第五章 うたかたの冬 (6)
里奈に言ったことは、なんとなく覚えていた。最初に画家になるという夢を告白したのは彼女に対してだった。その夢はもちろん、今でも変わってはいない。だけど、彼女が桜を好きになった理由が僕にあるなんて思ってもみなかった。気恥しいような、嬉しいような、不思議な感覚だ。
しばしの静寂だった。風の吹く音だけが微かに聞こえる。冷たい冬の音だ。
短いのか長いのか分からない沈黙を破ったのは、里奈の方だった。
「今こんな話をするのは、変だったかな」
「そんなことないさ」
多分、里奈なりの励まし方だったのだろう。嬉しいことがあれば自然とやる気も出てくるものだ。
「そろそろ、帰ろうか」
そう言って里奈が立ち上がる。僕も続いて立ち上がった。
「そうだね」
雪が積もり、薄くなった足跡に再び足跡を重ねて、僕たちは神社を去った。またここにいつ来るかはわからない。だが、また来ることにはなるだろう。多分、二人で。
山を下りながら、里奈が口を開いた。
「ちゃんと勉強頑張んないとね」
「そうだね~。落ちたらどうしよ」
「そうならないために勉強するんでしょ。私も頑張らなきゃ」
「高校か……実感沸かないな」
僕が空に向かって息を吐き、そう言うと里奈も頷いた。
「そうね、幼稚園のころから変わってないみたい」
僕たちは話をしながら、帰り途を辿る。
「受験が終わったら、またあそこに桜を見に行こうか」
僕がそう言うと里奈が驚いたように僕を見て、そして笑った。
「二人とも受かったらね」
「まあ、そうじゃなきゃ行く気にはならないだろうけどさ」
僕も笑った。この短い冬が終わり、桜が咲くころ僕らはどうなっているだろう。今の僕には、まだ分からない。




