第六章 紅葉の旅 (2)
最初に僕は里奈を迎えに行くことになっている。そのあと、学校の前の公園で秋野、大隅、中津川と合流して、今日の遊びを決める。それがいつものパターンだった。
里奈の家には自転車で三分足らずで着く。僕は彼女の家の前まで来ると、邪魔にならないように自転車を脇に寄せてから、ドアの前まで行ってインターホンを押した。
「はーい」
いつもの里奈の母親と違う、低い声がした。多分父親だろう。土曜日なので仕事が休みなのだ。
「正志です」
「ああ正志君か、ちょっと待っててくれ。今里奈を呼んでくるから」
里奈の父親が里奈を呼ぶ声が、インターホンを通して微かに聞こえてきた。すぐに、どたどたと騒がしい足音が聞こえてきて、ドアが開いた。
「おまたせ」
里奈が出てきた。彼女は家のなかに向かって「行ってきまーす」と言って、ドアを閉めた。
「行こうか」
「うん」
里奈が自分の自転車に乗ったのを確認して、僕も自転車に乗る。目指す公園はここから十分ほどの距離だ。
「出発!」
ペダルを踏み込み、走り出す。今のところは里奈が隣に付けてこられるように、あまりスピードは出さない。九月の涼しげな風が顔に当たり、心地いい。
僕と里奈の家がある住宅街から伸びる長い坂道にたどり着くと、僕はペダルから足を離した。
空を切るように、僕を乗せた自転車が坂道を下っていく。時々ブレーキを掛けて、スピードを調整する。車は来ない。急ブレーキを掛ける必要はなかった。あっという間に坂の終点までたどり着き、僕はゆっくりと自転車を止めた。そして、ゆっくりと坂を下ってくる里奈を待つ。彼女はこういう危険なことには慎重になるタイプだった。ブレーキを掛けつつ、左右に揺れながら坂を下って来る。
「遅いよ」
冗談っぽく里奈にそう言うと、彼女は少し怒ったような口調で反論する。
「正くんが速すぎるんだもん。いつか怪我するからああいうのはやめた方がいいよ」
僕も別に安全確認を怠っている訳ではないが、それは言わないことにした。ここで里奈と喧嘩しても気まずくなるだけだ。僕は彼女に素直に「ごめん」と謝ると、再びペダルに足を乗せた。
「急ごう。もうみんな来てるかも」
「そうね、今日は何か面白いことあるかな」
どうやら機嫌は損ねずに済んだようだ。里奈は気は優しいが、一度へそを曲げるとなかなか頑固なところがある。彼女に喧嘩で勝てたことは、今のところ僕にはない。早めにこちらが折れるのが一番の得策だ。
僕たちはまた並んで、自転車を漕ぎ出した。




