第八章 約束の日 (4)
「これは……」
僕にとって予想外の中身だった。心臓が高鳴るのが分かる。見覚えのある画用紙に、その上に描かれた桜の絵。里奈が入れたのは、僕が描いたあの絵だった。後ろを見る。ちゃんと、「ほむらまさし」とひらがなの僕のサインが書いてある。彼女が失くしたくなかったもの、それは、僕の作品第一号だった。
胸が急に苦しくなる。里奈は言っていた。タイムカプセルに入れるのは、本当に大切な失くしたくないものなんだと。こんな画用紙一枚を、彼女はそんなにも大事にしてくれたのか。
もう一度里奈に会いたい。会って、話をしたい。始めて会った日から、今日までの。僕は赤いスーパーボールを握りしめた。死んだ者には過去しかない、そんな死神の言葉が思い出される。僕は里奈の魂を救うためにここに来た。だが、本当に彼女が救われたのか、分からない。それだけでも知りたかった。
僕は立ち上がった。今にも涙が溢れてきそうだった。もう一度、過去に戻りたい。でもきっと、それは許されない。何よりも、里奈が望まないだろう。彼女はいつも僕のことを考えていてくれた。僕はそれに甘えてばかりだった。今も僕は、弱いままだ。
涼しい風が一瞬通り抜けた。あの夜、死神と出会ったときと似ていた。また死神が現れたのか、一瞬、そんな考えが浮かぶ。だが、彼女の姿は無かった。
僕は袋を缶の中に戻した。そして、桜の木を見上げ、呟く。
「さよなら、里奈」
これでもう終わりだと思っていた。僕の記憶の旅も、理奈との約束も。
だけど、今日という日はまだ、続いていた。
「ううん、まだよ」
後ろから声がした。鈴を転がすような、女性の声。そして、もう二度と聞くことはないと思っていた声。何よりも、誰よりも聞きたかった声。
「里奈……?」
僕は振り返った。そこには、かつてと変わらない笑顔で里奈が立っていた。
もう戻れないと思ったあの日に、僕は戻ってきていた。




