええ」とだけ答えた。里奈の母は、娘とそっくりな微笑みをみせた。
「でも、里奈も正志君が来てくれたら喜ぶと思うわ。あなたは、里奈と一番近い人だったから」
「そうですね……」
その後少し話してから、僕は暇を告げた。僕も里奈の墓へ向かわなければならない。
「お邪魔しました」
「どういたしまして。あなたが墓参りしてくれるなら、あの子もきっと喜ぶわ」
墓へ行く途中に花屋で花を買った。墓に供えるためだ。空は快晴。澄明な空の下、僕は徒歩で墓地へ向かう。
お盆でもないので、墓地あまり人がいなかった。周りを森に囲まれた小さな墓場だ。僕は里奈の墓を見つけ、今朝彼女の両親が置いたであろう花の入った花瓶の横に、花束を添えた。
「里奈、僕はまた絵を描くことにしたよ」
物言わぬ大きな石にそう言って、僕は実家から持ってきたアクリル絵の具のセットを墓の前に持ち上げた。
里奈はどこか遠くで、僕のことは見ているだろうか。そうだと良いと思う。




