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結局彼女はその黒い携帯電話を
耳に押し当てた。
その姿はまるで
犯人を恨みながら銃口を己の頭に
宛てているようだった。
しかし、勿論それは
銃口なわけもなく。
ただの携帯電話である。
スクランブル交差点の信号は
規則正しく色を変え
道ゆく人々は
横断歩道の入り口で立ち止まる彼女を
置いて何を急いでいるのか
歩いてゆく。
「何を話しているんだろう。」
誰と。
何故。
あの美しい顔を歪めさせる人物。
いつだって眉一つ動かさず彼女は生きている。
電話口の先の相手に興味が沸いてくる。
(あ、)
引きはがすように
耳から携帯電話を離した彼女は
そのままその黒い物体を
ガタンッ
(なっ…!)
投げた。
思わず立ち上がってしまった
その僕の動向が
視界の端にでも入ってしまったのか
彼女が視線をこちらにやった。
全てがスローモーション。
彼女の白い五指から
空に向け放たれた
黒い携帯電話は無機質にも重力に反して
上空に登ってゆき
そしてまた物質界の理に従い
落下してくる
ゆっくりと。
登って、今まさに落ちてくる機械など
見向きもせず
長い髪をしならせふわっと
此方に顔を向け始める彼女。
しまったと思う頃には
遅く
動き続ける人混みとショウウィンドウを
隔てたあっちと
こっちで
僕と
彼女は
目があった
ゆったりと。




