第六章 紅葉の旅 (3)
公園に着いたとき、そこにいたのは秋野と中津川の二人だった。二人はブランコに乗っていたが、僕と里奈を見つけるとそれから降りて、こっちに走り寄ってきた。
「大隅君は?」
彼の姿が見えないのに気がついた様子で、里奈が言った。秋野はそれに対し、ただ首を横に振るだけだ。どうやらまだ来ていないらしい。運動大好きで、いつもなら一番早く来ている男なのに、どうしたのだろう。
それから十分ほどは四人で遊んでいた。一人来ないと公園から動くことはできない。それにしても遅い。彼に何かあったのだろうか。明確な理由はなく、悪い方向に考えが向かってしまう。病気とか、事故とか。大方、実は寝坊か何かで、来たときには彼が謝れば笑って済ませられるような理由なのだろうが。
ブランコの前の手すりに里奈、秋野と腰かけ、僕は大隅のことを考えながら呟いた。
「もしかして病気かな」
すかさず秋野が反応する。
「それはないわよ。あの体力バカに限って。ねえ里奈ちゃん」
「でも、いつもみんなより三十分は早く来てるのに、心配」
そのとき、一人僕たちから離れ、バッタを追いかけていた中津川が声を上げた。
「あ、来たよ」
僕は急いで彼の指さす方向を見る。確かに、見慣れた自転車に乗った、見慣れた人物がこっちに向かってくる。やはり僕らの心配は取り越し苦労だったようだ。
「ごめんごめん、遅れちまった」
大隅が自転車を降り、こっちに歩きながら言った。何か大きなリュックを背中に担いでいる。若干息を切らしているところを見ると、かなり急いできたのだろう。
「ほんとよ。なんかあったの?」
秋野が大隅に向かってそう言うと、大隅が「ふっふっふ」と意味ありげに笑った。これは彼がなにか面白い発見をしてきたときの反応だ。
「何かあったんだね?」
僕が尋ねる。
「おうともよ。実はさっき、近所の中学生の会話を聞いちまってさ、あの裏山の山頂に宝物が埋まってるって言うんだよ」
「宝物?」
中津川が興味をひかれたようで、素手で取ったショウリョウバッタを逃がして、こっちに歩いてきた。大隅は大げさに頷いて見せたあと、ラジオか何かで驚きの体験談を話す人のような調子で、話を続ける。
「そいつらが言うことには、裏山の山頂には一部、すっかり草や木が生えていない部分があるらしい。そこのどこかに、大きな箱に入った宝が埋まってるんだって!」
「なんか嘘くさいわね」
秋野が言った。だが、大隅はそんな発言は気にもとめていない様子だ。どうやら、行く気らしい。どこかに埋められた宝物を探すのだ。これは、僕の興味をそそられた。まるで小さな頃に里奈に勧められて読んだ冒険小説のようだ。
「そんで俺は急いで家に帰り、発掘道具をそろえてきたために、遅れちまったわけだ。行くだろ?埋蔵金でも見つかれば俺たち大金持ちだぜ」
大隅はにやりと笑った。隠された何かを見つけるという冒険は、男心をくすぐるものだ。中津川は目を輝かせている。僕も、山に登り、地面を発掘して、何か大発見をするというシチュエーションを勝手に頭の中で思い描いて、すっかり興奮していた。
だが、女性陣はそうでもなかったようで、秋野は怪訝そうな表情を、里奈は不安そうな表情をそれぞれ浮かべている。
「そんなの噂に決まってるじゃない」
「夢がないな~、秋野は。川合はどう思う?」
大隅に尋ねられ、理奈は首をかしげる。
「本で読んだ物語みたいだけど、でも子供五人で山のてっぺんまで行くのは危ないよ」
やはり、二人とも乗り気ではない。フィクションと現実は違う、とでも言いたげだ。女子の方が大人びているということだろうか。だが、僕らはそんなことでこの冒険をないものにする気は無かった。
二人を説き伏せるのはかなりの重労働だった。僕も里奈もよく神社まで行くが、普段は中腹までしか行かない。心配性の里奈のことだ、万が一の遭難などを考えているのだろう。そこは、親とよく山へ行くという大隅と、昆虫採集に出掛けるため裏山をよく知っている中津川に頼ろうということで、一応の決着を見た。
一方、宝探しそのものにあまり興味を持っていない秋野は、里奈が心配なのでとりあえず付いてくるということだった。僕ら三人が宝探しに夢中になって、里奈をおいてきぼりにするのを危惧したのだろう。
僕たちは自転車を公園においたまま、裏山に向かって歩き出した。さすがに自転車で山を登るのは困難だからだ。裏山は学校のすぐ裏にあり、公園から少し歩けば到着する。ちなみに、このルートとは別に、商店街を通ってくる道もある。こちらは僕と里奈が普段使う道だ。他の小学生はあまり商店街側を使わないため、みんなの知らないところを見つけられるのが魅力だった。
麓まで来て、僕は山を見上げた。赤、黄色の木々の葉に染まった山が僕らを見下ろしてくる。あまり大きくはない山だが、小学生の僕には、その山頂はまるで倒しがたいモンスターのように思えた。
「てっぺんまでどれくらいかな」
僕が呟く。
「さあな、一時間もあれば着くだろ」
大隅が楽観的に言った。体力のある彼には、この小さな山は大した敵ではないのかもしれない。
「ここまで来たらしゃあないわね、早くいくわよ」
秋野が言った。大隅が「おう」と相槌を打ち、歩き出す。僕らもそれに続いてほのかに暗い山道へ、足を踏み出した。




