第三章 和装の死神 (4)
少女は一番線に通じる階段を登りはじめた。僕もそれに続く。やがてホームに出ると、そこは薄い霧に覆われていた。電車や人の姿は無い。死神は線路の前で立ち止まり、僕の方に振り返る。その濃い紫色の瞳からは何の感情も読み取れない。
「あなた次第で川合里奈の魂が救われるかどうかが決まります。あなたの記憶と行動次第です」
「僕、次第……」
「そう、どうします?今ならまだ引き返せます。あなたは過去の記憶を追体験しながら、手掛かりを見つけていく。それはあなたが避けてきた思い出させることになると思います。それでもいいですか?」
死神と名乗る少女の言うことを、すべて鵜呑みにしたわけではなかった。でも、彼女は里奈が僕を必要としていると言った。誰かに必要とされたのなんて、どれくらい久し振りだろう。例えこれが嘘か真か分からなくても、黙って見過ごそうとは思わなかった。
少しでも里奈の役に立てる可能性があるのなら、あの時何もできなかった僕が、そしてこれまで何もしようとしてこなかった僕が償えるのならば。僕の心は決まった。こんなに強い決心をしたのは久し振りだ。後悔は無い。
「分かった、やってみるさ。それで里奈が救われるのなら」
「そうですか、分かりました。あなたならきっと、彼女を救えるはずです」
少女はそう言って僕に歩み寄ってきた。僕の眼の前で立ち止まり、白く細い手を僕の顔の辺りまで伸ばす。僕は自然に目を閉じた。
「あなたはこれから記憶の旅に出ます。その中に里奈を救うための鍵が散らばっているはずです。では、幸運を祈ります」
少女の中指と人差し指が僕の額に触れた。ひんやりとした感触。その瞬間に僕の視界は真っ白に染まった。体が浮くような不思議な感覚が一瞬して、そのあとすぐに、僕は意識を手放した。
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