第七章 桜の舞うこの場所に (6)
次の日、僕たちは昼前にはあの神社にいた。桜の花はまだ咲いていたが、散った花びらにより地面の上に薄紅色の絨毯ができている。
僕たちはその上を歩いて、桜の木の前で止まった。見上げると、木漏れ日が顔に当たる。この木は、僕らが大人になったあとも残っているのだろうか。そうでなければ、僕たちはタイムカプセルを見つけられないかもしれない。
僕が持ってきたのが、色鉛筆だった。二年前に初めて買ってもらったものだ。もう大分短くなっていると、母親がつい最近新しいものを買ってくれた。だが、やはり愛着があるのはこの古い色鉛筆だった。もう使いにくいからと、簡単に捨てるのは嫌だった。だから僕は今日、これをタイムカプセルに埋めることにしたのだ。
埋めるものは互いに秘密にする予定だったので、僕は色鉛筆を緑色の袋に入れていた。里奈もピンク色の袋を持っている。互いの中身を知るのは未来のお楽しみだ。
カプセルとなるのは、里奈の持ってきた空のクッキー缶だった。浅い円柱の形をしており、金属でできている。外側はクリーム色にクッキーの絵がプリントされているが、中は金色に光っている。
「じゃあ正志、このボールを入れて」
里奈から赤いスーパーボールを渡された。僕はそれを一度見てから、カプセルの中に入れる。小さな音がして、ボールは缶の中を転がった。そのあと、緑の袋を入れた。ちょうど箱の半分ほどを占領する。
里奈はそれを確認すると、僕と同じように持ってきた色つきの袋を入れた。当然、僕には中身は分からない。里奈は少し躊躇してから、蓋をする。
「これで、私たちがこれと再会するのは二十年後だね」
里奈はそう呟くように言った。
二十年後、僕らは二十五歳になっている。どんな大人になっているだろう。夢を叶えているだろうか。今の僕が入れたものを見て何を思うだろうか。
「じゃあ、穴を掘ろうか」
僕はそう言って、持ってきた片手用のシャベルで穴を掘る。なるべく深く、未来の僕たち以外には誰にも見つからないように。
「そろそろいいかな」
三十センチほど掘れたところで、僕は手を止めた。今の僕から見れば、それはかなりの深さに思える。きっとこの穴が僕らの秘密を守ってくれるだろう。
里奈がクッキーの缶を持って、その穴を覗き見た。
「じゃあ、入れるよ」
里奈がタイムカプセルを穴に収めた。僕はそれを確認して、その上に掘り出した土をかけ直していく。みるみる穴はふさがっていき、もとの地面の高さに戻った。地面をならし、掘った痕跡を隠す。これで、二十年後僕たちがここに来るまで、きっと誰にも知られないはずだ。
僕はもう一度だけカプセルの埋められた地面を見てから、山道から神社に続く石段まで行き、その一番上の段に座った。ここからは僕の住む町を一望できる。春の日差しがまぶしい。
里奈も僕の隣に来て座った。
里奈が僕の方に小指を差し出してくる。指きりげんまんの合図だ。
「今日は五月十一日。二十年後のこの日、二人でここで会おうね、約束だよ」
「うん、二十五歳か……」
僕は二十年後の自分を想像しようとしたが、それは上手くいかなかった。大人になった僕たちは、どんな顔をしてここにやって来るのだろう。
「ええ、どんなことがあっても忘れないこと!」
「わかってるよ」
僕と里奈は指きりをした。二十年後の二人に約束を託して。
春風がひとつ、僕らの間を通り抜けた。




