第六章 紅葉の旅 (4)
山を登るのには、思ったよりも時間がかからなかった。さすがに一時間とはいかなかったが、一時間半ほどで僕らは頂付近に到着していた。紅葉に染められた木々の間を歩くのは、どこか幻想的で、不思議な感じがした。
少し疲れを感じ始めたとき、目的地はあっさりと見つかった。大隅が言っていた通りのこげ茶色の地面に腰を下ろした。本当にここら半径十メートルほど、草木が生えていない。何か薬でも巻かれているのだろうか。植物を枯れさせる薬があるらしいと、小学校の授業で聞いたことがあった。
「そうそう、これが発掘グッズだ」
大隅がリュックから小さなシャベルを取り出して地面に並べた。数えてみると、ちょうど五つある。どうやら僕たちにひとつずつ割り当てられているようだ。
僕はそのひとつを手にとって、眺めてみた。金属でできているため、見た目よりも少し重い。疲れで薄まってきた情熱がまた沸き上がってきた。
大隅は既に地面にスコップの先を突き刺し、土を掘り返し掘り始めていた。僕も立ち上がり、柔らかそうな部分を探してスコップを差し込む。地面は僕が手を動かす度にその穴の深さを増していく。
何が埋まっているんだろうと、証拠のないわくわくが体を駆け巡る。この感覚は久しぶりだった。まるで楽しみにしていた映画を、映画館で見ることができたときのような興奮だ。この先にどんな物語が待っているのか予想するときの思いに似ていた。
しかし、その思いとは裏腹に、宝は僕らの前にまったく姿を現さなかった。何時間探していただろうか、日が傾き始めたとき、僕はついにスコップを放りだした。繰り返し同じ動きで土を掘り返していたせいで腕が痛い。
里奈は最初のうちは一緒に掘っていたのだが、しばらくすると木陰で自宅から持ってきたらしい本を読んでいた。里奈はいつも本を持ち歩いている。疲れるほど体力を使うほどの魅力を穴掘りに見出せなかったらしい。
秋野は先ほどの態度とは裏腹にまだ穴を掘っている。どうやら大隅にどっちが先に掘り返すか勝負を申し込まれたらしい。勝気な彼女のことだ、大隅に負けるのは絶対に嫌なのだろう。その大隅も、まだ穴ぼこだらけの地面の中からまだ掘られていないところを探しては、スコップを突き刺している。
中津川はというと、穴を掘り返しているうちにみつけたミミズやらオケラやらに夢中になって、当初の目的を忘れてしまっているようだった。虫かごにそれらを入れて、観察している。
僕は地べたに足を放りだして座ったまま秋の空を仰ぎ見た。風に、赤や黄色の様々な葉が舞っている。その向こうにはオレンジに染まりかけた空が見える。ひんやりとした風が気持ちいい。別に発見をしたわけでもないのに、そんな空を見ているとすがすがしい気分になった。ついうとうととして、そのまま寝てしまいそうになる。
その時、大隅の大声ではっと目が覚めた。
「あったぞ!ここだ!」
大隅を除いた四人が一斉に駆け寄る。大隅の前の穴を見ると、三十センチほどの深さに、確かに何か固いものが覗いている。石ではない、金属の何かだ。土で汚れているが、かすかに光沢がある。
中津川がそれを見ながら言った。
「何だろう?入れ物かな?」
「掘っていようぜ」
大隅がさらに掘り進める。僕たちも協力して、金属の周りの土をどかしていく。すぐに、その形が見えてきた。四角い箱のような形をしている。中津川の言うとおり、何かの入れ物だろうか。正方形で、幅四十センチほどの大きさがある。
「よし、取り出そうぜ」
箱の周りの土があらかた無くなったあとで、僕と大隅が箱の両側を持ち、穴から取り出した。結構な重さがあり、二人でも持ち上げるのは大変だった。だが、その分期待も高まる。いったいこの中には、何が入っているのだろう。
「けっこうでかいわね」
秋野が感心したように呟いた。
「開けてみるか!さて、何が出るかな?」
大隅がそう言って、金属の箱のふたに手を掛ける。鍵はかかっていないようで、ふたは簡単に持ちあがった。僕はごくりと生唾を飲み込んで、その中身を覗きこむ。だが、出てきたものは僕らの予想を完全の裏切るものだった。
「タイム、カプセル?」
僕が呟いた。箱の中で最初に夕日を浴びたのは、「六年三組 タイムカプセル」とマジックで書かれた紙だった。その紙の下に、おもちゃや本、服など、かつて六年三組の生徒だった者が入れたのであろう様々なものが、ビニールで包まれて入っている。
僕は拍子抜けして、その場に座り込んだ。他の面々もそれぞれ落胆の表情を浮かべている。タイムカプセルを埋めたという噂がどこかで改変され、尾ひれがついて宝が埋まっているという話に発展したのだろうか。
どのくらい昔かは分からないが、その頃に小学六年生だった人々が卒業時にクラスで埋めたのだろう。土の下にその時間を閉じ込めたのだ。
そのままタイムカプセルは、存在を忘れられたのか、それともまだ掘り返す時になっていないのか、ここにずっと埋まっていた。
とにかく、僕たちの冒険はかつての小学生が埋めた思い出を掘り起こしただけで終わった。
秋野がため息をついた。
「やっぱこんなもんよね、噂なんて」
「くそ~、見つけた時はやったって思ったのにな~!」
大隅が悔しそうに言った。
その時、里奈が立ち上がってふたを手に取り、それを箱にはめ直した。からん、と金属と金属が当たる小さな音が鳴る。
「でも、これ埋め直さなきゃ。これを埋めた人たちはこのタイムカプセルを探しにくるはずだから」
僕も立ち上がり、箱に近づいた。確かに、いつかこれを掘り返すときが来たとき、タイムカプセルが無ければ気の毒だ。
僕が箱を持ち上げようとすると、大隅と中津川が来て手伝ってくれた。三人で箱を元の穴に戻す。そして、上から土をかけ直した。金属の箱の姿が除々に消えていく。再び誰かの思い出は、地面の下に戻された。
このままあとどれくらいの時間、その思い出を包みこんでいくのだろうか。ここに入っているものたちの、かつての主人が迎えに来るまで。




