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あなたに微笑む  作者: 朝里 樹
第六章 紅葉の旅
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第六章 紅葉の旅 (5)


「まあ、楽しかったな!」

 山道を下りながら、大隅が笑った。釣られて僕も笑う。結局宝は見つからなかったが、終わってみれば愉快な体験だった。みんな一緒になって穴を掘り続ける経験など、後にも先にもないだろう。

「調子良いわね~。こんな泥だらけになっちゃったわ。早くシャワー浴びたい」

 秋野が文句を言う。だが、彼女も楽しそうな顔をしていた。続けて中津川が言う。

「宝なんてそうそうあるもんじゃないってことだね。あったとしてもこんな人がいるところに埋まってれば、もうとっくに見つかっちゃてるよ」

 僕たちは夕日の当たる坂道を歩いていた。木々を見上げると、赤い陽の光に当てられた紅葉が、まるで燃えているように赤々と輝いている。それらはまるで、敷き詰められた宝石のようだ。

「タイムカプセルか……」

 里奈が呟いた。そして、僕の服の袖を掴んで、軽く後ろに引いた。僕と里奈が、三人の少し後ろに下がる。そして、里奈は僕にだけ聞こえるような小さな声で、囁く。

「ねえ正くん、覚えてる?」

「ん、何を?」

「ほら、昔、幼稚園のころ、あの神社で二人で埋めたじゃない。忘れちゃった?」

 紅葉も葉の一枚が、僕ら間に舞い降りた。里奈はそれをうまく空中で掬(すく)って、眺めながら僕の返事を待つ。

「あ~なんかそんなことあった気がする」

「本当?あの場所はまだ、秘密だからね」

 里奈が紅葉を離した。たった一枚の葉は、地面に落ちて敷き詰められた赤い落ち葉の絨毯と一緒になった。

「わかってるよ」

 二人でささやくように会話する。僕と里奈には、幼稚園のころに知った秘密の神社がある。その場所はまだ、大隅も中津川の秋野も知らない。

「二人ともなに話してんの?」

 秋野がこちらに気付いた。里奈が慌てて返事をする。

「ううん、何でもない」

 秋野は「ふ~ん」とだけ言って、それ以上は何も言及しなかった。


 山道を下り終わったころには、もう黄昏時だった。青い夕闇に月といくつかの星が輝いている。僕たちは月光に照らされながら、公園まで歩いた。置いておいた僕たちの自転車は、五台ともそこにあった。そろそろお別れの時間だ。

「帰るか、あんまり遅くなると母ちゃんに怒られちまうからな」

 大隅はまた豪快に笑った。そして、自分の自転車に乗りこむ。

「私も、早くお風呂入りたいし」

「僕も塾の予習しなきゃ」

 秋野と中津川もそれぞれの自転車に乗りこんだ。この三人の家は、僕と里奈の家から反対方向にある。

「またね」

「ばいばい」

 僕と里奈は三人に手を振って、小さくなる後ろ姿を見つめていた。明後日には学校で会えるのに、何か寂しい感じがする。これはいつもの感覚だが、まだ慣れない。多分慣れることのない感覚のひとつなのだろう。

「僕たちも帰ろうか」

「そうね」

 僕と里奈も自転車に乗り込んで、走り始める。


 黄昏(たそがれ)の風は涼しいというより、肌寒かった。坂に差し掛かると、僕たちは自転車を降りた。今度は上り坂だ。

 自転車を押しながら並んで歩いているとき、里奈が口を開いた。

「正くん、さっきの話だけどさ」

「あのタイムカプセルの?」

「そう、あの桜の木の下の。あの約束は、忘れて欲しくないの。大人になったとき私だけが覚えていたりしたら寂しいじゃない」

「大丈夫だよ、絶対忘れないから」

 里奈が僕の顔を覗き込む。

「本当?約束してね」

「また約束?」

「いいの!はい指きりげんまん」

 里奈が小指を差し出した。僕は一瞬戸惑ってから、同じように右手の小指を出す。

「これで安心した?」

「まあ、少しね」

 里奈はそう言ってはにかんだ。ちょうど、坂道の終わりに差し掛かる。僕たちは再び自転車にまたがる。

「私たちも大人になるんだね」

 不意に里奈がそんなことを言った。幼稚園の頃の約束を思い出したからだろうか。

「そうだね。でもきっと楽しいよ、大人も」

「仕事したり、結婚したりするんだろうね。そうなってももみんない一緒にいれるかな」

「大丈夫だよ、僕たちだもん」

「そうよね、私たちだもんね」

 根拠のない確信を確かめ合いながら、別れ道まで来て、僕たちは一度自転車を止めた。お互いに別れの挨拶をして、別々の道を進む。

「大人かぁ……」

 ペダルを回しながら一人呟いた。だんだんと姿を現してきた星空を見上げて、自分の未来に思いを馳せる。

 未来の僕は、どんな大人になっているんだろうか。

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